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ID番号 : 08648
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 横浜商銀信用組合事件
争点 : 信用組合の副支店長らが整理解雇を無効として地位確認、解雇後の未払賃金等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 経経営不振に陥った信用組合Yが実施した整理解雇において、副支店長の地位にあった職員2名(X1、X2)が、整理解雇を無効として地位確認及び解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。 横浜地裁は、まず整理解雇の妥当性基準について、整理解雇が解雇権濫用に当たるかどうかは、〔1〕人員削減の必要性があること、〔2〕解雇回避の努力がなされていること、〔3〕被解雇者の人選が合理的であること、〔4〕解雇の手続が妥当であることを重要な要素として勘案し、総合考慮して判断すべきである、とした。 その上で、本件は、人員削減の必要性は認められるものの、希望退職の募集や整理解雇を回避するための降格の打診をしないなど解雇回避措置が十分ではないうえ、人選の合理性についても、年齢・職位・考課という要素を考慮するという人選基準がどのように適用されたかが明らかでなく、解雇の直前では従業員に対し抽象的な説明を行うに止まるなど手続も妥当性を欠いており、整理解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、X1らの請求を認容した(ただし、判決が確定した後に弁済期が到来する賃金等の支払は、訴えの利益を欠くとして却下)。
参照法条 : 労働基準法18条の2
労働基準法24条
労働基準法9条
民事訴訟法135条
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の要件
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 : 2007年5月17日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)4250
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例945号59頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
被告は,このような経営合理化策の一環として平成15年12月,本件整理解雇と時期を同じくして相模原,中原,浜松及び土浦の各支店を他の支店と統合し,廃止したものであるが,このような不採算店舗の廃止は,被告の高度な経営判断に基づくものであり,もとより被告の裁量に基づくものであって,相当なものと評価し得る。
 この廃止された支店には,26名の職員が勤務していたのであるから,統合する支店の取扱業務が増加し得ることを考慮したとしても,被告には支店廃止による余剰人員が生じたことは明らかであり,被告は当期純損失を計上し,余剰人員を多く抱える余裕があったとは認められない以上,人員削減の必要性は,一応肯定されるべきといえる。〔中略〕
これらの事実によれば,被告の経営状況が人員削減によらなければ,破綻の危機に直面するほどの水準にあったとまでは認め難い。〔中略〕
 被告が本件整理解雇の人数について,十分に検討したと認めるのは相当とはいえず,このように決定された15名という本件整理解雇による被解雇者数についても,その必要性につき,疑問が残るといわざるを得ないところである。
   エ 以上のとおり,被告は,余剰人員の整理につき一定の必要性を有していたとは認められるものの,被告の経営状況が整理解雇によらなければ破綻が避けがたい状況であったとは認められず,本件整理解雇により,15名もの職員を解雇する必要があったか否かについては,必要性に疑問が残るものである。〔中略〕
希望退職を募集しなかったことが相当な措置であったという被告の主張は採用し得ない。もっとも,希望退職の募集は,解雇回避の一手段にすぎず,整理解雇に先立って必ず実施しなければならない性質のものではないが,職員の意思を尊重しつつ,人員及び人件費の削減を図る極めて有用な手段であることを考慮すると,被告が相当な理由なくこの措置を講じなかった点は,解雇回避努力を怠ったと評価せざるを得ない。〔中略〕
原告乙山は,横須賀支店副支店長となった後も,他店では主に主任級が行う業務をも行っており,一般職員とともに集金業務,債権回収業務も行っていた。そうすると,少なくとも小規模支店においては,副支店長級の職員の業務と課長代理級・主任級の職員の業務との間に代替が困難であるほどの決定的な違いがあるとは認め難く,副支店長級の職員を一般職員である課長代理級・主任級に降格させることは,必ずしも非現実的な措置であるとはいえない。このような減給を伴う降格も,当該職員の同意に基づくものであれば違法な措置とはいえず,整理解雇を回避するため,検討し,打診する価値のある措置であったというべきである。特に被告は,多数の自己都合退職者を出しており,相当数の職員を新規採用して人員の補充に当てていたところであるから,このような新規採用を抑制し,前述のとおり希望退職の募集をした上で,配置転換の打診を行っていれば,相当数の余剰人員を吸収することができたと考えられるところであり,その検討すら怠った被告が,解雇回避努力を行ったと評価することはできない。
   エ 以上の事情に照らすと,被告が本件解雇に当たり行った解雇回避努力は,およそ不十分なものであったというほかない。〔中略〕
被告は,おおむね年齢・職位・考課といった要素を考慮して本件整理解雇の対象者の人選を行ったということができる。〔中略〕
 このように,年齢・職位・考課といった要素を選定基準に用いることは,それぞれが客観的かつ合理的な選定基準として用いられている限り,不当とまではいえない。
 (イ) しかし,人選の際に用いる要素が個別的にみて合理的なものであっても,複数の要素を考慮して人選を行う以上,どの要素を重視し,どの要素による分類をはじめに行うかにより,具体的人選は全く異なるものとなりうる。〔中略〕
 原告甲野は年齢順で21番目,考課順で8番目の職員であり,原告乙山は年齢順で11番目,考課順で23番目であるから,年齢又は考課いずれかのみで本件整理解雇の人選を行っていれば,原告らのいずれかは本件整理解雇の対象から外れていたと考えられる。また,考課順を見ると,原告甲野より下位には,50歳未満の課長代理級の職員が複数含まれているが,これらの職員は,本件整理解雇の対象とはなっていないところである。
 そうすると,本件整理解雇の被解雇者の人選が合理的であるか否かは,年齢・職位・考課といった要素のうち,何を重視し,どのような順序であてはめたかにつき検討し,評価しなければならない。
 しかし,被解雇者の人選を行ったA専務理事が,上記の「職員削減基準案」をどのように利用し,どのような理由により解雇基準を定めたかについては明らかではない。また,この「職員削減基準案」によっても,被告が〈1〉最初に年齢による分類をしたこと,〈2〉55歳未満の部長級職員は対象とせず,55歳以上の部長級職員は対象としたこと,〈3〉50歳以上の一般職は対象とし,50歳未満の一般職は対象としなかったこと,〈4〉予定していた職員の削減人数などについて,いかなる根拠によりこれらを決定したか不明であるというほかない。そして,「職員削減基準案」のほかに,被告が上記年齢・職位・考課といった要素のうち何を重視したかについて,その合理性を認めるに足りる的確な証拠はない。〔中略〕
 (エ) そうすると,被告が採った被解雇者の選定基準は,考慮した要素については一定の合理性を認めることができるものであるが,この要素をどのように考慮し,重視するかについては,合理性を見い(ママ)出すことはできないというべきである。〔中略〕
被告がA専務理事一人に選定基準についてまで一任し,常務会等の意思決定機関において協議を行わなかったことは,合理的かつ客観的な基準により整理解雇を行うべき使用者として,適切な措置であったとはいい難い。本件整理解雇は,役員のみならず多くの職員を解雇するものであり,常務会に出席していた常勤理事の多くが整理解雇の候補者であったことは認められるものの,このことにより,被告が協議して選定基準を決定しなかったことが正当化されるものではない。
   ウ 以上のとおり,被告が行った本件整理解雇は,その選定基準が適切な方法で決定されたとはいえず,その選定基準をみても合理的なものであるということはできない。〔中略〕
本件整理解雇が事前に職員に周知されていたとする被告の主張は採用できず,解雇を実施する直前である平成15年11月14日に初めて職員に対して整理解雇の実施を通知したものと認めざるを得ない。
   イ 被告は,本件解雇の際,経営状況を示す資料を示さず,人選の理由についても,年齢が50歳以上の部長級未満の役職員である又は人事考課をもとに執行部にて判断した役職員であると抽象的に説明したのみで,原告らに対して十分な説明を行っていると認めることはできない。
 また,被告が本件整理解雇を行う以前に,職員の意見を聞く等,職員との間に話合いの機会を設けたことを認めるに足りる証拠はない。
   ウ 以上の事実を考慮すると,被告が本件解雇を,相当な手続により実施したと認めることはできない。
  (6) 以上のとおり,被告は,15名の整理解雇が必要であるかについて疑問が残る状況で,十分な解雇回避努力をせず,合理的とはいえない方法の人選により,相当な手続を経ずに本件解雇を行ったものである。
 これらの事情を総合考慮すると,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認めることはできないから,解雇権の濫用として無効である。
 3 原告らの本件解雇後の賃金及び賞与は,別紙3記載のとおりであることに争いがない。また,弁論の全趣旨によれば,原告らの平成17年11月以降の賃金,冬季賞与,夏季賞与は,平成17年10月の賃金,平成16年12月の冬季賞与,平成17年6月の夏季賞与とそれぞれ同額であると認定するのが相当である。
 なお,原告らは,本件訴え提起の後の平成17年11月から終期を定めずに将来の賃金及び賞与の支払も求めているところ,原告らが被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する本判決が確定した後に弁済期が到来する賃金及び賞与については,被告が支払を拒むことが予想されるなどの特段の事情がない限り,あらかじめその請求をする必要があるとはいえない。そして,本件においては,判決確定後の将来請求を必要とすべき特段の事情があることを認めるに足りる証拠はないから,原告らの本件訴えのうち,判決確定後に弁済期が到来する賃金及び賞与の支払を請求する部分は,訴えの利益を欠き,却下を免れないものである。