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ID番号 : 08619
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : 福岡雙葉学園事件
争点 : 私立学校教職員らが期末勤勉手当の一方的減額を不服として残額等の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 学校法人に雇用され、私立学校に勤務する教職員らが、平成14年度・同15年度12月期期末勤勉手当を一方的に減額し、また一部しか支払われていないとして、同手当の残額及び遅延損害金の支払を求めた上告審である。 第一審福岡地裁は、両年度とも5月にはいまだ具体的請求権は発生しておらず、金額決定後は全額支払われており未払はないとして請求を棄却。第二審福岡高裁は、11月理事会で支給額が決定されなかった場合は従前実績に基づいて請求権が発生し、従前実績を下回る支給額が認められるためには個別の労働者側の同意又は特段の事情が必要として、一審判決を取り消し、請求を認容した。 これに対し最高裁第三小法廷は、期末勤勉手当は、理事会が支給金額を定めることで初めて具体的権利となるものであり、本件各期末勤勉手当支給額は、各年度とも5月理事会では具体的な支給額までが決定されたものとはいえず、一方、11月理事会の決定は、既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当を変更するものではない等として、原判決を破棄し、請求を棄却する旨自判した。
参照法条 : 労働基準法11条
労働基準法24条1項
労働基準法89条4号
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/教員
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/賃金・賞与
裁判年月日 : 2007年12月18日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17受2044
裁判結果 : 破棄自判(確定)
出典 : 裁判所時報1450号8頁
時報1996号137頁
タイムズ1261号150頁
労働判例951号5頁
審級関係 : 控訴審/08426/福岡高/平17. 8. 2/平成17年(ネ)46号
一審/福岡地/平16.12.22/平成15年(ワ)2918号
評釈論文 : 野川忍・ジュリスト1360号161~165頁2008年7月15日
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-教員〕
〔就業規則(民事)-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
3 原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,被上告人らの請求をいずれも認容すべきものとした。 (1) 毎年度の12月期に期末勤勉手当が支給されることは,上告人と被上告人らとの労働契約の重要な内容となっており,その支給実績がその都度個別の労働契約の中に取り込まれ,労働契約の要素と化しているから,毎年11月に開催される理事会で具体的な支給額が決定されなかった場合における12月期の期末勤勉手当については,従前の支給実績に基づいて請求権が発生する。 したがって,11月開催の理事会で従前の支給実績を下回る支給額が決定された場合,労働契約の内容が労働者に不利に変更されることになるから,その決定が効力を有するためには,原則として個別に労働者側の同意があることを要し,それがないときにおいては,その減額が必要やむを得ないものであるなど,特段の事情が認められなければならない。 (2) 本件各期末勤勉手当について,11月理事会の決定に基づいて被上告人らに支給された額は,いずれも従前の実績を下回るものであるところ,そのことについて労働者側の明示の同意があったとは認められない。もっとも,被上告人らは,平成14年度及び同15年度の人事院勧告に準拠してされた給与規程の減額改定自体や,本件各期末勤勉手当が減額改定された給与規程に基づいて算定されることについては,黙示の同意をしているものと認められるが,本件調整による減額については,同意をしていないことは明白である。 しかるに,上告人は,本件調整について,人事院勧告に倣ったということ以上には何ら特段の事情を主張しないところ,それだけでは本件調整を合理的なものとすることはできず,他に上記のような特段の事情は認められない。 したがって,上告人がした本件調整をする旨の決定は,効力を有しないものというべきである。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 前記事実関係によれば,上告人の期末勤勉手当の支給については,給与規程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまるというのであって,具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから,前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれない本件においては,期末勤勉手当の請求権は,理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべきである。 ところで,前記事実関係によれば,本件各期末勤勉手当の支給額については,各年度とも,5月理事会における議決で,算定基礎額及び乗率が一応決定されたものの,人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたというのであるから,5月理事会において本件各期末勤勉手当の具体的な支給額までが決定されたものとはいえず,本件各期末勤勉手当の請求権は,11月理事会の決定により初めて具体的権利として発生したものと解するのが相当である。 したがって,本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の11月理事会の決定が,既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し又は変更するものであるということはできず,同決定がこの観点から効力を否定されることはないものというべきである。 (2) なお,仮に,5月理事会において議決された本件各期末勤勉手当の支給額算定方法の定めが,上告人の就業規則の一部を成す給与規程の内容となったものと解し,11月理事会の決定が,その算定方法による額から更に本件調整のための減額をする点において,被上告人らの労働条件を不利益に変更するものであると解する余地があるとしても,前記事実関係によれば,上告人においては,長年にわたり,4月分以降の年間給与の総額について人事院勧告を踏まえて調整するという方針を採り,人事院勧告に倣って毎年11月ころに給与規程を増額改定し,その年の4月分から11月分までの給与の増額に相当する分について別途支給する措置を採ってきたというのであって,増額の場合にのみそ及的な調整が行われ,減額の場合にこれが許容されないとするのでは衡平を失するものというべきであるから,人事院勧告に倣って本件調整を行う旨の11月理事会の決定は合理性を有するものであり,同決定がこの観点からその効力を否定されることはないというべきである。 5 以上によれば,本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の決定が効力を有しないものであるとし,被上告人らの請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの請求は理由がないから,これを棄却した第1審判決は正当であり,被上告人らの控訴をいずれも棄却すべきである。