全 情 報

ID番号 : 08688
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : オフィステン事件
争点 : 学会関連の企画運営・出版を行う会社に解雇された後、時間外・深夜割増賃金等を請求した事案(労働者勝訴)
事案概要 : 学会関連の企画運営・出版などを業とする会社Yに、時間外手当を支払わないという合意のもとにまずアルバイトとして雇用され、その後社員となった者Xが、解雇された後に時間外手当、深夜割増等を請求した事案である。 大阪地裁は、X自身が出退勤時刻を記入した「ワーキングフォーム」は、その記載をそのまま採用することはできないが、全体としてXが自分の業務実態を記憶に基づいて再現しようとしたものと認めることができ、「ワーキングフォーム」に記載された時間外労働のうち約3分の2程度の時間外労働を認めるのが相当であるとした。また、時間外手当不支給の合意は公序良俗に反し無効であるとして、会社に労働基準法に基づいて時間外割増手当の支払を命じた。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法32条
体系項目 : 賃金(民事)/割増賃金/支払い義務
労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の始期・終期
裁判年月日 : 2007年11月29日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)2951
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例956号16頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-割増賃金-支払い義務〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-労働時間の始期・終期〕
原告のワーキングフォームの記載は、その作成経緯から考えても(前記イ)、また、他の証拠との関係から見ても〔中略〕、その記載をそのまま採用することはできないが、全くのでたらめということはできず、一応、原告の記憶に基づき記載されているもので(原告本人)、時間外労働の算定の資料とすることは可能といえる。〔中略〕
原告は、ワーキングフォーム〔中略〕への記載をしていたが、ときには、一定期間をまとめて記載していたこと、その際は、特にメモなどによらず、記憶によって記載していたことが認められる(原告本人)。その結果、他の証拠から認められる事実と明らかな齟齬もあるが、全体として、自分の業務実態を記憶して、これに基づき再現しようとしたものと認めることができ、これらを総合考慮し、上記ワーキングフォームの記載から求められる時間外労働のうち、約3分の2程度の時間外労働を認めるのが相当である(法定内時間外労働については、1日の労働時間が8時間を切らない限り、就労した日数に1時間を乗じる。)。
 なお、深夜労働については、被告も認める前記エの限度(平成14年12月24日の7時間、平成15年3月10日の7時間、同年3月31日の1時間)及び解雇直前の平成15年10月20日から21日午前5時(解雇の正確な時刻は必ずしも不明未明であるが、午前5時まで拘束されていたと同視すべきである。)にかけての7時間を認めるのが相当である。
 したがって、原告の平成14年10月分(9月30日分を含む。)から平成15年10月分までの時間外労働、深夜労働は、別紙2割増賃金等算定表記載のとおりとなる。
3 割増賃金等の算定
(1) 不支給の合意について
 前記1(2)エのとおり、原告と被告との間で、時間外手当不支給の合意があったと認めることができる。
 しかし、不支給の合意があったとしても、労働基準法32条、37条の趣旨に照らすと、特段の事情のない限り、上記合意は、公序良俗に反し、無効というべきである。〔中略〕
割増賃金の算定の基礎となる1時間当たりの賃金は、少なくとも、原告の主張する金額を越えることは明らかであるので、割増賃金の算定に当たっては、原告の主張する金額(平成14年12月までは1385円、平成15年1月以降は1443円)により算定することとする。〔中略〕
平成14年10月分(9月30日分を含む。)から同年12月分までの原告の時間外労働等は、別紙2割増賃金等算定表の各該当部分記載のとおり認めることができる(法定内時間外労働:59時間、法定外時間外労働:124時間、深夜労働:7時間)。
 前記(2)の1時間当たりの賃金を基礎として計算すると、上記期間の割増賃金は、別紙2割増賃金等算定表の小計欄記載のとおり、29万8815円となる。
 イ 平成15年1月分から同年10月分まで
 前記2(4)のとおり、平成15年1月分から同年10月分までの原告の時間外労働等は、別紙2割増賃金等算定表の各該当部分記載のとおり認めることができる(法定内時間外労働:184.5時間、法定外時間外労働:290時間、深夜労働:15時間)。
 前記(2)の1時間当たりの賃金を基礎として計算すると、上記期間の割増賃金は、別紙2割増賃金等算定表の小計欄記載のとおり、79万4734円となる。
(4) まとめ
 被告は、原告に対し、前記(3)の金員(合計109万3549円)及びこれに対する遅延損害金(弁済期の後である平成17年4月15日から支払済みまで年5%の割合による金員)を支払うべきである。
4 付加金
 前記1(2)エのとおり、原告と被告は、時間外手当不支給の合意を交わしていたことが認められるが、本来、このような合意は公序良俗に反し、効力がないものであり、むしろ、時間管理が適正に行われていなかったというべきである。
 もっとも、原告の給与、賞与等は、上記不支給の合意を考慮したうえ支給されていたことが窺える〔中略〕
 これらの事情を総合すると、被告は、原告に対し、上記法定外時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金のうち、平成15年3月分から平成15年10月分までの41万4863円のうち、25万円に相当する付加金の支払を命じるのが相当と考える。