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ID番号 08227
事件名 解雇予告手当等請求本訴、損害賠償請求反訴、損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 フジ興産事件
争点
事案概要 化学プラント設計等を目的とする株式会社A社の設計部門のあるセンターに勤務していたX(原告、控訴人、被上告人)が、得意先の担当者らの要望に十分応じずトラブルを発生させたり、上司に暴言を吐くなどとして職場の秩序を乱したことなどを理由に、約2ヵ月前に実施された新就業規則の懲戒規定に基づき、懲戒解雇されたため(同規則につき労働者代表の同意を得て労基署への届出がなされたのは本件解雇の直前であり、それ以前にA社の労働者に同規則が周知されたという証拠はない)、A社の当時の取締役Y1~Y3(被告、被控訴人、被上告人)に対し、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、民法709条、商法266条の3に基づき損害賠償を請求したケースの上告審で、原審は、一審の結論と同様、新就業規則について労働者の同意を得た日以前のXの行為については、同規則と同内容の旧就業規則上の懲戒解雇事由該当性を検討するとしたうえで、旧就業規則は労働者の同意を得て制定・届出された事実が認められる以上、これがセンターに備え付けられていなかったとしても、センター勤務の労働者に効力を有しないとはいえないとし、かかる旧就業規則の懲戒解雇事由が存在するXの本件懲戒解雇を有効としたが、最高裁は、懲戒処分には就業規則上の根拠規定が必要であるところ、就業規則が法的規範として性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、適用をうける事業場の労働者への周知手続が採られていることを要するとし、この点についての認定をしないまま上記結論に至った上記原審の判断は違法であるとして、上記の点等についてさらに審理をつくさせるため、原審を破棄差戻した事例。
参照法条 労働基準法89条9号
労働基準法106条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
裁判年月日 2003年10月10日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (受) 1709 
裁判結果 破棄差戻
出典 時報1840号144頁/タイムズ1138号71頁/裁判所時報1349号1頁/労働判例861号5頁/労経速報1859号3頁
審級関係 控訴審/08043/大阪高/平13. 5.31/平成12年(ネ)2113号
評釈論文 奥野寿・月刊法学教室284号76~77頁2004年5月/牛嶋勉・労働法学研究会報55巻13号34~59頁2004年6月1日/道幸哲也・法学セミナー49巻7号125頁2004年7月/名古道功・判例評論546〔判例時報1858〕196~200頁2004年8月1日/野田進・法律時報76巻9号126~129頁2004年8月/和田肇・ジュリスト1271号116~119頁2004年7月1日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
 原審は、株式会社A社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを大阪西労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。