全 情 報

ID番号 : 08691
事件名 : 労災保険給付金等請求事件
いわゆる事件名 : タクシー乗務員・川崎南労働基準監督署長事件
争点 : タクシー乗務員の帰宅途中の事故を通勤災害と認めなかった労基署長の処分取消しを求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : タクシー乗務員Xが帰宅途中に起こした交通事故につき通勤災害と認めなかった労働基準監督署長Yに対し、休業給付の変更決定、療養給付及び休業給付の不支給処分の取消しを求めた事案である。 東京地裁は、Xが業務終了後、朝食、仮眠、労組の執務などを行い、計9時間以上も経過している場合、もはやその後の帰宅が「就業に関し往復した行為」と解することはできないとして請求を棄却した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条2項
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/通勤途上その他の事由
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/療養補償(給付)
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/休業補償(給付)
裁判年月日 : 2007年12月18日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19行(ウ)255
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例958号87頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕
1 前提事実、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、〈1〉原告は、平成11年9月1日午前9時ころからタクシー乗務員としての業務を開始し、翌日午前3時50分ころ、事業場に帰庫したこと、〈2〉帰庫後、原告は、洗車、日報作成、納金等の業務を午前7時半ころ終え、朝食を買いに行き、食事を取るなどした後の午前9時すぎころから午前10時にかけて事業場内で仮眠を開始し、午後0時ころから午後1時すぎころまで仮眠したこと、〈3〉仮眠後、原告は、引き続き事業場の組合室に残り、所属する労働組合の委員長(原告は専従役職員ではない。)として行うべき事務を午後4時40分ころまで処理したこと、〈4〉その後、原告は帰宅途中で被災し、本件負傷を負ったこと、以上の各事実が認められる。
2 労災保険法7条2項は、通勤災害における「通勤」として「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」と定めるが、労災保険法7条2項があえて「就業に関し」との要件を定めているのは、「通勤」は事業主の支配圏外にある行為であるものの、これが業務を遂行するために必然的に付随する行為であることから、当該往復行為が業務と密接な関連をもって行われたものであるときには、これを労働災害として認定することが妥当であるとの考えに基づくものである。
 このことからすれば、通勤災害と認められるためには、往復行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることが必要であることは明らかであって、業務の終了後、事業場内で業務と関係のない諸活動に長時間従事するなどしたような場合には、社会通念上、就業と帰宅との間には直接的な関連性を認めることはできなくなる。
 これを本件についてみれば、前記1に認定のとおり、原告は、勤務終了後、朝食を取った後に約3時間から4時間程度の仮眠をとり、さらには、その後に引き続き所属する労働組合の事務処理を約3時間40分にわたり行うなどした結果、業務終了から被災まで約9時間半が経過したことに照らせば、本件において、原告の被災が「就業に関し」行われた往復行為の過程で生じたものと認めることはできない。
 原告が被災直前に長時間の不規則勤務に従事していたことからすれば、短時間の仮眠を取ったとしても、そのことから就業と帰宅の直接的関連性が失われるというべきではないし、また、終業後の労働組合の活動も、これが短時間のものにとどまるのであれば、就業と帰宅との直接的関連性を失わせるものでもないが、原告が仮眠や労働組合の活動をした時間は、前記のとおり、それぞれ単体でみても、約3時間から4時間、あるいは約3時間40分と、いずれも長時間である上、原告は労働組合の専従役職員でもないのであるから、本件において、就業と帰宅との間に社会通念上の直接的関連性があると認める余地はない。
3 以上によれば、原告の被災につき通勤災害であることを認めないでされた本件各処分が違法であるとは認められないから、原告の請求はいずれも理由がない。