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ID番号 : 08661
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : 三英冷熱工業事件
争点 : 冷熱工業会社の従業員が、週の法定労働時間を超えた後の時間外労働の割増を請求した事案(労働者勝訴)
事案概要 : 冷熱工業を営む会社Yの従業員Xが、労働契約上の1日当たりの労働時間が7時間30分、週労働時間が45時間とされていた場合、週の法定労働時間(40時間)を超えた後の時間外労働については、1日の労働時間が8時間を超えない部分であっても割増賃金が発生すると主張して、時間外労働及び休日労働の賃金を請求した事案である。 東京地裁は、時間外労働の時間数の認定につき、Yの客観的な証拠がないとの主張に対し、Xの日記に記載されている時間数は日記の内容に照らし信用できるとして証拠採用し、Xの請求を全て認容した。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法32条
労働基準法36条
体系項目 : 労働時間(民事)/時間外・休日労働/時間外・休日労働の要件
労働時間(民事)/法内残業/割増手当
裁判年月日 : 2007年8月24日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)25275
裁判結果 : 認容(確定)
出典 : 労働判例944号87頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-時間外・休日労働-時間外・休日労働の要件〕
〔労働時間(民事)-法内残業-割増手当〕
 1 時間外労働賃金の単価
 原告の1時間当たりの時間外労働賃金の単価は、以下の算式により2268円と算定され、これに0.25を加算した割増賃金は、2835円となる。なお、原被告間の労働契約上の週当たりの労働時間は、45時間であり、日曜日以外に休日を含まない週には週当たりの法定労働時間を超過するので、当該週につきこれを40時間(祝日等を含まない週の土曜日につき、5時間が時間外となる。)として計算すべきものである。
 7.5×(365-52-15-4)-5×39=2,010・・・(年間労働時間)
 380,000×12÷2,010=2,268
 (注)15は、祝日の数
 4は、年末年始の休日数
 39は、5時間分につき時間外となる土曜日の数
 なお、上記法定労働時間超過の結果、労働契約上の労働時間であっても超過勤務とされるべき部分が生ずるが、当該時間外労働に関する賃金については原告の請求の範囲外であるから、本件においてこれを考慮することはできない。
 2 原告の時間外労働時間
 原告は、別紙2記載の時間時間外労働をしたと主張し、これを裏付けるものとして、甲6、7(日記の抜すい)を提出する。これに対し、被告は、時間外労働があったことを争うものではないが、その時間については、客観的な証拠がないとしてこれを争っている。しかし、原告提出の上記証拠は、その内容からみて原告の日記であることが明らかであり、またその内容は一日の行動が仕事を含めて書き綴られたもので、各日の冒頭に時間外労働時間が記載されており、ここに記載された時間は、日記本文の記載内容と概ね整合し、また、本文中に具体的な時間のないものについても、時間外労働をしたことが記述されるか、これを推測できる記述があることから、これらの冒頭に記載された時間も、一応信用し得るというべきである。なお、これらの中には、冒頭の時間外労働時間の残業をした場合に終了すべき時間より10分ないし15分程度前に作業が終わった旨の本文の記載があるものも含まれているが、作業終了後もかたづけなどの終業に当たっての作業が当然行われるものと解され、上記の15分程度の時間の差異は、これらの時間を含んで時間外労働時間を記載したものと理解できるから、この点が記載の時間の正確性を害するものではない。したがって、原告主張の時間外労働時間は、平成17年2月19日の1時間の時間外労働については、当該部分が提出されておらず、これを認めるに足りる証拠がなく、また、平成18年6月23日について、甲7には、冒頭に「2H」と2時間の時間外労働を示す記載があり、2時間の早出をしたことを前提とする記述がある一方で、「16時半すぎに終りにして帰える」と記載されていることから、時間外労働は1時間半の限度で認められるにとどまるほかは、上記のとおり甲6、7により認められるというべきである。
 3 賃金の算定
 原告の労働時間は、1日7時間30分であるから、時間外勤務のうち30分については法定労働時間を超えないので、当該部分につき割増賃金は発生しない。もっとも、週当たりの労働時間は、前記のとおりもともと法定労働時間を超過しているのであって、当該週の労働時間の累計が法定労働時間である40時間を超過した後の時間外労働については、その日の労働時間としては8時間を超えない部分であっても割増賃金が発生することとなる。
 そこで、前項で認定した原告の192日の時間外労働時間合計409.5時間のうち、時間外割増賃金の発生しない時間数について検討すると、上記のとおり、通常1日当たり30分については割増賃金が発生しないが、月曜日から積算した労働時間が40時間を超えることとなる日である平成17年1月22日、28日、29日、2月4日、26日、3月5日、4月16日、22日、23日、5月13日、14日、21日、28日、6月18日、25日、7月2日、8日、16日、22日、23日、30日、8月5日、6日、12日、13日、平成18年2月4日、6月24日、7月8日、14日、29日、8月5日、12日の合計32日については、すべてが割増賃金の対象となる。
 また、平成17年3月6日、7月31日、8月7日、14日、平成18年8月13日、27日については、別紙1のとおり法定休日である日曜日における労働である(ただし、所定労働時間内の賃金については、別紙1のとおりで当事者間に争いがない。)から、その割増賃金はこれらの9.5時間の全時間につき0.35を加算した3061円となる。
 以上を整理すると、原告の時間外労働時間のうち、割増賃金の対象とならないものは、192日から週当たりの法定労働時間を超えた32日と休日労働である6日を除いた154日についてのそれぞれ30分、すなわち77時間であり、0.35の割増賃金の対象となるのが9.5時間であり、その余の323時間が0.25の割増賃金の対象となる。したがって、これを計算すると、以下のとおり111万9420円となる。
 2,268×77+2,835×323+3,061×9.5=1,119,420.5
 なお、上記金額は、原告の主張額を超えるが、これは、原告が労働時間が1日当たり8時間であることを前提とし、また、割増率を乗じないで計算したことなどによるものであるが、原告主張の額を超えて認容することはできないので、原告主張の金額の範囲で認容すべきこととなる。
 よって、97万6727円の支払を求める原告の時間外労働賃金の請求は、すべて理由がある。