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ID番号 : 08721
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 平野屋事件
争点 : 厨房設備の製造等会社(和議終了)に解雇された元従業員らが未払賃金、退職金等を請求した事案(元従業員勝訴)
事案概要 : 厨房設備の製造、施工、販売等を業とするY会社(和議終了済)から解雇された元従業員X1ら(X1~X9)が、会社の和議開始決定前の未払賃金と、解雇後にも労働があったとして解雇後の給与、及び退職金等の支払を求めた事案である。 大阪地裁は、〔1〕和議開始決定前の未払賃金について、会社と従業員代表者との間で確認書面を作成したことが認められ、和議の履行完了後に支払能力があれば未払給与を支払う旨の確認はなかったなどとして、和議開始前の未払賃金の支払義務を負うべきであるとし(ただし、X3に対しては一部弁済を認定)、〔2〕解雇後の未払給与について、その存在を認め、支払を命じ、〔3〕退職金については、会社は、退職した従業員に対し、原則として、従業員退職金規程に基づく中小企業退職金事業団との退職金共済契約に関する退職金の支払義務を負う、とするのが相当であるとした。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法9条
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/破産・倒産と退職金
賃金(民事)/賃金・退職年金と争訟/賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 : 2008年6月19日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)14065
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例972号37頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-退職金-破産・倒産と退職金〕
〔賃金(民事)-賃金・退職年金と争訟-賃金・退職年金と争訟〕
前提事実によれば、被告は、従業員代表者である原告Aとの間で、平成12年10月(和議開始決定がされた後)、平成11年9月分から平成12年3月分までの未払給与について、各人の合計額等を確認した上で、その支払期限を平成18年3月2日(和議終了時)まで猶予する旨の合意をしたこと、その後、被告は、同じく原告Aとの間で、各年の決算期ごとに未払給与の全体の合計額について、当初の合意額と同じである旨を確認する旨の書面を作成したことが認められる。
 これらによれば、被告は、原告Cを除く原告らに対し、和議開始前の未払賃金として、それぞれ社員未払給与一覧表記載の各金額について、支払義務を負うというべきである〔中略〕
乙山社長が原告らに対して解雇告知後に業務に従事しないように伝えたことを認めるに足りる証拠はなく、原告らは、上記のとおり、解雇告知後に被告の業務として、その運営上必要な業務に従事していたのであるから、被告は、原告らに対し、明示又は少なくとも黙示に、雇用期間終了まで業務に従事することを命じたものと認めるのが相当である。
 以上によれば、被告は、原告Cを除く原告らに対し、平成18年10月分及び同年11月分の給与について、支払義務を負うというべきである〔中略〕
原告Dの平成18年10月分及び同年11月分の未払給与の合計額は20万1600円になる。〔中略〕
被告は、退職した従業員に対し、原則として、従業員退職金規程に基づく運用として、中小企業退職金事業団との退職金共済契約に関する退職金について、上記〈1〉の金員の支払義務を負い、上記〈3〉の金員について、加給金の支給に関する取締役会決議がされたと認められる場合は、同額につき支払義務を負い、また、従業員らに対する意思表示に基づき、上記〈2〉の金員の支払義務を負うとするのが相当である。〔中略〕
被告は、平成12年3月当時、従業員退職金規程に基づく運用として、上記〈1〉の算定方法を行っていたものと認められる。
 (ウ) 上記〈3〉については、以上の認定によれば、花子が加給金として算定した額を上記〈1〉、〈2〉の算定額に加算したことは認められるが、この加算について、被告の取締役会で決議されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
  (エ) 以上によれば、原告らの退職金額は、上記〈1〉(中小企業退職金事業団に関するもの)、〈2〉(日本生命の解約返戻金に関するもの)の合計額とするのが相当である。〔中略〕
原告Cは、被告との間で、被告に対する残債権の内容を前記〈1〉のとおりとすること、原告Cの退職金債権は現存しないものとして被告に請求しないこと、被告から弁済される40万円について、上記〈3〉の方法で充当すること等を確認する旨の和解契約を締結したものと認めるのが相当である。
 そうすると、被告による一部弁済後の残債権は、和議開始決定前の賃金債権142万7964円であると認めるのが相当である。〔中略〕
原告Cは、被告に対し、和解契約に基づく一部弁済後の残債権について、民法所定の年5分の割合の範囲で、遅延損害金を請求することができると認めるのが相当であり、遅延損害金の起算日は、残債権の支払期限が定められていないことから、一部弁済の後であり、訴状送達の日の翌日である平成19年1月13日とするのが相当である。
 上記合意書において上記残債権以外の請求権がないことは確認されているが、このことをもって民法所定の上記遅延損害金を請求することは妨げられないというべきである。
(3) 小括
 以上によれば、原告Cは、被告に対し、和議開始決定前の賃金残額として142万7964円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年1月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有する。