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ID番号 : 08587
事件名 : 西日本じん肺損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : 西日本じん肺事件
争点 : 粉じん作業によりじん肺にり患した労働者と承継人らが、国と会社に対して損害賠償を求めた事案(原告勝訴)
事案概要 : 鉱業会社で粉じん作業に従事したことによりじん肺にり患した労働者と承継人らが、会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求め、国に対して鉱山法上の規制措置を怠ったことを理由に国家賠償法上の損害賠償を求めた事案である。 福岡地裁は、まず会社の責任について、安全配慮義務違反を認定した上で、粉じん曝露期間が5年以上の者については全損害を賠償すべきであり、5年未満2年以上は3分の2、2年未満は3分の1の割合で損害を負担させるべきとした。次に国の責任については、鉱山法の保安規制を直ちに行使しなかったのは著しく合理性を欠くとして国家賠償責任を認め、ただし第一義的責任は会社にあるとして全損害の3分の1を負担させた。
参照法条 : 民法415条
民法167条
民法724条
民法709条
国家賠償法1条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求/国に対する損害賠償請求
裁判年月日 : 2007年8月1日
裁判所名 : 福岡地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)1072、平成17(ワ)1930、平成18(ワ)296、平成18(ワ)2395
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(一部控訴、一部和解)
出典 : 時報1989号135頁
審級関係 : 控訴審/福岡高/平20. 3.17/平成19年(ネ)762号/平成19年(ネ)935号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労基法の基本原則(民事)-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
 被告日鉄鉱業は、他の炭鉱経営会社と同様、閉山した昭和四七年ころまで、自ら経営していた二瀬炭鉱、嘉穂炭鉱、伊王島炭鉱、北松炭鉱のほか、後述する第二会社が経営していた高雄炭鉱、柚木炭鉱等において、〔中略〕炭壁注水、散水・噴霧、さく岩機の湿式化、発じんの少ない発破方法、通気、集じん機等、防じんマスク装着、じん肺教育、健康診断・健康管理等のほとんどについて、各時代における実践可能な最高の工学的技術水準に基づいたじん肺防止対策を取っておらず、使用者として、労働者がじん肺にり患し又は増悪させることがないように周到にその安全の配慮をすべき義務を十分に果たしてこなかったことが認められ、安全配慮義務違反があったということができる。〔中略〕  ウ 本件への適用  以上に基づいて検討するに、粉じん暴露期間が五年以上の場合には、それだけでも本件元従業員らの現症状を惹起するに足りると判断されるから、被告日鉄鉱業での粉じん業務従事期間が五年以上の場合には、他の粉じん職歴の如何にかかわらず、被告日鉄鉱業は全損害を賠償する義務があるが、被告日鉄鉱業での粉じん業務従事期間が五年未満の場合には、それだけでじん肺にり患する可能性は高くないから、被告日鉄鉱業は、寄与度による責任の限定を求めうるところ、上記のように暴露期間とじん肺症状との間に定量的な関係まであるわけではないから、被告日鉄鉱業が主張するように、粉じん職歴の期間に応じて責任を限定することまでは相当といえないが、損害の公平な分担の観点からして、五年未満二年以上の場合は、損害の三分の二、二年未満は損害の三分の一の限度で被告日鉄鉱業に負担させるのが相当と考える。〔中略〕 (2) 法定合併症の発症と消滅時効について  管理二又は管理三の行政上の決定を受け、かつ法定合併症にり患していると認められる者については、合併症にり患していない者との比較において、じん肺法上、作業の転換に関する勧奨や指示等(じん肺法二一条)の対象となることなく即座に療養の対象とされ、労災保険法上、労災補償給付が支給されている点からすると、その健康被害の程度が大きく、質的に異なる程度に至っているものということができる。そして、管理区分の決定に相当する病状に基づく損害自体には、法定合併症にり患したことによって被った損害は含まれないというべきところ、じん肺にり患したからといって必ずしも法定合併症が発症するとは限らず、管理区分決定を受けただけでは、法定合併症にり患することを前提に損害の賠償を求めることは不可能であるから、法定合併症にり患したことによる損害は、その認定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきである。したがって、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にり患し、かつ、法定合併症にり患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、その旨の認定を受けたときから進行するものと解するのが相当である。  (3) まとめ  そうすると、消滅時効の起算点は、最終の行政上の決定(じん肺管理区分の決定、法定合併症の認定)を受けた時又はじん肺による死亡の時と解するのが相当である。〔中略〕  これを本件についてみると、じん肺は、肺胞内に取り込まれた粉じんが、長期間にわたり繊維増殖性変化を進行させ、じん肺結節等の病変を生じさせるものであって、粉じんへの暴露が終わった後、相当長期間経過後に発症することも少なくないのであるから、じん肺被害を理由とする損害賠償請求権については、その損害発生の時が除斥期間の起算点となるというべきである(筑豊じん肺訴訟上告審判決(国関係)参照)。  そして、じん肺の病変の特質にかんがみると、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害及びじん肺を原因とする死亡に基づく損害は質的に異なるものがあるといわざるを得ない。  したがって、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害及びじん肺を原因とする死亡(共同原因死を含む。)に基づく損害は、その各決定あるいは死亡の時点において、それぞれの損害が発生したとみるべきであるから、除斥期間の起算点も、最終の行政上の決定あるいはじん肺を原因とする死亡の時と解するべきである。  (2) 法定合併症の発症と除斥期間について  法定合併症にり患したことによる損害も、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害及びじん肺を原因とする死亡に基づく損害と、質的に異なるものがあるといわざるを得ず、法定合併症にり患したことによる損害は、その認定を受けた時に発生したとみるべきであるから、法定合併症のり患による損害賠償請求権の除斥期間は、法定合併症の行政上の認定の時から進行すると解するのが相当である。