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ID番号 : 08516
事件名 : 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 : JR西日本(可部鉄道部・日勤教育)事件
争点 : 電車運転士に対する日勤教育の正当性と、上級管理者等の言動が不当労働行為に当たるか否かが争われた事案(労働者一部認容)
事案概要 : Y社Y2が、Xの操作上の落ち度を指導したところXが反抗的な言動をとったため日勤教育を課し、さらに懲戒処分としたところ、これは懲戒権の濫用であり、またY1のXらへの言動は不当労働行為に当たるとして、Yらに、懲戒処分の無効確認、共同不法行為及び使用者責任に基づく損害賠償を請求した事案の控訴審判決である。
 第一審広島地裁は、Xの言動を非違行為と認めて日勤教育を適法とし、他方、知悉テスト合格後の日勤教育は不当労働行為に当たり違法とした。また、Xへの懲戒処分は適法と認め、Y1の発言等は支配介入で不当労働行為とするなど双方の主張を一部認容したため、両者が控訴。これに対し第二審広島高裁は、〔1〕Xの非違行為についてY2の指導の合理性を認め、Xの指揮命令系統違反を認定、さらにこれに基づく懲戒処分も適法とした。〔2〕日勤教育については、Xの行為を故意で悪質として教育の必要性を認め、方法論としても相当程度の合理性を有するとしたが、〔3〕知悉テスト合格以降の日勤教育及びY1による組合脱退慫慂等の行為は不当労働行為に当たり違法とし、これら行為はそれぞれXの人格権、X1組合等の団結権を侵害する不法行為であるとして、Xの諸手当に対する損害、X又はX1組合らへの慰謝料、弁護士費用等の支払いを認めた。
参照法条 : 労働基準法89条
労働組合法7条3号
民法709条
民法715条
民法719条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/従業員教育の権利
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/信用失墜
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/服務規律違反
裁判年月日 : 2006年10月11日
裁判所名 : 広島高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)34
裁判結果 : 一審原告控訴一部認容・一部棄却、一審被告控訴棄却(上告)
出典 : 労働判例932号63頁
審級関係 :  
評釈論文 : 藤内和公・民商法雑誌137巻3号110~120頁2007年12月
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-服務規律違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
 NO1運動の取組みの対象であった信号確認とは、列車を運転しているときに行われるものであるから、可部鉄道部では白手袋を着用して列車を運転することがNO1運動の取組みとして業務の内容となっていたというべきである。また、厚生業務規程の文言からすれば、一審被告会社から運転士に貸与された白手袋が同規程35条の「被服類」に該当しないとする理由はないし、同条ただし書に規定される「特に認めた場合」に該当する事情も見当たらない。そして、白手袋を着用して運転していたとする陳述書を可部鉄道部の一審原告組合所属の運転士の多くが作成し提出したことを勘案すれば、可部鉄道部の運転士のほとんどが白手袋を着用して列車を運転していたと推測される。これらからすれば、白手袋を着用して運転すべき旨を内容とする一審被告Cの指導は、合理性を有するということができる。
 (イ) 〔中略〕一審被告会社広島支社では、原則として右手で指差喚呼するが、ブレーキ弁ハンドルを操作しているときには例外として左手で指差喚呼するよう指導されていたこと、一審被告Cは一審原告Aに対して本件の1年半以上前である平成12年5月11日の春の面談で、列車停車中には左手で指差喚呼を行わないように指導していたことがそれぞれ認められる。〔中略〕
 (ウ) そして、本件における問題は、白手袋を着用することや、指差喚呼を右手で行うことに真実合理性や科学的必然性があるか否かということではなく、一審原告Aが一応の合理性を有する一審被告Cの指導に特段の理由なく反発し反抗的態度をとったか否かということであって、〔中略〕一審被告Cの指導は一応の合理性を有しており、業務命令の範囲内にあると考えられるから、特段の理由がないのにこれに一審原告Aが反発・反抗した以上、一審原告Aにつき就業規則で定められた指揮命令系統に反したとの非違行為を認めるのが相当である。〔中略〕一審原告Aには就業規則上の指揮命令系統に反したとの非違行為が認められるが、〔中略〕これら一審原告Aの所為はヒヤリハットなどといった過失に基づくものではなく、上司の指導に対し反発・反抗したという故意に基づくもので、態様が過失行為に比してより悪質であるといわざるを得ない〔中略〕。また、旅客運輸鉄道を業とする一審被告会社では、経営理念として客本位のサービス提供を掲げ(〈証拠略〉)、旅客の信頼確保を行動規範としているところ、〔中略〕本件における一審原告Aの言動は一般乗客からの苦情を招来するなど、その信頼を裏切りかねないものであった。これらからすれば、一審原告Aを教育する必要性は十分に認められるというべきであって、一審原告Aの勤務種別を変更するについての業務上の必要性を認めることができるから、本件日勤教育は必要性を欠いており違法であるという一審原告らの主張は採用できない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-従業員教育の権利〕
 本件日勤教育は一審原告Aを教育する目的で行われもので相当程度の合理性を有する(ただし、平成14年2月7日以降の日勤教育については同月6日以前の日勤教育に比して合理性、必要性に疑問があることは後述)と認めるのが相当である。〔中略〕本件日勤教育の初日である平成13年12月26日から部長面談において一審被告Bの発言中には脱退慫慂等の支配介入があり、不当労働行為意思が推認されるが、〔中略〕その前日に一審原告Aは非違行為を行い、その具体的態様も上司である一審被告Cの指示に反発して反抗的態度を取るというものであって、過失行為に比してより悪質で、一般乗客からの苦情も出ており、一審原告Aを教育する必要性は十分にあり、一審原告Aの勤務種別を変更する業務上の必要性が認められることから、一審原告Aに反省を促し、再発防止の観点から教育を行う目的で一審被告Bにおいて一審原告Aを日勤勤務に指定してすることを決めたものであって、本件日勤教育の開始は、不当労働行為意思に基づくものではなく、正当な教育目的に基づくものであったというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 平成14年2月6日までの本件日勤教育は、正当な教育目的から実施された合理的理由を有するものであり、不当労働行為意思に基づくものではないというべきである。他方、同月7日から同年3月4日までに実施された本件日勤教育については、教育目的という合理的理由は存しないのであるから、不当労働行為意思に基づくものであったといわざるを得ず、不当労働行為に該当し、一審被告会社及び一審被告Bの業務命令権を逸脱濫用するものとしても違法というべきである。
 また、同月6日以前における一審被告Bによる前記認定の支配介入行為は、不当労働行為であるとともに、一審被告会社及び一審被告Bの業務命令権を逸脱濫用するものであり、違法というべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-服務規律違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
 〔中略〕一審被告会社の就業規則3条、48条によって、一審原告Aは上司たる一審被告Cの指揮命令系統に服すべきところ、一審被告Cの指示に従わずに反発・反抗した非違行為を行ったことが認められる。したがって、就業規則3条、48条の規定に違反したことになるので「法令、会社の諸規程等に違反した場合」、「上長の業務命令に服従しなかった場合」という懲戒事由に該当することになる。また、一審被告会社は安全・正確な輸送の提供、客本位のサービス提供を経営理念とする鉄道業を営む者である(〈証拠略〉)ところ、一審原告Aの所為は、〔中略〕旅客からの苦情を招くなど、その信頼を損ないかねないものであったから、「職務上の規律を乱した場合」という懲戒事由にも該当するというべきである。
 そして、本件懲戒処分は、〔中略〕所定の手続に従ってなされたと認められる。
 したがって、本件懲戒処分は適法である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 (1) 本件日勤教育の平成14年2月6日以前の時期における一審被告Bによる個々の支配介入行為が、不当労働行為に該当すると同時に業務命令権を逸脱濫用するものであることは既に判示したとおりであり〔中略〕、この行為は、一審原告組合及び一審原告組合広島地本の団結権等を侵害するものとして両一審原告に対する不法行為が成立するだけでなく、一審原告Aの人格権を侵害するものとして同一審原告に対する不法行為も成立する。
 そして、平成14年2月7日以後の時期における一審被告B及び一審被告会社による本件日勤教育の再開継続もまた、不当労働行為に該当すると同時に業務命令権を逸脱濫用するものであることは既に判示したとおりであって〔中略〕、この行為も、一審原告組合及び一審原告組合広島地本の団結権等を侵害するものとして両一審原告に対する不法行為が成立するだけでなく、一審原告Aに対する不利益取扱いであって同一審原告の人格権を侵害すると共に経済的不利益を与えるものとして同一審原告に対する不法行為も成立する。