全 情 報

ID番号 08112
事件名 金員仮払仮処分命令に対する保全異議申立事件
いわゆる事件名 秋保温泉タクシー(一時金仮払保全異議)事件
争点
事案概要 タクシー業を営むYにおいて、昭和50年に締結されて以来自動更新される労働協約と、毎春の団体交渉を経た協定書により、11年間に渡って基本給を算定基準とした夏期及び年末一時金が支給されてきたなかで、Yは平成11年4月の団体交渉において経営危機を理由に賃金体系の変更と、同年の年末一時金の支給について成果配分とする旨の提案をし、組合側の反対からYがこれを支給しなかったところ、組合員であるXらが、年末一時金を支給する内容の労働協約が成立したとしてその支給を求め仮処分を申し立てたところ却下されたため、Xらが即時抗告をし、原決定がこれを認容したため、今度はYが保全異議を申し立てたケースで、従前と同様に一時金を支給する旨の合意が成立したことを前提とし、それが労基法14条の書面化の要件を満たしていないとしながらも、労働協約に基づく合意であることや確認書の存在等から、欠勤控除をしながらも原決定と同様、被保全権利及び保全の必要性を認めてYによる保全異議申立てを退けた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 2003年1月31日
裁判所名 仙台高
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ウ) 25 
裁判結果 原決定変更
出典 労働判例844号5頁
審級関係 控訴審/08038/仙台高/平13. 2.26/平成12年(ラ)46号
評釈論文 奥野寿・ジュリスト1265号140~143頁2004年4月1日
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 上記(2)の平成11年4月10日における、債務者代表取締役AとB労組委員長C間の本件一時金支給合意は、直接的には労働協約としての賃金協定ではあるが、他面、組合員の個々人の雇用条件に直接かかわる、平成11年夏期及び年末一時金という特定事項の合意であり、かつ、それまで10年もの間支給率が一定で慣行化してきた内容の合意であることから、その合意当事者であったAとCは、債務者とB労組との合意という面を超えて、債務者と債権者である同組合員との間での直接の合意(労働契約)の趣旨を含むことを認識していたものと一応推認できる。そうすると、債務者が、平成11年夏期に一時金を前年通り支給したのは、本件一時金支給合意によって、少なくとも労働契約が成立していると認識していたからに他ならないといえる(平成11年夏期に本件一時金支給合意の一部が履行されたことによって、遅くともこの時点で、債務者と債権者であるB労組組合員との間に、上記合意を内容とする個別の労働契約が成立したものと解することもできる。)。
 よって、債権者らの債務者に対する、本件一時金支給合意、すなわち労働契約に基づく、平成11年年末一時金請求権の成立を一応認めることができる。
 ウ なお、労使間の協定が形式要件を欠き、規範的効力が認められない場合に、私法上の雇用契約(労働契約)の効力が認められるかについては争いがある。この点、上記最高裁判決は直接判断していない。
 確かに、雇用関係の法的安定、労働協約の役割等からすると、一般的に上記の点を肯定することには疑問が残る。
 しかしながら、本件一時金支給合意のように、前年通り支給するとの合意が10年もの間継続し、その協定書でも前年通りとの記載か、または記載されることもなく、支給が慣行化しているような一時金支給について、労使間で同様の合意が成立した場合に、これに私法上の法的効力が認められないとするのは、労働協約の役割を余りに重視しすぎる見解であり、採用できない。