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ID番号 : 08505
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 関西金属工業事件
争点 : 経営改善策の一環として解雇された金属加工業会社の従業員らが地位の確認等を求めた事案(労働者側勝訴)
事案概要 : 金属加工業会社の従業員らが、希望退職者募に応募しなかったこと、いわゆる変更解約告知に同意しなかったことを理由に解雇されたのに対し、地位の確認等を求めた事案である。
 大阪地裁は、厳しい経営状況下で一定の人員整理が必要であったことを認めた上で、変更解約告知後の不採用人数がその必要性を超えており、また労使間の手続の相当性の点においても合理的でなかったと判断し、解雇無効として請求を認めた。
参照法条 : 労働基準法18条の2
体系項目 : 解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
裁判年月日 : 2006年9月6日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)4749
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : タイムズ1239号244頁/労働判例929号36頁/労経速報1959号3頁
審級関係 : 控訴審/大阪高/平19. 5.17/平成18年(ネ)2609号
評釈論文 : 山本陽大、土田道夫・同志社法学59巻3号335~363頁2007年9月野川忍・ジュリスト1344号99~103頁2007年11月1日
判決理由 : 〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 2 本件解雇の有効性
 (1) 本件変更解約告知とその後予定されていた整理解雇との関係
 前記1(4)イ(イ)のとおり、被告は、本件変更解約告知の行使に当たって、その対象とされた従業員が本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても、採用されない場合があることを明示していたことが認められる。
 この点について、被告は、本件計画は本件変更解約告知と整理解雇を組み合わせたものではあるものの、それぞれは単体として独立したものであり、本件解雇は、第1段階としての本件変更解約告知に応じなかったために行われたものであって、第2段階としての整理解雇は発動されていない旨主張する。また、被告代表者は、後にやむをえず整理解雇がされる場合がありうることはともかくとして、本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した者は、一旦は全員採用される予定であった旨供述し(〈証拠略〉、被告代表者)、この供述は、この被告の主張に沿うものと考えられる。
 しかし、前記1(4)イ(イ)で認定したとおり、被告作成の本件変更解約告知の通知文書においては、本件変更解約告知により解雇される日(平成16年5月20日)と同一の日において整理解雇がされることが予定されており、このような整理解雇が行われることによって新規採用の応募に対する採用決定がされないことがありうる旨が明記されていた。また、被告は、平成16年3月26日、本件変更解約告知の対象者に対して、「選定(残留)基準について」と題したアンケート用紙を配布し、同アンケートの記載内容により選定を行うことを説明していた(前提事実(2)ウ参照)。これらの事情によれば、整理解雇が、本件変更解約告知とは独立したものとして予定されていたと認めることはできない。
 そして、前記1(5)の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件変更解約告知の対象者の全員がこれに応じて新規採用に応募した場合であっても、被告は、そのうちの6名については採用しないことを予定していたことが認められる。
 (2) 人員整理の必要性
 ア ところで、労働契約を解約(解雇)するとともに新たな労働条件での雇用契約の締結(再雇用)を募集すること(いわゆる変更解約告知)が、適法な使用者の措置として許される場合はあろうが、本件のように、それが労働条件の変更のみならず人員の削減を目的として行われ、一定の人員については再雇用しないことが予定されている場合には、整理解雇と同様の機能を有することとなるから、整理解雇の場合と同様に、その変更解約告知において再雇用されないことが予定された人員に見合った人員整理の必要性が存在することが必要となると考えられる。
 すなわち、人員の削減を目的として本件のような変更解約告知が行われた場合に、変更解約告知に応じない者が多数生じたからといって、人員整理の必要性により本来許容されるべき限度を超えて解雇が行われることは許されないというべきである。
 なお、この点について、被告は、変更解約告知による解雇の場合、変更解約告知を受け入れるか否かのイニシアティブは労働者の側にあるから、厳密な意味での被解雇者の人数に相当する人員削減の必要性は考慮要素とされるべきでない旨主張する。しかし、本件変更解約告知のように、これに応じて新規採用に応募した場合であっても採用されないことが予定されていたときには、労働者の側に被告主張のようなイニシアティブがあったとは認めがたいから、この被告の主張を認めることはできない。
 イ 前記1(1)ないし(3)のとおり、本件解雇の当時の被告の経営状態は、相当額の営業損失が計上されており、売上高に対する人件費率も高率であって、現預金を減少させながら営業を維持させていた状況であったことが認められる。
 したがって、被告がその当時に借入金債務を負担しておらず、固定資産として約3億円を計上しており、遊休資産として社員寮があったことや、費消可能な現預金が約3億円強あったこと(前記1(3)イ)、また、被告においては、本件解雇後に新たに9名の人員の補充がされていたこと(〈証拠略〉、原告A、被告代表者)を考慮しても、前記のような営業損失の規模や人件費率の状況からすると、本件解雇の当時には、被告においては人件費を削減する必要性が高かったものと認められる。
 ウ しかしながら、仮に被告の主張する事実関係を前提にした場合であっても、本件解雇の当時において人員削減の必要性が認められるのは、6人を超えない限度であって、本件解雇のように10名を削減する必要性があったことについての主張立証はされていない。〔中略〕
 そうすると、本件解雇においては、本件変更解約告知において削減された人員に見合った人員整理の必要性があったとは認めることができないこととなる。
 (3) 手続の相当性
 また、前記1(5)記載の事実によれば、被告は、本件計画の説明に当たって、6名の人員を削減する必要性があることを説明したにとどまるのであって、その説明した人員削減の必要性の範囲を超えて、原告ら10名について本件解雇を行うことは、労使間の手続の相当性の点においても合理性を欠くと考えられる。
 (4) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は無効であると認められる。
 なお、仮に6名までの人員整理の必要性が認められたとしても、原告らに対する本件解雇は同一の理由に基づいて同一の機会に行われており、特定の6名を選定する作業が実際に行われていない以上、本件解雇全てを無効と認めるしかないというべきであり、特定の6名の解雇を有効とし、残りの4名の解雇だけを無効とすることはできない。
 また、前記(2)ウのとおり、一定程度の人員整理の必要性が認められるものの、実際に何名までの人員整理の必要性があったかについては、前記の結論を左右するものではないので、それ以上の検討はしないこととする。
 第4 結論
 1 このように、本件解雇は無効であるから、原告F以外の原告らは、被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることとなり、また、前提事実(4)記載の事実により、平成16年6月支払分以降の賃金債権(賃金月額は別紙賃金目録記載のとおり)を有することとなる。
 また、原告Fについては、平成16年6月支払分から平成17年5月15日(定年退職日)までの賃金債権(賃金月額は別紙賃金目録記載のとおり52万7210円)を有することとなるが、平成17年4月21日から同年5月15日までの25日分(同年5月26日支払分)は、日割計算をすると、〔中略〕43万9342円となる。