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ID番号 : 08699
事件名 : 遺族補償年金等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 : 北洋銀行・札幌東労働基準監督署長事件
争点 : 銀行支店営業課長のくも膜下出血で死亡したことにつき遺族への療養補償給付等不支給処分の取消しを求めた事案(労基署長敗訴)
事案概要 : 銀行支店の営業課長Aがくも膜下出血により死亡したことにつき、死亡は業務に起因しているとして、遺族が申請した療養補償給付、遺族補償給付、葬祭料につき、いずれも不支給処分とした労働基準監督署長Yに対し起こされた取消請求訴訟の事案である。 第一審の札幌地裁は、いわゆる持ち帰り残業の実態は平成13年12月12日付け新認定基準「基発1063号」の認定要件を満たしていないものの、労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号にいう「その他起因する疾病」に当たるかどうか総合的に判断して、発症前の業務上の負荷以外に脳動脈瘤の憎悪要因はみられないとして、業務起因性を認め、請求を認容した。それに対しYが控訴。 第二審の札幌高裁は、第一審の判断に加え、精神的ストレスの実態、新システム稼動後も負荷が続いていたこと、また精神的負荷の継続を証する事実などを付加的に認定した上、くも膜下出血は100時間以上の過重労働が続いた場合に限られる旨のYの新たな主張も斥け、原判決を支持し控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法施行規則35条別表1の2
労働基準法75条
労働基準法79条
労働基準法80条
労働者災害補償保険法2節
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/療養補償(給付)
労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
裁判年月日 : 2008年2月28日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18行(コ)5
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例968号136頁
審級関係 : 第一審/札幌地/平18. 2.28/平成15年(行ウ)24号
評釈論文 : 伊藤誠一・季刊労働者の権利275号13~18頁2008年7月
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
本件システム統合後も、本部から事務処理についての指示、営業店からの照会に対する回答、端末機使用に際しての注意事項が営業店に送付され、また、顧客からもクレームが少なからず寄せられたことに照らすと、本件システム統合に伴う通帳切替え等の事務処理の遅れ、新システムに不慣れなこと等に伴う様々な問題が生じ、E支店の営業課長であった亡Dにはかなりの精神的ストレスが生じていたことは明らかである。〔中略〕
本件システム統合後も本部から事務処理についての指示等が出され、現に亡Dの死後、自宅から本件システム統合等に関する研修資料やマニュアル類の写しが多量に見つかっていること等を総合すると、亡Dは本件システム統合後も持ち帰り残業を行っていたというべきであるが、残業時間を推認する資料はない。〔中略〕
本件システム統合までは1日当たり多くても2時間を限度とする。本件システム統合後は時間数は明らかではないものの、持ち帰り残業が行われていた〔中略〕
落ち着いたものの、本件システム統合に伴う通帳切換え等の事務処理の遅れ、新システムに不慣れなこと等に伴う様々な問題が生じ、亡Dにはかなりの精神的ストレスが生じていたのであり〔中略〕
このことは、亡DがG銀行労働組合女性部の定期大会に参加したものの、体調不良のため途中で退席したり、花火大会に行くとの娘との約束を疲れがとれないとの理由でキャンセルしたことなどに照らしても明らかである。なお、本件システム統合前の一時期を除けば、休日は確保されており、また、亡Dの家計簿(乙8の166ないし180頁)によれば、亡Dには、平成12年1月以降、外食・飲酒の機会、日帰りないし1泊で温泉に出かける機会、娘のところに遊びに行く機会が少なからずあったことが認められるが、これらはストレス解消、気晴らし等のために行われたとみる余地もあるから、これらの機会があったからといって亡Dが疲労蓄積状態になかったということはできないし、上記認定の事実に照らすと、これらの機会も、亡Dの精神的緊張の状態を緩和させるのに十分であったとまでは認められない。〔中略〕
  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却する