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ID番号 : 08566
事件名 : 地位保全等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 : 山藤山陽印刷事件
争点 : 雇止めを受けた印刷会社の契約社員(元正社員)らが地位保全等の仮処分を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 印刷会社正社員として勤務していたが、会社の合併に伴いいったん退職し、契約社員として再雇用のあと雇止めされた契約社員らが、雇用期間1年との契約書の記載は例文であって期間の定めは無効であり、雇止めにも解雇権濫用法理が類推適用されることを理由に地位保全等の仮処分を印刷会社に求めた抗告に対する決定である。 第一審は、雇止めに違法はないとして申立てを棄却した。これに対し第二審札幌高裁は、〔1〕契約社員・印刷会社間では平成17年にも契約書を交わしていて、そこにも「契約期間1年」と明記されており、仕事内容に変化がなく、同年には全契約社員が契約更新されたこと、そして、平成18年においても大半が契約更新されていることなどの事情をもってしても、契約書の「雇用期間」が例文を示すものではないとした。〔2〕また、仮に労働者らに雇用契約の更新に対して主観的な期待があったとしても、契約書上に期間が明記されていること、就業規則上も契約期間を最長1年とし、契約が更新されない限りは退社となることが定められていることなどを考えると、本件では、当然には解雇権濫用の法理が適用されるとはいえないとして、原決定を維持した。
参照法条 : 労働基準法
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約の承継/合併
解雇(民事)/解雇予告と短期契約/解雇予告と短期契約
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職/退職勧奨/退職勧奨
裁判年月日 : 2007年3月30日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成18(ラ)136
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働判例943号92頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約の承継-合併〕
〔解雇(民事)-解雇予告と短期契約-解雇予告と短期契約〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔退職-退職勧奨-退職勧奨〕
3 なお,抗告理由にかんがみ,付言する。  (1) 抗告人らは,雇用期間が1年であることを例文であると主張し,以下の点を指摘するが,いずれも採用できない。すなわち,   ア 抗告人らは,抗告人A及び抗告人Bに対する個人面接において,労働条件の詳しい内容についての説明は,「1年契約で,給与は月額現在の70パーセント程度,手当は時間外手当,通勤手当を支給する。」だけであったばかりか,契約社員といっても長く働いてもらいたい」,「辞められたら困る」,「頑張れば正社員に戻れる可能性もある。」等の発言があったと主張するが,原決定書で認定のとおり,こうした発言があったことを認めることができないから,抗告人らの主張は理由がない。〔中略〕   イ また,抗告人らは,期間の定めのある雇用契約の締結時期は,抗告人A及び抗告人Bが「希望退職同意書」を提出した平成16年2月24日であり,仮にそうでないとしても,相手方が抗告人A及び抗告人Bに対して「契約社員雇用通知書」を交付した同年3月3日であって,その時点では更新のことは何ら説明がなく,むしろ,説明をすることで退職に応じない可能性があるため,あえて説明をしなかったと主張する。  しかしながら,「希望退職同意書」は飽くまで退職のための文書であり,契約社員としての具体的な賃金等の条件も示されておらず,上記同意書の提出で契約社員の契約が成立するものではなく,さらに,「契約社員雇用通知書」には,契約期間が1年であることが明示され,「本人との契約は3月末日までに行う。」と記載されているのであるから,相手方と抗告人A及び抗告人Bとの契約がまだ成立していないことは明らかであり,あえて説明しなかったと認めるに足りる十分な疎明もない。   ウ さらに,抗告人らは,抗告人A及び抗告人Bに仕事内容の変化がないことや平成17年には雇用契約が更新されていること,平成18年で初めて雇止めが実施されたが,大半の契約社員が雇用契約を更新されていること,同年の契約更新時期まで,雇用契約の更新がなされないことがあることが伏せられていたことなどからも,雇用期間が1年であるとの記載は例文にすぎないと主張する。  しかし,相手方と抗告人A及び抗告人Bは,平成17年においても新たに契約書(〈証拠略〉)を取り交わしており,それにも雇用期間が1年であることが明記されており,仕事の内容に変化がないことや同年には全契約社員の契約更新がなされたこと,平成18年も大半の契約社員の契約更新がなされていることなどの契約後の事情をもってしても,契約書の雇用期間が例文であることを示すものとはいえない。  そして,雇用契約が更新されないことがあることが説明されていなかったとする点についても,そもそも,契約書には雇用期間として「自平成17年4月1日から至平成18年3月31日」と1年間であることが明記されていること,契約書に記載のない労働条件等については,契約社員就業規則及び労働基準法によるとされ,同規則第4条,第5条では,採用の適否や契約期間について定めてある(原決定書の「事実及び理由」欄の第3の1(2)ウ参照)のであって,当該契約が,更新を前提としているともいえないし,契約の更新について説明がないともいえないから,この点に関する抗告人らの主張も理由がない。   エ 以上によれば,本件契約書の雇用期間が1年であるとの記載が例文であるとはいえず,抗告人C及び抗告人Dに対する関係も含め,抗告人らの主張は理由がない。  (2) 抗告人らは,抗告人らが,雇用契約を更新されることについて法的に合理的な期待を有しており,雇止めの可否の判断には解雇権濫用の法理を類推すべきであり,抗告人A及び抗告人Bには,上記(1)ウのような契約後の事情が見られると主張する。  有期契約社員の雇止めの場合であっても,事情によっては,終身雇用の社員の解雇と同様に考える余地があることは,原決定のとおりである。そして,抗告人らに終身雇用の社員の解雇と同様に考え得るような事情の有無を検討すると,そもそも,抗告人A及び抗告人Bは,正社員を一度退職して,契約社員になった者であること,その更新は1度のみであること,抗告人A及び抗告人Bに,雇用契約の更新に対して主観的な期待はあったとしても,上記(1)ウでの検討のとおり,契約書上に雇用期間が1年間であることが明記され,あるいは契約社員就業規則で契約期間が最長1年間であり(第2条,第5条),雇用期間が満了すれば,契約が更新されない限りは退職となる(第13条1号)ことが定められている上,終身雇用の正社員と雇用期間1年の契約社員の法的地位が全く異なることを考えると,本件で当然に解雇権の濫用の法理が適用されるとはいえない。また,抗告人A及び抗告人Bは,指名解雇をちらつかせられながら正社員から契約社員にされたとする点も,抗告人Cのように,希望退職に応じていったんは契約社員にもならなかった例があり,他に契約社員になることを事実上強要されたとまでいいうる十分な疎明はなく,契約後の事情も特段抗告人A及び抗告人Bに有利に解されるものではないから,抗告人A及び抗告人Bに対して,解雇と同様の法理が適用されるとする前提を欠く。  そうすると,抗告人A及び抗告人Bに対して,解雇権の濫用の法理を類推適用することはできない。  さらに,抗告人A及び抗告人Bにこうした前提が取れない以上,抗告人C及び抗告人Dに対しても,本件雇止めについて解雇権の濫用の法理を類推適用することはできない。〔中略〕 相手方は,正社員を契約社員にして一部従業員の雇用を継続しているのであり,新規に契約期間を1年とする契約社員募集の求人票(〈証拠略〉)も出しているのであるから,契約社員を採用するに際し,長期の雇用継続が見込める旨の発言をしたとは考え難く,また,そのように取られかねない発言があったとしても,一般的に優秀な人材であれば,正社員化することがあることもあり得るから,可能性をいうにすぎないと考えられる。さらに,抗告人Dの担当した仕事についても,営業支援とは,営業部署の正社員の事務を助け,より多くの外回りの時間を作るための補助業務であると認められる(〈証拠略〉)ことに,抗告人Dが,これまで雇用契約を更新されたことがないことも併せ考えると,抗告人Dに,契約更新についての合理的期待があったともいえない。  なお,抗告人Dの活動によって担当営業部の成績が上がったとしても,そのことと,雇用契約の更新への期待とは関連性がない。  よって,抗告人らの主張は理由がない。