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ID番号 : 08548
事件名 : 差額賃金等支払請求控訴事件(234号)、同付帯控訴事件(75号)
いわゆる事件名 : 牛根漁業協同組合事件
争点 : 漁業協同組合の職員が58歳から賃金が減額になる規程を無効として賃金差額等の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 漁協が、58歳定年制を60歳定年制に改訂すると同時に58歳に達した時点で「専任職」と称して賃金を減額する規程を設けたのは一方的な不利益変更に当たるとして、職員が賃金の差額の支払等を求めた控訴審である。 第一審鹿児島地裁は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正(平成6年法律34号)により60歳定年制が義務化された日以降、58歳定年制を定める就業規則の条項は無効となり、定年制の定めがない状態になっていたとした上で、60歳に定年を延長し、58歳以降の職員を専任職として基本給を57歳時の70パーセントに減額する旨の就業規則の変更は、労働条件の不利益変更を定めたものであり、また経過措置や十分な説明もなされなかったことから、就業規則変更には合理性がないとして、雇用保険受給権等を除き減額差分の賃金の支払を命じた。これに対し第二審福岡高裁宮崎支部は、おおむね一審どおりの判断に立ちつつも、雇用保険受給権侵害による損害の認定や、賃金の各項目にわたって差額を見直して増額を認定した。
参照法条 : 労働基準法89条
職業安定法4条
体系項目 : 退職/定年・再雇用/定年・再雇用
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/定年制
裁判年月日 : 2005年11月30日
裁判所名 : 福岡高宮崎支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ネ)234、平成17(ネ)75
裁判結果 : 棄却(234号)、一部認容、一部棄却(75号)(上告、上告受理申立)
出典 : 労働判例953号71頁
審級関係 : 一審/08338/鹿児島地/平16.10.21/平成14年(ワ)999号
評釈論文 :
判決理由 : 〔退職-定年・再雇用-定年・再雇用〕
〔就業規則(民事)-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕
1 争点(1)について〔中略〕 本件専任職規程は、その内容及び体裁からすると、本件就業規則中の賃金等の支給に関する上記規定の特則ないし細則を定めたものであり、1審被告の職員に対して一般的、画一的に適用されるものと認められるから、就業規則としての性質を有すると解されるところ、本件専任職規程は、58歳に達した正職員が引き続いて勤務する場合を専任職とし、その基本給を57歳時点の基本給の70%に減額し(6条)、退職金は、専任職期間の最終の基本給を基準として査定する(4条)ことを骨子とし、しかも、同規程が準用する本件就業規則によって、基本給は、休日手当及び賞与の算定の基礎となるから、結局、本件専任職規程の新設は、実質的にみれば、専任職に指定される職員の賃金等を大幅に減少させるものであるといえ、これが雇用条件の不利益変更に当たることは明らかというべきである。〔中略〕 2 争点(2)について (1) 本件専任職規程の新設が不利益変更に当たるとしても、一般的に労働条件の集合的処理を図るという就業規則の性質に照らせば、当該就業規則の変更がその必要性及び内容から判断して合理的なものである限り、個々の労働者は、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことはできないものと解される。そして、上記合理性の有無については、就業規則の変更の程度、使用者側の変更の必要性の内容及び程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の職員の対応、同種事項に対する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁等参照)。〔中略〕  以上を総合すると、本件専任職規程の新設は、それによる賃金等に対する影響の面からみて、専ら1審原告のような高年層職員に対して大きな不利益を与えるものであって、1審原告が不良債権の回収等の業務に携わっていたことなど他の諸事情を勘案しても、本件就業規則等の変更に同意しない1審原告に対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると認めることができない。したがって、本件専任職規程は、1審原告に対してはその効力を及ぼすことはできないものというべきである。  したがって、1審原告は、1審被告に対し、本件就業規則の定めに基づいて賃金等を請求できる地位にあることになる。 3 争点(3)について  証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、1審原告が受給した雇用保険金の支給額は、離職(退職)した日の直前6か月間に現実に支払われた賃金の総額を基に計算されることが認められるところ、上記のとおり無効な本件専任職規程の新設により、1審原告に対して退職前6か月間に現実に支給された賃金の額が本来受けるべき支給額よりも減少したことは明らかであるから、結局、1審原告は、1審被告による本件専任職規程の新設によって雇用保険受給権を侵害され、本来支給されるべき雇用保険金を得られず、既に支給された金額との差額と同額の損害を被ったものと認められる。なお、損害額は、後記4で認定・判断する。〔中略〕  以上によれば、1審被告は、1審原告に対し、雇用契約及び不法行為に基づき、別表1の本判決欄(主文3項)記載のとおり、合計1182万7444円とこれに対する各所定の期日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。  なお、遅延損害金の始期については、本件就業規則の定めに従い、〈1〉平成14年12月分の基本給及び休日手当の差額分14万8711円については、支払日の翌日である同月23日から、〈2〉同月の賞与の差額分43万8542円については、支払月(12月)の翌月平成15年1月1日から、〈3〉退職金の差額分689万9087円については、支給期限(退職時から2か月以内)の翌日である同年3月1日から、〈4〉雇用保険受給額減少分9万7920円については、1審原告不法行為(本件第2決議)後である平成15年7月23日(本件附帯控訴の趣旨に基づく。)から、〈5〉その余については、訴状送達日(平成14年11月27日)の翌日である同月28日からと認められる。  したがって、本件請求は以上の限度で一部その理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却されるべきである。