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ID番号 : 08709
事件名 : 移籍料等請求事件
いわゆる事件名 : 天むす・すえひろ事件
争点 : 百貨店から食品会社に移籍し退職した元従業員が、移籍料及び慰謝料の支払を求めた事案(元従業員勝訴)
事案概要 : 百貨店Aからおむすび製造販売会社Yに移籍し退職した元従業員Xが、移籍の際に約束されていた移籍料の支払と、雇用されていた間のY代表者Bによる違法な言動で受けた精神的苦痛による慰謝料の支払を求めた事案である。 大阪地裁は、移籍料の支払に関する合意について、「雇用条件 契約書」との表題で移籍料についても記載され、署名押印が交わされており、Yには移籍料の支払義務を負ったことが認められるとした。 また、不法行為又は債務不履行の成否については、Yの社長Bは、能力を質量ともに超える業務を指示しながら適切な指導・援助等を行わず、業務上の指示内容を突然変更したり、Xの仕事振りについて一方的に非難又は不快感を露わにするなどでXが精神疾患に罹患したが、その後も、引き続きXの肉体的疲労及び精神的ストレスを蓄積させ健康状態を著しく悪化させる言動を繰り返し、その結果Xは精神疾患により就労不能な状態になり、退職せざるを得なくなったと認められた。そして、上記行為は違法にXの権利又は法的利益を侵害したものとして不法行為に当たるとして、会社法350条に基づき慰謝料支払義務を負うこととされた。
参照法条 : 会社法350条
民法1条
体系項目 : #N/A
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/代表者の損害賠償責任
裁判年月日 : 2008年9月11日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)9031
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例973号41頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-賞与・ボーナス・一時金-雇用時の一時金〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-代表者の損害賠償責任〕
原告が乙山社長の勧誘によって平成18年にA百貨店を退職して被告に入社することになったこと、原告が平成21年に満45歳になった後に退職した場合にA百貨店から割増退職金が得られるとして、被告が、原告に対し、この割増退職金と現時点で自己都合退職した場合の差額を考慮した金員を支払うことになったこと、これらの状況から、原告と乙山社長との間で、被告が、原告に対し、本件移籍料として1000万円を支払うこと、本件移籍料の支払方法について、原告の入社後10年間に、被告が利益を出せた時に適宜支払うが、原告が入社後10年未満で退職した場合は、被告の定める退職金に、本件移籍料の未払額を加算した額を、退職金として支払うことが合意されたことが認められる〔中略〕
被告の前記アの主張は、本件移籍料の支払に関する前記(3)の認定判断を左右するものではない。〔中略〕
被告は、原告に対し、原告がA百貨店を退職して被告に入社することについて、その移籍料として1000万円の支払義務を負ったことが認められる。
 そして、前提事実及び前記1の認定判断によれば、本件移籍料の支払期は、原告が入社後10年未満で退職したことによって到来したものと認められる。原告の就労状況等によって上記認定は左右されない。〔中略〕
原告は、被告の上記主張につき、時機に後れたものとして却下されるべきである旨主張する。上記主張は、弁論終結日である平成20年7月17日の3日前の同月14日付け準備書面で新たに主張されたものであり、それまでに弁論準備手続及び人証調べが行われたことに照らすと、時機に後れたものというべきであるが、以下の認定判断によれば、訴訟の完結を遅延させることになるものとは認められないから、却下しないこととする。〔中略〕
 したがって、本件移籍料の支払に関する合意が、錯誤により無効であるとは認められない。
(4) 上記1〈2〉については、本件移籍料の支払内容は、原告が被告に入社した後の就労状況等によって左右される性質のものではないから(前記1(4)イ)、被告主張に関する事情は、本件移籍料に関する支払義務の内容を左右するものとはいえない。〔中略〕
被告は、原告に対し、本件移籍料1000万円及びこれに対する民法所定の遅延損害金の支払義務を負う。〔中略〕
乙山社長は、原告に対し、原告の能力を質量ともに超える業務に従事するように指示しながら、適切な指導、援助等を行わなかった上、業務上の指示内容を突然変更する、原告の仕事振りについて、一方的に非難する、不快感を露わにするなどの不適切な対応をしたこと、原告は、被告での就労によって肉体的疲労、精神的ストレスを蓄積させ、これが要因となって精神疾患になり、心療内科の医師から、就労不能であり、1か月の自宅療養を要する状態と診断されたこと、乙山社長は、この診断書を受け取った後、原告に対し、しばらく休養することを認めながら、他方で業務上の指示をFAX等で行うなどしたことが認められる。
 これらによれば、乙山社長は、原告に対し、職務に関して、肉体的疲労及び精神的ストレスを蓄積させ、健康状態を著しく悪化させるような言動を繰り返し行い、原告は、精神疾患により就労不能な状態になり、退職を決意せざるを得ない状態になったものと認められる。乙山社長の上記行為は、違法に原告の権利又は法的利益を侵害したものとして、不法行為に当たると認めるのが相当である。〔中略〕
被告は、原告に対し、乙山社長の不法行為により原告が被った損害について、会社法350条に基づき、慰謝料の支払義務を負う。〔中略〕
被告は、原告に対し、不法行為に基づく慰謝料150万円及びこれに対する民法所定の遅延損害金の支払義務を負う。