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ID番号 : 08474
事件名 : 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 : 消費者金融会社(セクハラ等)事件
争点 : 消費者金融会社の女性従業員が、上司から受けたセクハラについて損害賠償を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 消費者金融会社の女性従業員が、会社の上司である課長から、(1)勤務時間中の職場で抱きつかれたこと、(2)勤務時間終了後の食事会で身体接触を受けたこと、及び(3)これらに抗議したところ退職を迫るような言動(パワー・ハラスメント)を受けたこと、など一連のセクシャルハラスメントを受けたとして、上司及び会社を相手取り、損害賠償を求めた事案である。
 京都地裁は、課長については(2)及び(3)の事実が認められるため不法行為が成立し、また、会社については、適切な調査や対応の懈怠などの職場環境配慮義務違反は認められないものの、課長の行為につき民法715条の使用者責任を負うとして、請求の一部を認容した。
参照法条 : 男女雇用機会均等法21条(現11条)
民法415条
民法709条
民法715条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 : 2006年4月27日
裁判所名 : 京都地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)761
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴(後控訴取下))
出典 : タイムズ1226号171頁/労働判例920号66頁
審級関係 :  
評釈論文 : 高橋賢司・労働法学研究会報58巻20号20~25頁2007年10月15日
判決理由 : 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 (1) 原告は、被告丙川が平成16年5月ころより、勤務時間中、原告に「おはよう」、「調子どうや」などといいながら原告の肩、髪、背中を撫でるといった身体的接触を頻繁に続けた旨主張し、それに沿う供述をする。同供述に証拠(乙5)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告丙川が原告とのコミュニケーションを採るため勤務時間中に他のCMと同様に挨拶などを交わした際、原告の肩をたたくなどしたことがあるが、それに対して原告が快くない思いを抱いたことが窺われる。しかし、本件全証拠によるも、原告は、被告Yに対し、本件の原告訴訟代理人を通じて内容証明郵便で上記具体的な主張するまで、同主張をしたことを認めることができないところ、仮に、被告丙川が原告が主張するような身体的接触を頻繁にしていたとすると、原告の勤務時間中の場所、位置関係からすると、毎回ということまではいえないもののある程度の回数で被告丙川の原告に対する必要以上の接触状況が目撃されるはずであるが、原告以外の他のCMなどにより同状況を目撃した旨の書証などもなく、原告が良く話をしていたとする庚町の陳述書(甲8、13、15)、同人からの聞取(乙1、2)にも一切そのことが触れられていない。そうすると、原告の上記主張に沿う供述部分はにわかに採用しがたく、その他、それを認めるに足りる証拠はない。
 (2) 原告は、被告丙川が同年5月ころ、勤務時間中、原告を呼び出し、コンタクトセンター2階の女子トイレ横の部屋で、後ろから抱きつき、無理矢理身体を触った旨主張し、それに沿う供述をし、それに沿う証拠として庚町の陳述書(甲8、13)がある。しかし、仮に、原告と被告丙川を含めた多数の社員の勤務時間中に、原告主張のようなことがあり、原告が声を出せば、同行為があった場所付近には多くのCMなどがいて大変な騒ぎとなり、問題となることが予想されたところ、そのような行為を被告丙川が敢えて行ったのか、疑問が残るうえ、原告が供述するように同部屋の扉が閉められて真っ暗になり、抱きつかれたとすると、原告は、咄嗟に目の明るさの調整ができないため眼前が見えなくなり、容易に扉を開けることができたか、疑問が残る。仮に、同扉を開けることができたとしてもあわてて扉を開けたはずであるから、その近くにいた庚町以外の周囲の者が気付いたはずであるが、それを裏付けるに足りる証拠はない。また、原告は、同主張に係る被告丙川の上記抱きつきについて、その直後に庚町に述べたとはいうものの原告がその時点で被告Yに申し出たり、警察に届け出たり殊更そのことを問題としたことが窺えないこと(証人丁木、弁論の全趣旨)、また、それ以後においても、本件の訴訟代理人を通じて上記内容証明郵便(甲6の〔1〕)で申し出るまでは被告Yに対してそのことを申し出たと認めるに足りる証拠がない。以上の事実などを踏まえると、原告の上記主張に沿う供述部分は採用できず、したがって、原告の上記主張に係る被告丙川の行為があったとまで認めることはできず、その他、それを認めるに足りる証拠はない。
 (3) 原告は、被告丙川が同年6月24日、「魚玄」での食事会の際、原告の股や太ももあたりを撫で回したり、自分の足を原告の足に乗せようとしたりし、また、その際、「単身赴任は寂しいものよ。」「家で待っている愛人が欲しい。」などと言ったりした旨主張する。被告丙川は、本人尋問の中でそれを否定する供述をする。しかし、当日の食事会の会場は狭かったところ、被告丙川は、あえて原告と隣の者の間に割り込み、原告の体と触れ合うような状況になったこと、原告は、被告丙川が隣に座っていた際で、その食事会の途中で席を立っていること、当時、被告YのCMなどの間では被告丙川の飲み会(食事会)でのセクハラが話題になっていたことがあり、女性CMの間でそれに注意するよう喚起されていたこと、現に、被告丙川は、平成16年9月24日、女性CMに食事会後の2次会の席でキスをしたり、キスを強要したり、抱きついたりなど、また、「俺とつき合え」、「今日は(単身赴任であった被告丙川のマンションに)泊まっていけ」「やらせろ」などいったりしたことがあった。以上の事実に原告の上記主張に沿う証拠(同席者の陳述書など〔甲8、10、13、15、乙1、2〕及び原告本人)を総合すると、原告の上記主張に沿う事実があったことが認められる。〔中略〕
 (4) 原告は、被告丙川が同年11月17日、「つぼ八」での食事会の際、原告の股や太ももあたりを触った旨主張する。被告丙川は、本人尋問の中でそれを否定する供述をする。確かに、この席上で、原告が被告丙川に対して「エロおやじ」と叫んだか、それを認めるに足りる証拠まではないが、被告丙川は、この食事会の際もあえて、原告の隣に割り込むようにして座ったこと、原告は、被告丙川が隣に座っていた際で、その食事会の途中で席を立っていること、当時、被告YのCMの間では被告丙川の飲み会(食事会)でのセクハラが話題になっていたことがあり、女性CMの間ではそれに注意するよう喚起されていたこと、現に、被告丙川は、平成16年9月24日、女性CMに食事会後の2次会の席で上記記載したとおりのセクシャルハラスメントを行っていたことがあった。以上の事実に上記認定した6月24日の出来事を踏まえると、原告の上記主張に沿う事実があったことが認められる。被告丙川のそれを否定する上記供述部分は同記載した各事実及び原告の同記載事実に沿う供述部分に照らして採用しがたく、同認定を覆すに足りる証拠はない。〔中略〕
 (6) 原告は、被告丙川が勤務時間中の同年12月2日午後0時40分ころ、原告に対し、「僕を誹謗中傷しているらしいな。君の悪い噂がぽっぽっぽっと出てるぞ。ここにいられなくなるぞ。」などと原告を退職に追いやる言動を行った旨主張する。ところで、被告丙川は、原告が主張するような言動を行ったことはない旨供述をする。しかし、被告丙川は、原告に対し、上記(3)(4)で認定したセクシャルハラスメントを行い、それについて原告が不快な思いを募らせていたこと、原告は、被告丙川と直接面談をして話をした同月2日から間もない同月6日、不眠、神経過敏、食欲不振などの心因反応から精神を専門とする医師の診察を受け、同医師にその症状の原因として上司とのトラブルである旨訴えていること、原告は、精神的・身体的状況が酷く、同日から被告Yでの勤務を休まざるを得なかったこと、また、原告は、同月10日、丁木課長を電話で話をしているが、その際にも今回の精神的・身体的症状について上司(被告丙川)とのトラブルが原因であることを話していること、その後、原告の同症状は年末から年明けにかけてさらに悪化し、直接電話で話もできないような状況となったことがあるところ、以上の事実からすると、被告丙川は、原告に対し、必ずしも原告に退職をしなければならないような事由(言動)がなかったにもかかわらず、原告に対し、少なくとも、「君の悪い噂がぽっぽっぽっと出てるぞ。ここにいられなくなるぞ。」などと原告に対して圧力をかけ、原告をして退職を迫られたように受け止める言動を行ったことが認められ、それを覆すに足りる証拠はない。