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ID番号 : 08725
事件名 : 残業代等請求事件
いわゆる事件名 : ゲートウェイ21事件
争点 : 元支社長が時間外手当等を、元秘書が引き下げられた賃金差額等の支払を請求した事案(元従業員ら一部勝訴)
事案概要 : 留学・海外生活体験商品を扱う会社Yの元支社長X1が、時間外手当及び付加金、お客様評価給並びに支社営業部員の売上げにかかる評価給を、元秘書X2が、一方的に引下げられた賃金差額等の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず、X1の職務内容は部門の統括的な立場にあり、部下に対する労務管理上の決定権等はあるがそれは小さなものにすぎず、また十分な待遇も受けておらず、出退勤の自由も大きくはなかったとして、X1は管理監督者には当たらず時間外労働に対する手当の支払を免れないと認めた。しかし、未払のお客様評価給については、対象とされる期間は正当に算定しており未払分は存せず、また営業部員の売上げにかかる評価給も、会社との間にそのような合意が成立したとは認められないとした。 X2については、労働契約において給与は最も基本的な要素であるから、一方的な給与引下げに同意したというためには積極的に承認する行為が必要であり、本件では、減額の内容さえ知らされず、その内容を理解して受け入れたとは認められないし、その後承諾等の行為があったとの証拠もないから合意が成立したとは認められず、差額を支払うべき義務があるとした(なお、会社は時間外手当を支払わず、逆に損害賠償訴訟を提起するという態度をとるなどしているとして付加金の支払も命じた)。
参照法条 : 労働基準法41条2号
労働基準法3章
労働基準法9章
体系項目 : 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
賃金(民事)/出来高払いの保障給・歩合給/出来高払いの保障給・歩合給
雑則(民事)/付加金/付加金
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 : 2008年9月30日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)20926
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例977号74頁
労経速報2020号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
〔賃金(民事)-出来高払いの保障給・歩合給-出来高払いの保障給・歩合給〕
〔雑則(民事)-付加金-付加金〕
〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
同原告の職務内容は、部門の統括的な立場にあり、部下に対する労務管理上の決定権等はあるが、それは小さなものにすぎないといえる。また、時間外手当が支給されないことを十分に補うだけの待遇を受けておらず、出退勤についての自由も大きなものではないといえる。これを総合すれば、同原告は、経営者との一体的な立場にあり、労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されるような地位とそれに見合った処遇にある者とはいえず、労働時間等に関する規定の適用を除外されることが適切であるとはいうことができない。したがって、同原告は管理監督者には当たらないというべきであるから、被告は同原告の時間外労働に対する手当の支払を免れないというべきである。
 その額は、別表1(A給与計算書)に基づき計算すると、別表3(A時間外手当計算書)(略)のとおり386万8621円となる。〔中略〕
お客様評価給は、毎月末日締め、翌月25日支払と定められていることが認められる。とすれば、6月支給分については、締め日の5月末日において、銀座支社は既に新しい組織に改編されていたといえる。同原告は、銀座支社を統轄する地位にあったのだから、そのような者が退職を前提として有給休暇を取ることになった場合、組織としては他の者を長に任命して組織を改編するのは当然のことというべきである。そうすると、締め日において、既に新しい組織に改編されていたのであるから、それを前提にお客様評価給を算定するのは理由のあることといえる。同原告がお客様評価給を請求し得るとはいえず、この請求は理由がない。〔中略〕
お客様評価給は、管理職に対しては、その管理する組織の売上高の平均に応じて支給されるところ、該当期間のD営業部員の売上げ、銀座支社の売上げ、実際に同原告に支給されたお客様評価給は別紙1(略)のとおりであると認められる。そうすると、D営業部員の売上げを加算しても、粗利益の要件等から、この期間の分として実際に同原告に支給されたお客様評価給の金額との間に差は生じないというべきである。同原告は、この合意内容は、同営業部員の売上げを銀座支社の組織平均に加えるというものではなく、同営業部員は同原告の直接の部下として、銀座支社の組織平均から支払われる同給与とは別に同原告に支払うというものであった、と主張し、本人尋問においてそのように述べるが、書証(略)の文言から、そのような通常の計算方法と異なった方法での算定をするとの趣旨は読み取れないから、そのような合意が成立したとは認められない。同原告のこの請求は理由がない。〔中略〕
原告Bは、上記通告の機会には、減額の内容さえ知らされておらず、その内容を理解してこれを受け入れたとは認められないし、その後承諾書等により承諾したなどの積極的な行為があったとの証拠も存しない。
 よって、同原告と被告との間に給与引下げの合意が成立したとは認められず、被告は差額を支払うべき義務がある。その金額は、別表4(略)のとおりである。平成18年6月分については、前記争いのない事実記載のとおり、同原告は同年5月31日付けで退職しているところ、同月21日から同年6月20日までの所定労働日数は22日であり、同原告は8日間勤務しているので、日割り計算による同月の給与は12万7730円となるべきところ、10万9091円が既払いであるので、差額の1万8639円を被告は支払うべきである。〔中略〕
 本件において、被告は、原告Aに対し時間外手当を支払わず、本件訴訟提起後も、原告Aの時間外労働自体を争うなどし、弁論の全趣旨によれば、逆に損害賠償訴訟を提起するという態度をとるなど、時間外手当を支払う姿勢が見られないから、付加金の支払を命ずるのが相当である。なお、時間外手当の総額は、386万8621円と認められるが、請求の趣旨の範囲内で認容する。〔中略〕
 原告らは、被告の上記乙18ないし20(略)及び準備書面(5)の提出が、既に最終準備書面提出後であり、原告らが被告の乙16及び17(略)の提出とほぼ同時に甲28及び29(略)を提出した後のものであるから、時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張する。他方被告も、原告らの上記準備書面44頁以下の主張と書証の提出は時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張する。
 思うに、これらのいずれの提出によっても、訴訟がさらに期日を続行したなどの事実はなく、裁判所の判断に委ねるとされて当初の予定どおりの期日に弁論が終結されたのであるから、訴訟の完結を遅延させたということはないというべきである。よって、時機に後れた攻撃防御方法に当たるとは認められない。〔中略〕
原告Aの請求は、時間外手当及びこれに対する遅延損害金の請求について別表5(A未払い賃金計算書)(略)の限度で、付加金の請求について同原告の請求の範囲で、いずれも理由があるからこれを認容し、お客様評価給の請求は理由がないからこれらを棄却し、原告Bの請求は遅延損害金の請求ともども理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。