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ID番号 : 08556
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : 日本オートマチックマシン事件
争点 : 電子部品製造販売会社の女性従業員が在職時に性別を理由とする賃金差別を受けたとして損害賠償を求めた事案(原告一部勝訴)
事案概要 : 電子部品の製造販売を行う会社に中途採用され、退職した女性従業員が、賃金について男性との差別的取扱いを受けたとして、基本給差額相当損害金等の賠償を求めた事案である。 横浜地裁は、概ね同一年齢の男女間に賃金の格差があり、合理的な理由がない限り同格差は女性差別によるものと推認されるところ、〔1〕会社が、新規学卒採用者について男性を「甲種」、女性を「乙種」に区分し、幹部候補であるとの理由で前者に高額の賃金を定めていることは、賃金格差の合理的理由とはいえない、〔2〕中途採用者の初任給額は、同年齢、同性、同一業務にある従業員の賃金額を参考に決定されたもので、男性従業員との格差に合理的理由があるとはいえない、〔3〕会社の給与規程上、等級は職務の質(職位)に対応するものとされているが、職位が別の考慮要素により名目的に与えられているような場合には、使用者の裁量が当然に及ぶものではなく、性別で違いを生ずる合理的理由とはならないなどとして、労基法4条違反による不法行為を認め、基本給、賞与、退職金、家族手当の各差額相当損害金については認容した。
参照法条 : 労働基準法4条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/男女別コ-ス制・配置・昇格等差別
労基法の基本原則(民事)/男女同一賃金、同一労働同一賃金/男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 : 2007年1月23日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)2022
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例938号54頁
審級関係 :
評釈論文 : 小西國友・ジュリスト1352号155~159頁2008年3月15日
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
〔労基法の基本原則(民事)-男女同一賃金、同一労働同一賃金-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
   ア 本件賃金等格差の存在についての合理的理由の有無  (ア) 新規学卒者の初任給  被告においては,男性の新規学卒者は全て甲種,女性の新規学卒者は一人を除いて乙種として採用され,甲種の方が乙種よりも初任給の額が高額に定められているところ,これについて被告は,甲種は乙種と異なり,将来の幹部候補である総合職として,契約時に将来にわたって転勤が行われることを承諾しているため,初任給の額が高額になる旨主張している。  しかしながら,前記のとおり,本件給与規程(22条)では新規学卒者の初任給について甲種と乙種で額が異なることを定めていながら結局甲種乙種の違いが何であるのかについて定めていない。〔中略〕  そうすると,新規学卒者の甲種乙種の区別は,本件賃金等格差の合理的な理由となるものではなく,この点についての被告の主張は採用できない。  (イ) 中途採用者の初任給〔中略〕  したがって,上記の新規学卒者において存在した合理的な理由のない格差が,そのまま中途採用者についても反映されているというべきであり,中途採用者の初任給が男女間で異なることに合理的理由はないから,この点を本件賃金等格差の合理的な理由とすることはできず,被告の主張は採り得ない。  (ウ) 等級の違い  被告において,本件給与規程上,等級は職務の質(職位)に対応するものとされているところ,管理監督権限や指揮命令権限を具体的に何人に与えるかは,原則として人事権の行使として使用者の裁量に委ねられるべき問題ではある。しかしながら,職位が,具体的な管理監督権限や指揮命令権限を与えるためではなく,別の考慮要素により名目的に与えられているような場合には,使用者の裁量が当然に及ぶものではなく,性別で違いを生ずる合理的理由とはならない。〔中略〕  以上からすれば,被告において,Ⅳ等級以下の等級は賃金額の調整手段の一環であると認められるから,男性と女性で異なる等級にすることに合理的な理由は認め難く,これをもって本件賃金等格差の合理的な理由とすることはできない。  (エ) まとめ  以上からすれば,本件賃金等格差について被告が主張する理由はいずれも合理的なものと認めることはできず,本件賃金等格差は被告が労働者が女性であることを理由とした差別的取扱いを行ったことを疑わせる。    イ 本件原告格差の存在についての合理的理由の有無  前記認定事実によれば,原告の勤務評定は良好であり,少なくとも平均を上回るものであったことは明らかであり,特段,原告の昇給,昇格が滞ることについての具体的な被告の主張,立証はない。なお,被告は,原告の所属する総務部及び総務課において,昭和62年以降平成15年まで部長及び課長のポストに空きはない旨主張するところ,原告をより早い段階で係長(Ⅳ等級)に昇格させることに支障があったことを認めるに足りる証拠はない。  以上からすれば,原告と同学歴,同年齢の男性従業員との間に存在する本件原告格差を正当化する特段の事情はなく,上記のとおり,本件賃金等格差が女性であることを理由とした差別的取扱いである疑いがあることを併せ考えると,原告は,被告から女性であることを理由として賃金について差別的取扱いという不法行為(労働基準法4条)を受けたと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。  3 損害額   (1) 差額基本給相当損害金  以上からすれば,本件原告格差は,原告が女性であることを理由とする賃金の差別取扱いであると認められるが,他方で,被告においてはⅤ等級以上に当たる職位について,被告の人事権の行使として不適切に運用されていることを認めるに足りる証拠はないことからすると,原告をⅤ等級以上の等級に昇格させなかったことが,被告の裁量を逸脱したものとまでいうことはできない。しかし,他方で,原告をより早い段階で係長に昇格させることに支障はなかったことからすると,原告が被告の差別的取扱いがなければ受けることができた賃金は,より早い段階でⅣ等級に昇格していれば受け得た賃金相当金というべきである。