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ID番号 : 08689
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : 千年の杜ほか事件
争点 : ヘッドハンティングにより転職後、減給・整理解雇された者が会社に地位確認等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 住宅・建築・土木等を事業として営む会社Y1から住宅部門を引き継いだ会社Y2に高年俸でヘッドハンティングされた社員(X1・X2)が、その後減給され、さらに整理解雇されたことにつき、両社を相手どって雇用契約上の地位確認と賃金支払、不法行為に基づく慰謝料を請求した事案である。 大阪地裁は、まず減給につき、減給する旨の意思表示が会社から明示的になされておらず、単なる債務不履行に止まらない減給措置があったのか疑わしく、仮に減給する旨の黙示の意思表示があったとしても、X1らがこれに同意したとは認められないとして、減給による未払賃金の支払請求を認容した。 次に、整理解雇につき、会社は業務改善の見通しをもって業績不良のなかあえて高額の賃金で原告らを採用したのであり、単なる業績不良では人員削減の必要性を立証するに足りず、解雇回避努力が不足しており、人選にも合理性がみられないことから、この解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとして、雇用契約上の地位確認と賃金支払請求も認容した(ただし、不法行為に基づく慰謝料請求は棄却した。)。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約の承継/営業譲渡
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 : 2007年11月30日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)5956
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例956号5頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約の承継-営業譲渡〕
〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
原告甲野の月額賃金は、月額125万円であったことが認められる。
 原告甲野は、平成16年6月分以降、月額賃金が150万円となる旨の約定があった旨主張するが、甲2の1によれば、月額150万円の報酬は、取締役就任を前提としたものであり、当然に平成16年6月以降の分について当然に月額賃金を150万円とする旨の約定があったとは認められない上、取締役としての報酬を雇用契約で定めることはできないから、平成16年6月以降の分も月額賃金は125万円であったものと認められる。
  (イ) 減給について
 被告らは、原告甲野について、平成16年12月以降の分の月額賃金を83万円とする減給が有効である旨主張する。
 しかしながら、被告会社による減給する旨の明示的な意思表示が原告甲野に対して行われておらず、単なる債務不履行に留まらない「減給」があったのか、そもそも疑わしい。
 それでも、平成16年12月以降の分について、83万円という定額を支給し続けたこと、全社員が比率こそ異なれ賃金の支給額を減らされていたこと(原告甲野本人)、原告乙山の減給については、事前に被告丙川から減給する旨のメールが原告甲野の下に届いていたこと(原告乙山本人)、原告乙山が入社して以降、毎月被告丙川がこのままでは赤字だと言っていたこと(原告乙山本人)等から減給する旨の黙示の意思表示があったとみたとしても、原告甲野が減給に同意したと認めるに足りる証拠はないところ、被用者の同意なしに減給しうる他の事由についての主張もない。
 以上によれば、原告甲野の減給は無効である。〔中略〕
原告乙山の月額賃金は、月額83万3400円であったことが認められる。
  (イ) 減給について
 被告会社は、平成16年12月間近になって、原告乙山に対し、当時の名古屋支店長であった原告甲野を介し、月額賃金を40万円にする旨の意思表示をした(原告乙山本人)。
 被告らは、原告乙山が減給に同意した旨主張する。しかしながら、これを認めるに足りる証拠は提出されていないところ、被用者の同意なしに減給しうる他の事由についての主張もない。
 以上によれば、原告乙山の減給は無効である。〔中略〕
原告らを整理解雇する必要があったとの被告らの主張は全く理由がないものではない。
 しかしながら、被告会社の業績不良は遅くとも平成12年ころから始まっており、平成15年末の段階で赤字が懸念されており、無配当も続いていたものである(乙17)。新設住宅着工数も平成13年以降連続して減少しており、被告会社を取り巻く経営環境は厳しい状況であった(〈証拠略〉)。それにもかかわらず、被告会社は、原告甲野については500万円、原告乙山については200万円の支度金をそれぞれ支払い、高額の賃金を約束していずれも雇用したことからすると、経営改善への一定の見通しを持った上で、原告らを雇用したものとみるべきである。〔中略〕
ある程度の期間を視野においた業務改善と業績回復を念頭に置いて、業績不良の中、敢えて高額の賃金で原告らを雇用したのであるから、原告らを解雇するには、単なる業績不良以上の合理的な理由があって然るべきである。原告らの雇用からさほど時間がたっておらず、状況が大きく変化したとも考えにくい。にもかかわらず、原告らを整理解雇する必要性が生じた理由の主張立証は未だなされていないと言わざるを得ない。〔中略〕
確かに、これらの証拠によれば、被告会社がこれら一定の努力を行ったこと、これらに加え、法的な効力はさておき、原告らに対する月額賃金の支払いを圧縮していたことも認められる。
 また、恒常的な資金不足の下では(〈証拠略〉)、希望退職の募集を行いにくかった状況もうかがわれる。
 しかしながら、前記のとおり、被告会社の行った減給は、原告らの同意を得ない一方的なものであり、高額な賃金を得ていた原告らを含む被用者らに対し、会社の実情を十分に説明し、さらに減給を要請して同意を得る等整理解雇を避ける余地はあったにもかかわらず、整理解雇を行ったことは、拙速の感を否めず、これを回避する努力の点で不足があると言わざるを得ない。
 ウ 人選の合理性について
 被告らは、原告らの営業成績がいずれも不良である旨主張する。確かに、(証拠略)に加え、前年比や前期比で見ると飛躍的に受注が増えている(原告甲野本人)、業界の一般水準よりたくさんの住宅を実質的に販売した(原告乙山)との原告らの各本人尋問の結果を併せ考慮しても、原告らの営業成績(支店長等として関与した支店等の営業成績も含む。)は、必ずしもそれぞれの賃金に見合うものとはいえない。
 しかしながら、前記のとおり、注文住宅の営業は、短期間で成果が出るものではないところ、原告らの異動歴は前提事実(4)、(5)記載のとおりであり、そもそも成果が出せるような状況であったとは言い難い。
 この他、被告らは、原告甲野について、多額の交際接待費を費消していた旨主張し、乙14の1ないし乙14の6を提出するが、これらの証拠によれば、いずれも打合食事代等相応の説明が付されており、これら交際接待費の使用を差し控えるよう指示があったことをうかがわせる証拠もないことからすると、これをもって整理解雇の対象者とすることは合理的とはいえない。
 また、被告らは、原告甲野について、勤務時間中に飲酒をしていたとか、広島支店における行状が悪かった等主張するが、これを裏付けるに足りる証拠は提出されていない。広島支店において、原告甲野のやり方に同支店の従業員らから不満があがっていたとの原告甲野の供述はあるが(原告甲野本人)、抽象的であって、具体的な裏付けとはならない。また、原告甲野が作成を指示したとする乙18号証の計画書兼フォロー書等についても、格別異様であるとか、非常識なほど作成に労を要するようなものであることはうかがわれない。
 被告らは、原告乙山についても、上司の指示に従わないことがあった旨主張するが、これを裏付けるに足りる証拠は提出されていない。
 これらによれば、被告会社の解雇対象者の人選に合理性があったとは認められない。
 エ 整理解雇の有効性についてのまとめ
 以上の検討によれば、その余の点について検討するまでもなく、整理解雇に合理性はなく、解雇権の濫用であって無効である。
(3) 被告丙川に対する不法行為責任に基づく請求について
 先に検討したところによれば、いずれの原告についても損害の発生が認められない。
(4) 慰謝料について
 判決により、雇用契約上の権利を有する地位が確認され、未払賃金などの金銭債務について支払が命じられることによって、特段の事情がない限り精神的苦痛も慰謝されるものと考えられるところ、原告らのいずれについても特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、原告らの慰謝料請求は、いずれも理由がない。