全 情 報

ID番号 08218
事件名 地位保全及び賃金仮払仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 第一交通産業(佐野第一交通)事件
争点
事案概要 タクシー事業等を行っていた株式会社Aの従業員であった債権者Xらが、同社の解散を理由に解雇されたことに関して、タクシー事業等を目的とする株式会社であり全国のタクシー会社を次々と買収しているAの親会社であるYが、法人格否認の法理により、雇用責任を負う旨主張して、〔1〕地位保全、及び、〔2〕賃金仮払いを求めているケースで、法人格否認の法理を、法人格の形骸化の場合と濫用の場合とで区別し、形骸化の場合には事業所(子会社)閉鎖の整理解雇の要件を満たす場合は格別、解散を理由とする解雇は無効であり、労働関係は親会社との間に存続するが、形骸化が否定される場合(濫用の場合)で、解散が真実解散である場合には、解散決議も、解散を理由とする解雇も有効となり、偽装解散である場合には、解散を理由とする解雇は解雇理由を欠く無効なものとなり、労働関係は解散会社と実質的に同一新会社ないし別会社との間で存続することになるとした上で、A及び同交通圏で営業を開始したBについて、Yが両社の企業活動のほぼ全面にわたって現実的統一的に管理支配しているといえるものの、法人格の形骸化とまではいえないとしつつ、AとBの関係は、Aの社会的事業活動がそのままBの営業所の社会的事業として引き継がれており、両社の企業の社会的実態は同一であって、Aの解散とBの営業所開設は、新賃金体系導入にあたって法律上要求される就業規則変更の制限や解雇制限等の諸法理を潜脱回避することを主目的とし、Xら組合員の大多数を放逐することを副次的な目的としたものであり法人格付与の目的に反する目的でなされたものであるから、Aの解散は偽装解散であり、Aとの労働関係は実質的に同一の企業であるBとの間に存続しているとし、また、YはA及びBの法人格を濫用したものと認められるから、Xらは、労働関係上の権利(賃金支払請求権)をAまたはBの営業所、及びYに対しても請求してよいとされた(なお、Xらの請求について、〔2〕につき一部認容、〔1〕につき、保全の必要性は、生活の困窮を避けるという点すなわち賃金仮払いが必要であるという点にあり、地位確認の必要性は認められないとして、却下)事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法10条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 2003年9月10日
裁判所名 大阪地岸和田支
裁判形式 決定
事件番号 平成15年 (ヨ) 30 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例861号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 法人格否認の法理によって生じる効果ないしその意味合いは、法人格の形骸化の場合と濫用の場合とで、若干異なるものと解される。
 すなわち、法人格の形骸化の場合は、同法理は、当該子会社が親会社の一営業部門にすぎないものとみられるという実体をそのまま法理諭的に承認するものにほかならないのであり、この場合、会社(形式上の子会社を一営業部門とする親会社)自体は存続しているものであるから、事業所(子会社)閉鎖による整理解雇の要件を満たす場合は格別、子会社解散を理由とする従業員の解雇は無効であり、子会社(一事業所)との労働関係はまさに親会社との労働関係そのものとしてそのまま存続することになると解されるのである。
 他方、法人格の濫用の場合は、同法理が、一営業部門とはみれ(ママ)ない親子会社について、子会社の行為としてされた法人格付与の目的に反する行為の責任を背後の支配者たる親会社にも追求(ママ)するための法理論として機能する結果、親会社が子会社の責任と同一の責任(不真正連帯責任)を負うとされることがあるが、この場合は、子会社の責任が前提となる。そして、子会社の解散がいわゆる真実解散であり、従業員の解雇も有効である場合には、子会社が負うのは解雇までの未払賃金債務等のみでる(ママ)から、親会社はこれと同一の責任すなわち未払賃金債務等を負うのみとなるのであって、親会社との間に労働関係が存続することにはならないと解されるのである。
 したがって、本件においては、まず〔1〕株式会社Aの法人格が全く形骸化しているか否かを判断する必要がある。
(2) そして、それが否定される場合には、〔2〕A社の解散がいわゆる真実解散か偽装解散か(解散決議の有効無効、本件解雇の有効無効等)を判断する必要がある。
 ア すなわち、会社の解散が解散決議(商法404条)によってなされ、これに伴う解雇がなされた場合、企業主(株式会社の場合は所有者たる株主)は、職業選択の自由・営業の自由(憲法22条)の一環として、その企業を廃止する自由を有するのであるから、その解散が真に企業継続意思を喪失したことによってされた真実のもの(真実解散)である限り、その動機目的の如何にかかわらず(たとえその動機が不当労働行為目的にあったとしても)、その解散決議は有効である。そして、企業が真に解散する以上、労働力は(清算処理上の必要がある場合を除いて)必然的に不要となるのであるから、解散を理由とする解雇も基本的に有効であると解される。
 他方、その解散が、真実企業を廃止するものではなく、不当労働行為等を目的として、廃止に見せかけて新会社ないし別会社に肩代わりさせて実質的に同一の企業経営を継続している場合(偽装解散)は、同一の会社そのものが存続しているものとみることができるから、解散(企業廃止)を理由とする解雇は解雇理由を欠く無効なものとなり、労働関係は解散会社と実質的に同一の新会社ないし別会社との間で存続することになると解される。〔中略〕
 以上のとおりであり、債権者らは、債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあること、及び、平成15年4月16日以降の未払賃金支払請求権(なお、後述の保全の必要性も考慮して仮の地位を定めるに際しては、被保全権利としての未払賃金支払請求権の内容が旧賃金体系によるものか新賃金体系によるものかを判断する必要がない。)を有することが、一応認められる。