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ID番号 : 08453
事件名 : 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : モデルマネジメント会社の元取締役らが設立した新会社のモデル引抜き行為に対し、損害賠償と引抜き差止めを求めた事案
事案概要 : モデルのマネジメント等を行うX1社の取締役又は従業員であったY2らが別会社Y1を設立し、X1社のモデル等を大量に引き抜いた結果としてX1社に損害を与えたとして、X1社及び同社代表取締役X2が損害賠償と引抜き行為の差止めを求めた事案である。
 東京地裁は、Y2らが、X1社所属のモデル等を大量に引き抜いて新会社Y1を設立することを計画し、X1社資料から得たモデルに関する情報を利用して、多数のモデルに対し、X1社及び代表取締役X2に対する批判を交えて、在職中の一定期間に集中して、又は退職後かなりの長期間にわたってX1社との契約解消及びY1社との契約締結を勧誘したことは、著しく社会的相当性を欠く不法行為に当たり、Y2らの勧誘行為とモデルの移籍とには相当因果関係があるとして、勧誘を行ったY2らは不法行為に基づく損害賠償義務を負い、Y1社も使用者として損害賠償義務を負うとした。
 ただし、X1社代表取締役X2に対する慰謝料については、X1社への損害賠償が認められればX2の精神的苦痛は慰謝されるとして、また、退職後の競業避止義務を定めるY2らとの誓約書に基づく引抜き行為差止請求については、引抜き行為の危険性がすでになく請求に理由がないとして、ともに棄却した。
参照法条 : 民法709条
民法715条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/使用者/新会社の設立
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/競業避止義務
裁判年月日 : 2005年10月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成14(ワ)10049
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 時報1936号87頁
審級関係 : 控訴審/東京高/平19. 2.28/平成17年(ネ)5637号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則-使用者-新会社の設立〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 (2)ア 上記認定の事実によれば、被告甲野、被告乙山及び被告丙川が多数の原告モデル等に対し、原告会社のモデル資料から得たモデルに関する情報を利用し、原告会社や原告淺井に対する批判を交えて、一定期間に集中し、また退職後かなりの長期間にわたって、原告会社との契約解消及び被告会社との契約締結を勧誘したことが認められるが、このような方法と態様による勧誘行為は、著しく社会的相当性を欠くといわざるを得ず、不法行為に該当すると認めるのが相当である。〔中略〕
 (5) 結局、前記(1)の被告らの主張は、被告甲野らが被告会社でモデルのマネージメントの仕事をすることを前提にしたものと認めるのが相当であり、被告甲野らによる原告会社からの離籍の勧めと被告会社への移籍は不可分であり、単に原告会社に熟練のマネージャーがいなくなったことにより移籍モデルが原告会社を離籍したとは認めることはできず、移籍モデルは、被告甲野らが被告会社を作ってそこで原告会社と同様のモデルエージェンシーの仕事をすることを前提として被告甲野、被告乙山及び被告丙川の勧誘行為があったから、原告会社から被告会社に移籍したものと認められ、被告甲野、被告乙山及び被告丙川の勧誘行為と本件移籍との間に因果関係がないということはできない。証人伊藤聡子及び証人吉田貴礼の各証言によっては、上記の判断は左右されない(モデルがその自由な意思により自らの判断によって移籍するか否かを決定するのは当然のことであり、そのことと被告甲野、被告乙山及び被告丙川の勧誘行為によって本件移籍が行われた、すなわち勧誘行為と本件移籍との間に因果関係があると認めることは矛盾しない。原告モデル等が自由な意思により自らの判断によって平成一三年中に原告会社から離籍したことについて、被告甲野、被告乙山及び被告丙川の勧誘行為が影響を与えていると認められる以上、前記認定の事情の下においては、勧誘行為とモデルの離籍との間に因果関係はあるとするのが相当である。)。
 また、被告甲野らの後任のマネージャーに能力がなく仕事にミスがあったりしてモデルの仕事や収入に影響が出たことが原因となって原告会社から多くのモデルが離籍したとの主張については、前記(1)で認定した被告甲野ら退社後の原告会社のスタッフ補充の事実や原告淺井の供述及び証人亜輝郎の証言などに照らして採用することはできず、他に上記の被告らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。被告らの主張は、採用しない。
 (6) 以上から、被告甲野及び被告乙山、被告丙川は、原告会社に対して前記認定の違法な引抜きによって生じた損害を賠償する義務を負い、被告会社もその従業員である被告乙山及び被告丙川が行った不法行為によって原告会社に生じた損害について使用者として民法七一五条により損害賠償義務を負うというべきである。〔中略〕
 四 原告淺井の損害賠償請求について
 前記認定の事実及び《証拠略》によれば、原告淺井においては、被告甲野、被告乙山及び被告丙川の不法行為によってかなりの精神的苦痛を受けたことが認められるが、前示のとおり原告会社の損害賠償請求が認められることによって、この精神的苦痛は相当程度慰謝・軽減されるべき性質のものであることを考慮すると、原告淺井の受けた精神的苦痛はなお受忍限度の範囲内のものとするのが相当であり、同原告の個人としての損害賠償請求を認めることはできない。
 五 本件誓約書の有効性及び差止め請求の当否について
 原告淺井の本人尋問の結果によれば、被告会社又は被告甲野らから原告モデル等に対する引抜き行為の危険性は現在は存在しないことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 そうすると、本件誓約書の有効性について判断するまでもなく、本件誓約書に基づく引抜き行為等の差止め請求は理由がないことに帰する。