全 情 報

ID番号 : 08529
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 情報・システム研究機構(国情研)事件
争点 : 非常勤公務員の任用更新拒絶の効力と、任用継続への期待権侵害に対する不法行為の成否が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 国の公法人Yに非常勤として1年ごと13回にわたり任用されてきたX1が、14回目の任用を拒まれたことから、労働契約上の地位確認と期待権侵害に対する慰謝料の支払い等を、また、X2組合が団体交渉権侵害に対する損害賠償を求めた事案の控訴審である。
 第一審東京地裁はX1の請求を認容、X2の請求を棄却し、Y・X2双方が控訴。第二審東京高裁は、本件勤務関係が私法上の労働契約関係又はこれと同質のものであるというX1の主張は前提として失当であり、仮にX1が主張するような採用時の状況、任用が繰り返されてきたとする事情が認められたとしても、それによって公法上の権利関係である期限付き任用という本件勤務関係が、実質的に期限の定めのない雇用関係に変化することはあり得ないとし、また、解雇権濫用法理を類推して不再任を無効とすることは、法に規定がないものに行政処分として任用行為を要求する権利を付与するといった法解釈の限界を超えるもので到底容認できず、X1の再任用への期待は主観的な事実上のもので法律上保護されるものではなく、Yがその期待を無理からぬものとするような行為をしたという特別な事情も存しないとしてX1の請求を棄却、X2については控訴を棄却した。
参照法条 : 国家公務員法108条の2
国家公務員法108条の5第3項
国家公務員法108条の3第4項ただし書
民法709条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/非常勤国家公務員・地方公務員
労働契約(民事)/成立/成立
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2006年12月13日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)2163
裁判結果 : 一審被告控訴認容(原判決一部取消)、一審原告控訴棄却(上告)
出典 : 労働判例931号38頁/労経速報1957号16頁
審級関係 : 一審/東京地/平18. 3.24/平成16年(ワ)5713号
評釈論文 : ・季刊地方公務員研究89号58~75頁2007年6月野本夏生・労働法律旬報1670号10~13頁2008年4月25日
判決理由 : 〔労基法の基本原則-労働者-非常勤国家公務員・地方公務員〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
〔労働契約-成立-成立〕
 前記第2の1の当事者間に争いのない事実(2)に証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、学術情報センター及び国情研の各所長は、国家公務員法附則13条、人事院規則8―14に基づき、時間雇用の非常勤職員として雇用期間を定めて原告甲野を任用した事実が認められる。そして、学術情報センター及び国情研は国の機関であり、その職員は国家公務員であるところ、国家公務員の任用は、国家公務員法及び人事院規則に基づいて行われ、勤務条件について公法上の規制に服することを前提とする公法上の行為であって、これに基づく本件勤務関係が公法上の任用関係であることは明らかである。なお、仮に原告甲野の主張するような担当職務の内容、採用されたときの状況及び任用が繰り返されてきたことなどの事情が認められたとしても、そのような事情によって公法上の任用関係である本件勤務関係が私法上の労働契約関係と同質のものであると考えることはできないというべきである。
 したがって、本件勤務関係が私法上の労働契約関係又はこれと同質のものであることを前提とする原告甲野の主張は、その前提において失当であり、理由がない。〔中略〕
 学術情報センター及び国情研の各所長は、国家公務員法附則13条、人事院規則8―14に基づき、時間雇用の非常勤職員として雇用期間を定めて原告甲野を任用したものであるところ、国家公務員の任用は国家公務員法及び人事院規則に基づいて行われる公法上の行為であって、これに基づく本件勤務関係が公法上の任用関係であることは明らかである。そして、その任用形態の特例及び勤務条件は細部にわたって法定されているのであって(〈証拠略〉)、当事者の個人的事情や恣意的解釈によってその規制内容をゆがめる余地はなく、原告甲野の非常勤職員としての地位はその雇用期間が満了すれば当然に終了するものというほかないのである。そうすると、本件勤務関係が実質的に期限の定めのない雇用関係であったとはいえず、本件勤務関係には、原告甲野の主張する解雇権濫用法理の類推適用を許容し得るような事情、すなわち有期雇用関係における雇止めが解雇権濫用と評価されるための前提事情を観念する余地はないというべきである。なお、仮に原告甲野の主張するような担当職務の内容、採用されたときの状況及び任用が繰り返されてきたことなどの事情が認められたとしても、そのような事情によって公法上の任用関係である期限付き任用の本件勤務関係が実質的に期限の定めのない雇用関係に変化することはあり得ないというべきである。〔中略〕
 したがって、本件勤務関係に解雇権濫用法理が類推適用されることを前提とする原告甲野の主張は理由がない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-非常勤国家公務員・地方公務員〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告甲野は、平成元年5月1日に学術情報センターの職員に任用された際、学術情報センターが国の機関であり、時間雇用の非常勤職員として任用されることを認識していた上、雇用期間を明示した人事異動通知書及び勤務条件を明示した書面の交付を受けたのであるから、面接の際、担当する職務が一般事務及びパソコンを使用した事務であり、採用されたら長く勤めてほしいと説明を受けたため、雇用期間満了後も再任用されるとの期待を抱いたとしても、その期待は主観的な事実上のものにすぎず、雇用期間満了後の再任用が法律上保護されるべきものであるということはできない。そして、そのような原告甲野が当初の学術情報センターに任用された際の事情に加えて、その後学術情報センター及び国情研に再任用された都度、雇用期間を明示した人事異動通知書及び勤務条件を明示した書面の交付を受けていたものであることにかんがみれば、原告甲野が、平成2年から平成14年までの間13回にわたり再任用されたため、平成15年3月31日の雇用期間満了後も自分は再任用されるとの期待を抱いたとしても、その非常勤職員としての地位はその雇用期間が満了すれば当然に終了することを認識していたというべきであるから、上記の期待は主観的な事実上のものにすぎず、これが法律上保護されるべきものであるということはできない。
 また、本件全証拠によっても、学術情報センター及び国情研において、原告甲野に対し、同人が雇用期間満了後も再任用されると期待することが無理からぬものとして認められるような行為をしたというような特別の事情は存在しない。〔中略〕
 本件不再任用は、原告甲野が雇用期間満了後も再任用されるとの合理的期待を侵害する違法なものということはできないから、不法行為を構成するものではない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-非常勤国家公務員・地方公務員〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告組合は、平成15年3月3日に人事院の職員団体の登録が完了するまでの間、職員団体の登録が未了であったから、国情研が、原告組合が国家公務員法上の職員団体であり、交渉の当事者としての適格性を有するか否かを判断するための資料を提示してほしい旨を回答したのは正当なものということができる。そして、国情研が、平成15年2月6日、同月10日及び同月19日付けの書面による団体交渉の申入れに対し、人事院に確認の結果、原告組合について職員団体の登録が未了であったため、原告組合が国家公務員法108条の2に規定する職員団体であるか否か、すなわち、国家公務員たる職員が主体となっているかどうか、その目的とするところが勤務条件の維持改善を図ることにあるかどうか、団体の重要事項の決定が民主的な手続で行われることとなっているかどうか等、原告組合が交渉の当事者としての適格性を有するかどうかを判断するに足りる資料の提出によってこれを確認することができるまで交渉には応じられないとしたのは正当であり、原告組合主張のように、速やかに予備交渉の日取りを決め、原告組合が職員団体であるか否かの確認を予備交渉の場で行うという対応をしなかったからといって、国情研の対応を違法なものと評価することはできない。また、上記(1)に認定のとおり、国情研は、原告組合が「国家公務員たる職員が主体となってその勤務条件の改善を図ることを目的として組織された団体であり、交渉内容がその趣旨に適合しているものであること」を提示してほしい旨を回答しているのであり、それ以上に職員団体であるか否かを確認するためにどのような資料を提示すればよいかについて指示をすべきであったとまでいうことはできず、そのような指示がなかったことをもって国情研の対応を違法なものと評価することはできない。〔中略〕
 したがって、国情研が平成15年3月31日までの間原告組合との間で本交渉を行わなかったことを違法ということはできない。〔中略〕
 (5) そうすると、国情研は、原告組合の団体交渉の申入れに対して正当に対応したものであり、団体交渉義務に反して団体交渉を拒否したということはできないから、国情研の原告組合に対する対応について不法行為が成立するとはいえない。