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ID番号 : 08705
事件名 : 遺族補償年金不支給処分等取消請求事件
いわゆる事件名 : 小樽中央自動車学校・小樽労働基準監督署長事件
争点 : 自動車学校教務係長の自宅での気管支喘息による死亡につき妻が遺族補償年金等の支給を求めた事案(妻勝訴)
事案概要 : 自動者学校教務係長Aが自宅で気管支喘息の重責発作を起こし死亡したことについて、妻Xが、死亡は業務上の事由によるものとして遺族補償年金、葬祭料及び労災就学等援護費の支給を申請したところ、これの不支給を決めた労働基準監督署長Yの処分取消しを求めた事案である。 札幌地裁は、まず疾病・死亡と業務との相当因果関係について、当該疾病の性質、労働の内容及び過重性等諸般の事情を総合的に評価して、業務に伴う危険が相対的に有力な原因となって当該疾病が現実化したものといえるかどうかで判断すべきとした。 その上で、本件においては、Aの喘息発作が発生したのはいずれも大型免許の指定教習所の指定を受けるための指定前教習開始後であったこと、発症前段階での時間外労働時間の増大など業務は客観的に見ても過重なものであったことが認められ、一方、喘息の発作の原因となるような気道感染をうかがわせる症状はなく、症状が急激に悪化するような異常気象や急激な気象変化もなかったこと等を総合考慮すると、過重な労働という業務に伴う危険が相対的に有力な原因となって現実化したものと評価すべきであるとして、本件喘息発作を業務上の疾病であるとして請求を認容した(労働者に注意義務違反があれば業務起因性は否定されるとのYの主張も斥けた)。
参照法条 : 労働者災害補償保険法12条の2第2項
労働者災害補償保険法16条
労働者災害補償保険法17条
労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付)
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/葬祭料
裁判年月日 : 2008年3月21日
裁判所名 : 札幌地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17行(ウ)13
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : 労働判例968号185頁
審級関係 : 控訴審/札幌高/平21. 1.30/平成20年(行コ)11号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-葬祭料〕
過労及びストレスが気管支喘息の症状及び発作の増悪因子であるということは医学上も十分に合理的な関連性が肯定されているところ、前記2(2)のとおり、Aの喘息症状は平成13年9月16日以降、それ以前のステップ1「軽症間欠型」ないしステップ2「軽症持続型」からステップ3「中等症持続型」に悪化し、さらに、本件喘息発作が発生したのはいずれも指定前教習開始後であって、しかも、発症2か月前の時間外労働時間は71時間、発症1か月前の時間外労働時間が89時間であることに加え、別紙1「再審査請求認定に係る労働時間算出表」(省略)のとおり指定前教習が開始された平成13年6月27日以降の時間外労働時間はそれ以前の時間外労働時間と比較して増大し続けており、また、前記2(3)イのとおり、Aの業務は客観的に見ても過重なものであったと評価できることとともに、Aには喘息の発作の原因となるような気道感染をうかがわせる症状はなく、本件喘息発作の発生直前に多数の喘息患者の症状が急激に悪化するような異常気象や急激な気象変化があったと認められないことを総合考慮すると、前記2(4)アのようにAの喘息発作が夏及び秋に見られるという季節の影響を考慮しても、本件喘息発作は、過重な労働という業務に伴う危険が相対的に有力な原因となって現実化したものと評価するべきである。〔中略〕
指定前教習開始後から時間外労働時間はそれまでと比較して増大傾向にあり、業務はしだいに過重性を増していったと評価できるところ、Aの喘息症状は、平成13年9月16日以降、ステップ3「中等症持続型」となり、その後も過重な労働という喘息の増悪因子が加わっていた状況下で本件喘息発作が発生しているという点に照らすと、たとえ、Aが適切な治療を受けていれば、本件喘息発作の発生がなかったということがいえるとしても、そのことによって、過重な労働が、本件喘息発作についての相対的有力原因であることを否定する根拠とはならない。
  なお、被告の主張は、Aが医療機関を継続的に受診して治療を受けていなかったという注意義務違反自体を問題とするようにも解釈できるが、労災保険法上、労働者に重過失があった場合にも、給付が制限されることがあるのみで、必然的に保険給付をしないという制度とはなっていない(労災保険法12条の2の2第2項参照)ことから、Aの注意義務違反が業務起因性を否定する事由とはならないというべきである。〔中略〕
Aの本件喘息発作は、業務上の疾病ということができ、Aは、本件喘息発作の結果、死亡している以上、Aの死亡も業務上のものということができるから、それにもかかわらず、原告の本件各申請を棄却した小樽労働基準監督署長の本件各処分は違法である。
  したがって、本件請求にはいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用については行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。