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ID番号 : 08702
事件名 : 損害賠償請求事件(10677号)、退職金等請求事件(11721号)
いわゆる事件名 : 住之江A病院(退職金等)事件
争点 : 病院の閉鎖による解雇に伴い、病院は組合の街宣活動に対して損害賠償を請求し、元職員は病院に対して退職金未払額等を請求した事案(労働者勝訴)
事案概要 : A病院の個人経営者Xが、病院の閉鎖に伴い、勤務していた組合員Yらに解雇を通告したことについて、XはYらに対し、違法な街宣活動を行ったとして不法行為による損害賠償等を求め(甲事件)、Yらのうち2名を除く10名が、退職金の未払額及び遅延損害金、休日出勤手当の未払分等を求めた(乙事件)事案である。 大阪地裁は、まず乙事件の退職金について、Yらのうち一部は臨時職員であるから支払義務がない旨のXの主張には支給対象者であると判示し、また、院内の支給基準が変更されたとの主張には、変更されたのは別の病院の基準であってA病院の基準は変更されていないとして、各個別に金額を算定し(遅延損害金も認容)、休日出勤手当についてもXには支払義務があり、労基法37条及び平成6年政令5号に定める基準(35%増)を下回る就業規則は法令の基準に修正されると判示し、各個別に算出した(遅延損害金も認容)。さらに、年次有給休暇にかかる損害金請求については、解雇告知から退職までの間は取得自体が困難であったと認め、このような場合違法な年休の買い上げには当たらないとして、請求を認容した(遅延損害金も認容)。 一方、甲事件については、病院が閉鎖されてしまった後の組合としての活動に相当性を欠くことはなく、違法とは認められないとして、請求を斥けた。
参照法条 : 労働基準法39条
労働基準法37条
労働基準法13条
労働基準法93条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務
賃金(民事)/退職金/懲戒等の際の支給制限
賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定方法
裁判年月日 : 2008年3月6日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)10677、平成18(ワ)11721
裁判結果 : 棄却(10677号)、一部認容、一部棄却(11721号)(控訴)
出典 : 労働判例968号105頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
〔賃金(民事)-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
住之江A病院の就業規則は、同病院の従業員で、同病院の業務に服する者に適用されるものであること(1条、2条)が認められる。また、同病院の有期雇用者又は臨時雇用者等について、別個に労働条件等を定めたような規定があるとは認められず、また、就業規則の適用対象から除外する趣旨の規定があるとは認められない。
 これらによれば、被告Fは、住之江A病院の就業規則の適用を受ける職員であると認められる。
 ウ そして、被告Fの労働条件及び就労状況(前記ア)に照らすと、被告Fが、退職金規定1条に定める日雇又は臨時職員に該当するとは認められず、これに反する的確な証拠はない。〔中略〕
被告Fは、退職金規定1条に定める退職金の支給対象者に該当するというべきである。〔中略〕
被告らは、住之江A病院の閉鎖に伴い、原告から解雇されたのであり、このような退職事由は、原告主張の退職金規定の変更前において、支給基準率Aの支給事由に該当する者であったと認められる。〔中略〕
退職金規定の変更届出は、新金岡A総合病院の職員を対象とする退職金規定に関して行われたものであって、住之江A病院の職員を対象とするものではなかったと認められる。〔中略〕
原告は、退職金規定の変更の経緯、本件組合との交渉内容等を踏まえて、被告らの退職金額について、支給基準率Aが適用されると考えるに至ったと認めるのが相当である。〔中略〕
住之江A病院の職員に関する退職金規定は、上記の変更手続によって、変更されたとは認められない。〔中略〕
被告N、被告Qを除く被告らの退職金額について、支給基準率Aを適用して算定することになる。〔中略〕
原告は、被告N、被告Qを除く被告らに対し、退職金について、上記(4)エ記載の各金員(被告Dについては上記(4)オ記載の金額)及びこれに対する遅延損害金の支払義務を負う。〔中略〕
労働基準法37条1項、2項は、使用者が、労働者に対し、法定休日(週1日)の労働について、政令所定の割増賃金を支払う義務を負う旨を定め、該当政令はこの割増率を35%と定める。そして、この割増賃金の算定基礎額は、原則として、通常の労働時間及び労働日の賃金の計算額であると解される。
 労働基準法13条及び93条によれば、同法で定める基準に達しない労働条件を定める就業規則の規定は、その部分につき無効となり、労働基準法で定める基準に修正されると解される。〔中略〕
原告は、被告F、被告Hを除く被告らに対し、所定休日に出勤していたが、代休を取得していない日数について、休日出勤手当として、通常の労働日の賃金額を基礎として、割増率を少なくとも25%として算定した割増額を加算した賃金額を支払う義務を負うものというべきである。
 休日割増額の加算については、休日に就労した職員は、代休を取得したか否かを問わず、休日労働をしたことには変わりはなく、少なくとも代休を現に取得していない日数(原告のいう「代休残日数」)については、休日出勤手当として、休日割増額を加算した賃金額の支払を求めることができるというべきである。〔中略〕
 「代休残日数」及び年次有給休暇に関する上記の運用は、職員に対し、休日出勤日数が増えるほど、年次有給休暇の取得を制限することになりかねないものであり、労働基準法39条の趣旨(年次有給休暇の保障)との関係において、相当性を欠くものというべきである。〔中略〕
原告が、被告らに対し、年次有給休暇の取得を妨害する意思をもって、年次有給休暇の取得に関する運用を行い又は解雇したとまでは認められない。
 そうすると、原告が、被告らに対し、違法に年次有給休暇の取得を妨害したとは認められないといわざるを得ない。〔中略〕
 就業規則40条4項は、有給休暇計算期間の中途に退職する場合は、当該年度割合日数を月割計算し、支給する旨を定めている。これによれば、原告は、被告らに対し、有給休暇手当として、未取得の有給休暇日数について、上記規定に従って算定した金員の支払義務を負うというべきである。〔中略〕
被告らの有給休暇にかかる金員請求は、原告の不法行為による損害賠償を求めるものではあるが、就業規則所定の有給休暇手当の請求を含むものと解するのが相当である。
 原告は、有給休暇の買上げが違法である旨主張するが、被告らの有給休暇手当は、これを請求することについて、年次有給休暇の保障の趣旨に反するような事情があるとは認められず、違法とは認められない。〔中略〕
被告らの有給休暇手当額は、平均賃金(平成18年4月分ないし6月分の賃金の総額を、その期間の総日数で除したもの。労働基準法12条参照)に基づき、当該年度割合日数を月割計算して、算定するのが相当である。〔中略〕
本件街宣活動が、原告の社会的評価を低下させるおそれがあるものであったことは否定できない。〔中略〕
 ア 本件街宣活動の主要な目的は、住之江A病院及び新金岡A総合病院の経営者である原告に対し、被告らを含めた本件組合の組合員について、新金岡A総合病院における雇用を確保し、また、団体交渉で交渉した退職金規定所定の退職金を支払うように求めるものと認められ、このことについて労働組合活動として問題があるとは認められない。
 イ 本件街宣活動の場所は、新金岡A総合病院の付近ではあるが、同病院敷地の周囲ではなく、公共スペースであったこと、当時、住之江A病院が既に閉鎖されていたこと、原告が新金岡A総合病院の経営者でもあること等に照らすと、労働組合による街宣活動の実施場所として相当性を欠くとまでは認められない。
 ウ 本件街宣活動の方法は、公共スペースにおいて、通行人等にビラを配布し、ハンドマイクで支援等を呼びかけるものと認められるところ、この方法が労働組合活動として問題があったとは認められず、実施場所にも照らすと、新金岡A総合病院における職場秩序に影響を及ぼすものであったとは認められない。〔中略〕
両病院が組織構成、経営等の面で別個独立したものであったとしても、本件ビラに「住之江A総合病院」と表記されていることをもって、事実に反するとまでは認められず、また、両病院が一体の事業体である旨が記載されていることをもって、労働組合活動として配布するビラの内容として、相当性を欠くとまでは認められない。そして、以上の認定判断に照らすと、本件ビラにおいて、新金岡A総合病院が被告らの退職金等の支払義務を負う旨が記載されているとは認められない。〔中略〕
本件組合による本件街宣活動は、労働組合活動として相当な範囲を逸脱したものとは認められず、違法とは認められない。