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ID番号 : 08718
事件名 : 遺族補償給付不支給処分取消等請求事件
いわゆる事件名 : 福助工業横浜営業所・伊予三島労働基準監督署長事件
争点 : 労働者の致死的不整脈による死亡について、両親が遺族補償一時金等不支給処分の取消しを求めた事案(両親勝訴)
事案概要 : 合成樹脂フィルム等の製造加工販売会社Aの営業所に勤務していた従業員Bが、食事中に突然意識を消失し、致死的不整脈により死亡したことについて、両親(X1・X2)が、Bの死亡は業務上の事由によるものであるとして遺族補償一時金及び葬祭料を申請したところ、労働基準監督署長Yのなした不支給処分の取消しを求めた事案である。 東京地裁は、Bが従事した業務は、労働時間の量、業務内容からみても相当に過重であり、休日出勤もしていたことを併せ考えると、疲労回復に十分な休息を取ることができていなかったといえるのであって、不整脈による突然死の危険性を増大させるに足りる過重なものであったと解すべきであるとした。そして、他に不整脈を発症・増悪させる基礎疾患や危険因子も見当たらないことから、本件疾病(致死的不整脈)は、6か月間にわたる過重業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係(業務起因性)を肯定するのが相当である、として請求を認容した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法16条
労働者災害補償保険法16条の6
労働者災害補償保険法17条
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
労災補償・労災保険/業務上・外認定/災害性の疾病
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付)
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/葬祭料
裁判年月日 : 2008年6月4日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18行(ウ)114
裁判結果 : 認容(確定)
出典 : 労働判例968号158頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-災害性の疾病〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-葬祭料〕
亡一郎は致死的不整脈を発症して死亡したものと解される。
b また、亡一郎の健康状態は良好で、健康診断において何ら異常を指摘されたことはなく、既往歴も基礎疾患もなかったこと〔中略〕、亡一郎の死体解剖の結果、肉眼的所見においては、直接死因となるような損傷異常、器質的異常(疾病異常)は全くなく、また、病理組織学的所見においても、充血、うっ血以外に特に著変は認められなかったこと〔中略〕からすると、亡一郎には致死的不整脈を発症させる基礎疾患がなかったものと認められる。〔中略〕
解剖の所見で異常がなかったとされているものの、それが遺伝子学レベルまで異常がないことを確認したものではないから、致死性不整脈が発症しない程度に「異常がない」心臓かどうかは必ずしも明らかではない(杉本医師の意見(1(8)キ)参照)。そして、基礎疾患が明確に存しない場合でも特発性心室細動等の致死的不整脈が生じることについては、医学的、疫学的知見によって示されているのであり(不整脈による突然死等の取扱いに関する報告書(〈証拠略〉)も、ストレス(精神的負荷)と不整脈との関係を指摘した上で、発症前に基礎心疾患等が認められない場合にも、業務による過重負荷により明らかに発生したものかどうかを判断する必要があることを指摘している。)、奥平医師をはじめとする医師の意見でも、致死的不整脈(心室細動)が発生した原因が何かを問題にしているけれども、致死的不整脈が業務によるストレスによって発症するという一般的な関係を否定しているわけではない(1(8))。また、後記イ(ア)のとおり、亡一郎は相当の時間、自らの業務に従事していたのであるから、発症当日が休日であり、亡一郎がBと7時間以上にわたって過ごしていたからといって、前日までの業務や忘年会による疲労の蓄積がなかったともいえない。
 したがって、亡一郎の従事した業務(によるストレス等)と本件疾病(致死的不整脈)の発症との間には、前記医学的知見等を踏まえた社会通念に照らし、業務がなければ本件疾病は発症しなかったという(一般的)関係を是認し得る程度の高度の蓋然性があることを肯定することができるのであり、被告の前記主張は採用できない。
e してみると、亡一郎の業務と本件疾病(致死的不整脈)との一般的条件関係は肯定されるというべきである。〔中略〕
亡一郎の労働時間は、別表「労働時間集計表」13ないし18のとおりであると認められ、これによれば、時間外労働時間(1日8時間を超える時間)は、発症前1か月目で72時間40分、2か月目で108時間22分、3か月目で64時間30分、4か月目で69時間55分、5か月目で94時間59分、6か月目で85時間53分となる。これによれば、時間外労働が80時間を超える月が過去6か月中3か月あり、直前の1か月では80時間をやや下回るものの、直前2か月、3か月、6か月の平均を取るといずれも80時間を上回るものであり、他に具体的に認定しがたい休日出勤等の労働時間もあることからすれば、労働時間自体からも相当の過重性を認めることができる。〔中略〕
亡一郎は、各週1日ないし3日、各月ともに7日ないし11日の休日を取得していたものの、休日出勤をしていたこともあった。〔中略〕
山梨出張は、出張頻度、スケジュール、車の運転の負担(横浜営業所と山梨の往復、山梨での営業先回り)などの諸点からして、亡一郎にとって、相当の精神的、身体的負担になったものということができる。〔中略〕
横浜営業所での業務についても、亡一郎にとって、精神的、身体的負担になったものということができる。〔中略〕
亡一郎は、福助工業(A所長)から山梨地域の売上回復を目指すことを求められ、それが相当程度の精神的負担になっていたとみるのが相当である。〔中略〕
 原告らは、亡一郎の死亡前日の忘年会におけるA所長との間でのトラブルが、業務に関連する異常な出来事であると主張する。しかし、前記認定事実(1(5))によれば、上記トラブルにおける原告とA所長との間のやりとりは、通常の範囲をいささか超えるものではあるが、新認定基準における「異常な出来事」とまでみることはできず、この点は、せいぜいA所長との人間関係の徴表として、精神的負荷の一事情とみるのが相当である。〔中略〕
平成7年6月以降6か月間にわたり継続して亡一郎が従事した業務は、労働時間の量、業務内容からみても相当に過重であり、休日出勤もしていたことを併せ考えると、疲労回復に十分な休息を取ることができていないといえるのであって、不整脈による突然死の危険性を増大させるに足りる過重なものであったと解すべきである。
 他方、亡一郎には、他に不整脈を発症・増悪させる基礎疾患や危険因子も見当たらない。
 したがって、本件疾病(致死的不整脈)は、6か月間にわたる上記過重業務に内在する危険が現実化したものとして、業務との相当因果関係(業務起因性)を肯定するのが相当である。
3 結語
 以上の次第であり、亡一郎の死亡は、その従事した業務に起因するものというべきであり、これを業務上の死亡ではないとする本件処分は違法として取り消されるべきである。
 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。