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ID番号 : 08677
事件名 : 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 : 日本ファースト証券事件
争点 : 証券会社を退職した元支店長が会社の不作為のため再就職できなかったとして損害賠償を請求するとともに休日出勤に対する時間外割増賃金を請求した事案(元支店長敗訴)
事案概要 : 証券会社Yを退職した従業員(元支店長)Xが、Yが速やかに雇用保険離職票などを交付しなかったため再就職することができなかったとして、1か月間の給与相当額の損害賠償を請求し、あわせて退職前の土曜日及び祝日出勤に対する時間外割増賃金などを請求した事案である。 大阪地裁は、損害賠償請求について、離職票などがなくとも求職活動は可能であること、YはXの証券外務員登録の抹消申請を日本証券業協会に対して行うなど、故意又は過失によりXの外務員登録の抹消手続を怠っていたという事実はないことなどから、仮に外務員登録が抹消されるまでの間Xの再就職活動が事実上制約されたとしても、その責めをYに問うことはできないとして棄却した。 また、時間外割増賃金等請求については、Xは30名以上の部下を統括する地位にあり、会社全体から見ても事業経営上重要な上位の職責にあったこと、支店の経営方針を定め部下を指導監督する権限を有していたこと、中途採用者についての実質的採否権限、人事考課、係長以下の人事の裁量権、社員の降格や昇格への影響力、労務管理を担当していたこと、給与の額は店長以下の従業員より格段に高かったことなどを考慮し、経営者と一体的な立場にある管理監督者に当たるとして、請求を棄却した。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法41条2号
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
裁判年月日 : 2008年2月8日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)4994
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労経速報1998号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 佐久間大輔・季刊労働者の権利278号68~79頁2009年1月
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 被告が故意又は過失により外務員登録の抹消手続を怠っていたという事実が認められない以上、仮に、外務員登録が抹消されるまでの間、原告の再就職活動が事実上制約されたにせよ、その責めを被告に問うことはできない。
  (4) なお、証拠(省略)によれば、被告による離職票等の交付が遅れたことにより、原告は、直ちに失業保険の受給手続きをとることができなかったこと、健康保険への切替えができず、歯の治療を受けるのが遅れたこと等が窺えるものの、これらによって原告に具体的な損害が発生したことやその額を認定するに足る証拠はない。〔中略〕
原告は、大阪支店の長として、三〇名以上の部下を統括する地位にあり、被告全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあったこと、大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていたこと、人事考課を行い、係長以下の人事については原告の裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していたこと、部下の労務管理を行う一方、原告の出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であったこと、月二五万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月八二万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高いことが認められる。
 このような原告の職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態に照らしてみれば、原告は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある管理監督者にあたるというべきである。
  (4)ア これに対し、原告は、大阪支店長とは名ばかりであり、経営方針の設定や社員の採否・昇降格・配置等の労務人事管理は、専ら本社のB副社長の指示によるものであって、原告には何らの権限もなかったと主張し、証拠(省略)中にはこれに沿う部分がある。
 (ア) しかし、毎朝のミーティングでの話題事項が、本社から逐一指示されてくるとは考え難い上、社員の配置や組織変更は、常に原告が支店経営上の必要性を考えて自ら発案したものであって、大阪支店を担当するB副社長の了解を得ているとは言っても、経営方針の設定や社員の配置等についての実質的な決定権限は原告にあったということができる。
 (イ) また、本社が試験や面接を実施する新規採用の場合と異なり、中途採用の場合は、支店に直接応募してくるか、社員からの紹介に多くよることが多く、面接結果が唯一の資料となるところ、採否についての実質的な決定権限は面接を実施する原告に委ねられているというべきである。原告は、予め本社から採否が伝えられていた旨供述するが、にわかに信用し難い。
 (ウ) 社員の昇降格についても、原告には自らの人事評価に基づき意見を述べる機会を与えられていた上、原告の意見が容れられなかった例が実際にあるのかについては証拠上明らかでない。なお、原告は、自らも降格処分を受けていることをもって、自身に人事権がなかった証拠であると主張するが、証拠(省略)によれば、原告の降格は、部下の営業成績が悪かったことに対する管理者責任を問われた結果であることが認められ、かえって原告に支店の経営責任と労務管理責任があったことを裏付ける。
 (エ) さらに、原告は、新聞の購読すら支店長が自由に決定することができないなど、経費についての裁量は著しく乏しかった旨供述するが、証拠(省略)に照らしてにわかに信用し難い。
   イ また、原告は、外務員日誌の作成を求められるなど労働時間の管理を受けており、欠勤控除されなかったのは欠勤したことがなかったからにすぎず、現に後任のD支店長は欠勤控除されていると主張する。
 しかし、外務員日誌の作成が交通費の実費精算と営業経過の備忘のためであったことは、原告も認めているところであって、これをもって労働時間が管理されていたということはできない。
 また、証拠(省略)によれば、D支店長に対する賃金控除は、部下に対する監督責任を問われたものであると窺われ、少なくとも欠勤に対する控除であった否かは本件全証拠によっても判然としない。
   ウ さらに、原告は、待遇としても、以前勤めていた会社では、被告での給与より、残業手当込みで月額一五万円以上高かったと述べ、被告における待遇は高いものではなかったと主張する。
 しかし、賃金体系も契約内容も異なる会社での給与額だけを単純に比較して、その多寡を決することはできないし、被告における月額八〇万円以上の給与が、原告の職務と権限に見合った待遇と解されないほど低額とも言いがたい。
   エ ほかに、前記(2)及び(3)の認定を覆すに足る証拠はない。
  (5) 以上により、争点四についての被告の主張には理由があり、争点三について判断するまでもなく、原告の時間外割増賃金の請求には理由がない。