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ID番号 : 08572
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 関西金属工業事件
争点 : 金属工業会社によってなされた整理解雇を無効として従業員が地位確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 金属工業会社の業績悪化に伴い、人員削減策として計画・実施された整理解雇を無効として、解雇され新規募集に応じなかった従業員ら10名が、雇用契約上の地位確認を求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、係争中に定年を迎えた被控訴人1名を除き従業員らの請求をいずれも認め、定年を迎えた1名の請求についても一部認容、会社が控訴した。これに対し第二審大阪高裁は、まず、会社が行った変更解約告知は、対象者の全員がこれに応じて採用に応募したうち6名は不採用を予定していたといえ、整理解雇とは別個のものとして取り扱うことはできないとした。その上で、新規募集に応募しなかった10名の従業員の解雇につき、従業員6名分の人員削減の必要性は認められるが10名を解雇するまでの必要性は認められず、また、当該解雇は同一事由、同一機会に行われ特定の6名の選定作業もなされていないこと、10名の解雇につき労使間の手続においても相当性を欠き解雇は無効とし、雇用契約上の地位確認などを認容した一審判決を維持した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事)/変更解約告知・労働条件の変更/変更解約告知・労働条件の変更
裁判年月日 : 2007年5月17日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)2609
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例943号5頁
審級関係 : 一審/08505/大阪地/平18. 9. 6/平成17年(ワ)4749号
評釈論文 : 鎌田幸夫・季刊労働者の権利270号85~88頁2007年7月 金井幸子・名古屋大学法政論集222号129~142頁2008年6月
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)-変更解約告知・労働条件の変更-労働組合による労働者供給事業と有期契約〕
  2 本件解雇の有効性   (1) 本件変更解約告知とその後予定されていた整理解雇との関係    ア 控訴人は,本件変更解約告知の行使に当たって,その対象とされた従業員が本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても,採用されない場合があることを明示していたことが認められる。〔中略〕  しかし,本件変更解約告知と本件整理解雇とが,別個独立のものとして,主位的・予備的の関係にあるものとは考えられず,特に,控訴人は,本件変更解約告知に当たって,その対象とされた従業員が変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても,変更解約告知により解雇される日(平成16年5月20日)と同一の日において整理解雇をすることを予定し,このような整理解雇が行われることによって新規採用の応募に対する採用決定がされないことがありうる旨を明記していることからすれば,変更解約告知の対象者の全員がこれに応じて新規採用に応募した場合であっても,控訴人は,そのうちの6名については採用しないことを予定していたことが認められるから,6名について当初から整理解雇に至ることが予定されていたものと認められる。  変更解約告知とは,新たな労働条件での新雇用契約の締結(再雇用)の申込みを伴った従来の雇用契約の解約(解雇)であり,それを受け入れるか否かのイニシアティブは,労働者の側にあることから,解雇とは異なった扱いがされるものと解されるところ,本件変更解約告知は,その実態は,これに応じない者のうち6名に対しては,解雇することを予定しているものであるから,本件の変更解約告知を整理解雇と別個独立のものであるとする控訴人の主張は採用できない。   (2) 人員整理の必要性    ア ところで,労働契約を解約(解雇)するとともに新たな労働条件での雇用契約の締結(再雇用)を募集すること(いわゆる変更解約告知)が,適法な使用者の措置として許される場合はあろうが,本件のように,それが労働条件の変更のみならず人員の削減を目的として行われ,一定の人員については再雇用しないことが予定されている場合には,整理解雇と同様の機能を有することとなるから,整理解雇の場合と同様に,その変更解約告知において再雇用されないことが予定された人員に見合った人員整理の必要性が存在することが必要となると考えられる。  すなわち,人員の削減を目的として本件のような変更解約告知が行われた場合に,変更解約告知に応じない者が多数生じたからといって,人員整理の必要性により本来許容されるべき限度を超えて解雇が行われることは許されないというべきである。〔中略〕  この点について,控訴人は,当審において,本件変更解約告知の計画当初から10名を削減する予定であったわけではなく,被控訴人らが変更解約告知に応じなかった結果,10名の人員削減をせざるを得なかっただけであると主張し,控訴人は,この6名分の人件費削減の必要性について十分な主張立証を行ってきたと主張している。  確かに,本件解雇の当時には,控訴人において人件費を削減する必要があったものと認められ,また,その人員数として,6名とすることも,あながちこれを不相当な規模の人員削減であるということはできないものと考えられる。しかし,本件解雇では10名が解雇されているのであって,上記のとおり,本件解雇については,整理解雇と同様の要件を必要とするものと解される以上,10名を全員解雇する必要性があったことについて主張立証されることが必要であるというべきであり,たとえ6名の人員削減の必要性が認められたとしても,本件解雇は,同一の理由に基づいて同一の機会に行われており,特定の6名を選定する作業が実際に行われていない以上,結局のところ,本件解雇すべてについてその必要性が主張立証されなかったことに帰するというほかないのである。    エ そうすると,本件解雇においては,本件変更解約告知において削減された人員に見合った人員整理の必要性があったとは認めることができないこととなる。   (3) 解雇手続の相当性〔中略〕 控訴人が摘示する証拠(〈証拠略〉)を精査するも,本件組合の「6名が10名になっても解雇するのか。」との質問に対し,控訴人が「そうです,私はそう解釈しているが,次回にはっきりと回答します。」と答えているのみであって,10名の人員削減の必要性については何ら説明していないのであるから,上記事実をもって控訴人主張のように十分な協議・説明が尽くされたものなどとは到底いうことができない。ほかに控訴人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。  3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件解雇は無効であると認められる。  なお,仮に6名までの人員整理の必要性が認められたとしても,被控訴人らに対する本件解雇は同一の理由に基づいて同一の機会に行われており,特定の6名を選定する作業が実際に行われていない以上,本件解雇すべてを無効と認めるしかないというべきであり,特定の6名の解雇を有効とし,残りの4名の解雇だけを無効とすることはできない。  また,前記2(2)ウのとおり,一定程度の人員整理の必要性が認められるものの,実際に何名までの人員整理の必要性があったかについては,前記の結論を左右するものではないので,それ以上の検討はしないこととする。