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ID番号 : 08667
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : テレマート事件
争点 : 通信販売会社所属部門廃止に伴い解雇された労働者らが地位確認・未払賃金支払を請求した事案(労働者勝訴)
事案概要 : 通信販売を行う会社Yで、食品事業部の新設後約3か月で同事業部が閉鎖されたことに伴い所属労働者(X1~X8)が全員解雇(整理解雇)されたことに対し、解雇権濫用ないし不当労働行為に当たるとして地位確認・未払賃金支払を請求した事案である。 大阪地裁は、食品事業部の閉鎖につき経営上の理由を認めることは困難で、また解雇回避措置が尽くされたとはいえず、十分な協議や説明もなされていないことから、整理解雇の要件たる同事業部閉鎖の合理的な理由、解雇回避措置、解雇に至るまでの手続の相当性はいずれも不十分であり、むしろ、同事業部労働者による組合結成を嫌悪して同事業部の廃止及び解雇が行われたことが推認されることから、解雇は無効であるとした。その上で、無効な解雇の後に労働者が使用者に対して解雇に異議を申し立てない旨の誓約書を提出し、解雇予告手当及び一時金を受領したという事情があったとしても解雇無効の結論を左右するものではないとして、X1らの請求を認容した(判決確定後に発生する賃金の支払を求める訴えのみ、訴えの利益を欠くものとして却下)。
参照法条 : 労働基準法2章
労働組合法7条1号
民事訴訟法135条
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/協議説得義務
裁判年月日 : 2007年4月26日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)10582
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例944号61頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)-整理解雇-協議説得義務〕
経営判断において,スピードは重要な要素であるが,これまでに検討してきた事情や,さらには後述する事情も併せ考えると,食品事業部における売上の低迷のみを,早期撤退の理由として,閉鎖を決定したかどうかについては,疑問の余地があるといわざるを得ない。
  (5) まとめ
 以上によると,平成17年9月20日の時点で,食品事業部の閉鎖を決定しなければならない経営上の理由を認めることは困難というべきである。〔中略〕
NやP自身,平成17年9月26日午後5時に指示を受け,数時間程度,配置転換などによる解雇回避措置を検討したと述べるのみであるが(証人P,証人N/Pは3,4時間と述べ,Nは5時間と述べる。),そのような短時間で,十分な解雇回避措置の検討ができたとは考えにくい。しかも,平成17年9月20日の午前中に食品事業部の閉鎖を決定したというにもかかわらず,9月26日午後5時まで,何らの検討をすることもなかったというのであれば,被告において,解雇の回避が真剣に検討されなかったといわれても仕方ない。
 むしろ,証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,被告は,本件解雇の前後を通じ,求人広告誌などにより従業員の求人を行っており,食品事業部から,これら求人をしている部門への配置転換が困難であった状況は窺えない。
 以上によると,被告が,原告らを含む食品事業部従業員の配転等による解雇回避措置を検討したと認めることはできない。
 4 手続きの相当性
 被告の主張によっても,被告は,食品事業部の閉鎖を決定したという平成17年9月20日から,これを食品事業部の従業員に伝えた同年9月27日までの間,食品事業部の従業員に対し,何も伝えなかったというのであるから,本件解雇の通告にあたり,十分な協議や説明がなされたとはいえない。〔中略〕
食品事業部の廃止の理由からすると,解雇回避措置を講じたり,また,従業員に対する説明協議が求められるべきところ,NやPの供述どおりであるとすると,被告は,これらの措置を講じることなく徒に日時を経過させ,そして,同年9月27日になって,いきなり食品事業部の従業員に対して解雇を通告したということになるが,そもそも,同年9月20日に食品事業部の廃止が決定されたにもかかわらず,これを6日間もの間,食品事業部の責任者であるNや,人事部担当であるPにこれを告げなかったということはおよそ考えられない。
 そうすると,同年9月20日の午前10時に開催された取締役会において食品事業部の閉鎖を決定したということ自体,これを認めることは困難というべきであり,むしろ,9月20日の時点では,未だ,食品事業部廃止を決定しておらず,同日の午後,本件組合の結成を知り,これを理由に,食品事業部の廃止と本件解雇を決定したということが,強く疑われる。このことは,前記2で判断したとおり,食品事業部の廃止の必要性を認めることができないことに照らすと,さらに,その疑いは強まり,本件解雇は,本件組合結成を嫌悪したことによるものであると推認することができ,不当労働行為に該当し,違法無効である。
 6 まとめ
 以上によると,本件においては,整理解雇の要件として,食品事業部閉鎖の合理的な理由,解雇回避措置,解雇に至るまでの手続きの相当性,いずれをとっても不十分といわざるを得ない。それだけでなく,むしろ,被告は,本件組合の結成を知り,これを嫌悪して食品事業部の廃止と本件解雇を決定したと推認することが相当であり,以上によると,本件解雇は無効というしかない。
 なお,原告B,原告A,原告Dを除く原告は,平成17年9月27日における会社の,食品事業部を閉鎖し,同事業部の従業員を全員解雇する旨の説明を了解し,解雇に異議を申し立てない旨の誓約書を提出し,解雇予告手当及び一時金を受領しているが,これらの事情によって,既に述べた理由による本件解雇が無効であるとの結論が左右されるわけではない(被告は,合意退職を主張していない。また,仮に合意退職が主張されたとしても,解雇が無効であると判断した理由に照らすと,そのような合意もまた無効というべきである。もっとも,解雇予告手当,一時金の取得は,法律上の原因を失い,不当利得となるというべきである。)。
 そうすると,原告らの労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに,被告は,原告らに対し,解雇後,本判決確定の日までの給与(給与月額については,前提となる事実(3)の平均金額による。)を支払う義務がある。
 また,原告らの未払賃金の支払を求める請求のうち,本判決確定の翌日以降発生する賃金の請求にかかる部分は,特段の事情のない限り予め将来給付の請求をする必要があるとはいえず,訴えの利益を欠くものと解される。