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ID番号 : 08541
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 朝日新聞社事件
争点 : 翻訳等を行っていた者と新聞社との契約関係が雇用契約と認められるか否かが争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 : Y新聞社で翻訳等を行っていたX1ら3名が、契約打切りを通告したY社との契約関係が雇用契約であるとして、Y社に対し雇用契約上の雇用期間の定めのない労働者としての地位の確認と賃金の支払いを求めた事案である。
 東京地裁は、まず、X1らが業務を開始するに当たり、Y社の入社試験を受けておらず、業務を行う日時・場所を自ら自由に設定できたこと等から労務提供における指揮監督が認められないとし、次いで、X1らに対する原稿料という名目の報酬が勤務時間に応じて支払われておらず、また、給与所得としての源泉徴収や雇用保険等が徴収されていなかったこと等から、報酬における労務対価性が認められないとした。
 さらに、X1らがY社以外からも報酬を得ていたこと、Y社社員に適用されるべき就業規則他の服務規程がX1らには適用されなかったこと等から、X1らとY社との関係は労働基準法の適用を受ける労働契約関係とは認められないとしてX1らの請求をすべて棄却した。
参照法条 : 労働基準法9条
民法623条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/労働者の概念
労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
労基法の基本原則(民事)/労働者/ライター
裁判年月日 : 2007年3月19日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)14552
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例951号40頁/労経速報1974号3頁
審級関係 : 控訴審/東京高/平19.11.29/平成19年(ネ)2238号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則-労働者-労働者の概念〕
〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
〔労基法の基本原則-労働者-ライター〕
 1 原告Aについて〔中略〕
 原告Aが被告の入社試験を受けたことはなく、このような資料の提出を求められることもなかったこと、また、被告は、入社試験を受けずに稼働している者を社員として登用することはないこと、このため、被告の社員のFは、原告Aに対し、どんなに頑張っても社員になることはあり得ないので、他にいい職場があればすぐに行った方がよいとアドバイスしていたことが認められ、原告Aが業務を開始するに際して社員と異なる扱いを受けており、原告Aもこれを認識していたことは明らかである。〔中略〕
 このような事情からすれば、翻訳や執筆をする記事の選択や、外部取材を行うか否かについて原告Aの意向が尊重されており、原告Aには、これらの点についての諾否の自由があったと見ることができる。〔中略〕
 そうすると、原告Aの出勤日や業務を行う時間についての拘束は、もともとかなり緩やかなものであったし、遅くとも平成一一年四月ころ以降においては、原告Aは、自由に業務を行う日時や場所を自ら設定することができたと見ることができる。〔中略〕
 のみならず、原告Aの供述及び弁論の全趣旨によれば、取材などで出張する場合の費用等の取扱いに関して、原告Aが社員と異なる扱いを受けていたこと、原告Aに支払われる原稿料については、給与所得としての源泉徴収や、雇用保険、厚生年金、健康保険の保険料徴収はされておらず、税金の申告も、原告A自らが青色申告していたことが認められる。
 このような事情からすれば、報酬における労務対価性を肯定することはできないというべきである。〔中略〕
 (5) また、原告Aの供述及び弁論の全趣旨によれば、国際編集部以外の被告の別の部署から業務を依頼され、原告Aがこれを引受けた場合には、その分の報酬が別途支払われているほか、原告Aは、被告以外の団体等からも、自由に文章を寄稿したり、講演を行うなどして報酬を得ていたことが認められるし、証人Eの証言によれば、社員に対して適用される就業規則その他の服務規程等が原告Aに適用されることもなかったことが認められる。〔中略〕
 (7) 以上によれば、原告Aが労働者であること、すなわち、原告Aと被告との関係が労基法の適用を受ける労働契約関係であることを認めることはできないし、他にこれを認めるべき証拠はない。
 2 原告Bについて〔中略〕
 しかしながら、原告Bの供述によれば、被告の社員になるためには入社試験を受ける必要があり、入社試験を受けないで社員に登用されることはないとの説明を受けてたことが認められるし、書証(略)、弁論の全趣旨によれば、原告B自身が、並行して他社の業務を行うことが可能であることを確認していることが認められる上、原告B自身も、自らの契約関係について、新聞記者が正社員として働く場合のパターン、すなわち、給料や働く時間が決まっていて、後は何をやってもその給料が支払われるというのとは異なると供述しているのであって、原告B自身が、必ずしも、被告との契約が雇用契約であるとの認識を有していなかったことは明らかである。〔中略〕
 このような事情からすれば、原告Bにも、どのような記事の翻訳をするか、外部取材を行うか否か等について諾否の自由があったと見ることができる。〔中略〕
 そうすると、原告Bの出勤日や業務を行う時間が被告によって指定されるとはいっても、その実情はかなり緩やかなものであったと見ることができる。〔中略〕
 (4) ところで、原告Bに対する報酬が原稿料の名目で支払われていたことは前提事実(3)ウのとおりであるが、原稿料が原告Bの勤務日数に応じて支払われていたことも前提事実(3)ウのとおりである(なお、被告が原告Bに示した条件中には、報酬や残業代が時間あたりの金額で支払われるとする部分(前提事実(3)ア)が存するが、実際にそのように支払われていたと認めるに足りる証拠はない)。〔中略〕
 このような事情からすれば、原告Bに関しても、報酬における労務対価性を肯定することはできないというべきである。
 (5) また、原告Bの供述及び弁論の全趣旨によれば、国際編集部以外の被告の別の部署から業務を依頼され、原告Bがこれを引受けた場合には、その分の報酬が別途支払われているほか、原告Bは、被告において業務を行う以前から行っていた被告以外の会社の業務を継続して行い、報酬を得ていたことが認められるし、証人Eの証言によれば、社員に対して適用される就業規則その他の服務規程等が原告Bに適用されることもなかったことが認められる。〔中略〕
 (7) 以上によれば、原告Bが労働者であること、すなわち、原告Bと被告との関係が労基法の適用を受ける労働契約関係であることを認めることはできないし、他にこれを認めるべき証拠はない。
 3 原告Cについて
 (1) まず、原告Cの供述及び弁論の全趣旨によれば、原告Cが被告の入社試験を受けたことはなかったし、学歴や経歴を確認するために履歴書以外の資料の提出を求められることもなかったことが認められ、原告Cが業務を開始するに際して社員と異なる扱いを受けていたことは明らかである。〔中略〕
 そうすると、原告Cにも、翻訳する記事の選択や、記事の執筆について諾否の自由があったということができる。〔中略〕
 そうすると、原告Cは、かなり自由に業務を行う日や時間を設定することができたと見ることができる。〔中略〕
 (4) ところで、原告Cに対する報酬が原稿料の名目で支払われていたことは前提事実(4)ウのとおりであるが、原稿料が原告Cの勤務日数に応じて支払われていたことも前提事実(4)ウのとおりである。〔中略〕
 このような事情からすれば、原告Cに関しても、報酬における労務対価性を肯定することはできないというべきである。
 (5) また、原告Cの供述及び弁論の全趣旨によれば、国際編集部以外の被告の別の部署から業務を依頼され、原告Cがこれを引受けた場合には、その分の報酬が別途支払われたことが認められるし、証人Eの証言によれば、社員に対して適用される就業規則その他の服務規程等が原告Cに適用されることもなかったことが認められる。〔中略〕
 (7) 以上によれば、原告Cが労働者であること、すなわち、原告Cと被告との関係が労基法の適用を受ける労働契約関係であることを認めることはできないし、他にこれを認めるべき証拠はない。
 4 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。