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ID番号 : 08737
事件名 : 雇用関係存在確認等請求事件(29969号)、建物明渡等反訴請求事件(9770号)
いわゆる事件名 : 損保ジャパン調査サービス事件
争点 : 調査会社従業員がパワハラ等により退職させられたとして地位確認、損害賠償を請求した事案(従業員敗訴)
事案概要 : 損保会社の依頼を受けて自動車事故の原因調査、損害額の査定及び交渉を業とする会社Y1で技術アジャスター等の職に就いていた従業員Xが、嫌がらせないしパワーハラスメントを受け、PTSDに罹患し休職を余儀なくされたとして、上司Y2には損害賠償を求め、Y1に対しては退職が無効であるとして雇用関係の確認及び安全配慮義務違反ないしはY2の使用者責任に基づく損害賠償を求めた事案である(反対に、Y1は借上社宅の明渡時期が到来しているとしてXに賃料を請求)。 東京地裁は、Y2のXを退職させようとする意図での度重なる暴力的・威圧的言動、Xが行った仕事の成果への不当な評価、コンプライアンス違反に対する告発の抹殺ないしは抵抗、ランクアップ試験を受験させないなどの不合理な差別的取扱いなど、Xが掲げたY1・Y2の数々の行為について、すべてそのような事実は認められないと否認し、不法行為はなかったとしてXの請求を棄却した(その一方で、Y1からの未払賃料支払請求には理由があるとした)。
参照法条 : 民法709条
民法710条
民法715条
労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2008年10月21日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)29969、平成19(ワ)9770
裁判結果 : 本訴請求棄却、反訴請求認容
出典 : 労経速報2029号11頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
修理工場とのトラブルに関し、原告が同工場の者に対し、激しい言葉でやりとりするなどしたこと、このため同工場は、同SCに対し、原告を担当から外してほしいと連絡してきたことがうかがわれ、交渉状況を説明した原告に対し被告Cが、原告からは相当上級の地位にある上司であるが、直接注意を与えたことが認められる。しかしながら、同被告が、「てめー、一体何様のつもりだ。責任を取れ。自分から辞めると言え」等と恫喝しながら退職を強要したこと、「てめえの親父にも迷惑がかかるんだぞ、いいんだな」と脅迫的言辞を述べたとの事実は、本件全証拠を総合しても認められない。けだし、この当時、原告は入社してまだ2年であり、会社がその程度の新入社員を退職させようとすることは考えにくく、殊に、その前年の平成10年11月当時の原告に対する評価で、同被告は、「良いものを持っており時間をかけて教育したい」とコメントしていることからすればなおさらである。また、同被告が原告の採用面接に立ち会っていたので、原告の実父がX銀行本店に勤務していることを知っていた可能性は高いが、どういう迷惑がかかるのか全く不明であるから、上記のような言辞を述べることも考え難いし、脅迫とか恫喝もそのようなことをする必要性は全くないので、そのようなものがあったとは考え難い。証拠(略)のうち、上記認定に反する部分は採用できない。〔中略〕
メールの表現は穏当でないが、原告を特に陥れようとするような内容は含まれておらず、嫌がらせないしパワハラをうかがわせる事実は認められない。また、上記(イ)認定のように、この異動は、人事部が社内の諸般の事情を考慮して決定したものであるが、原告が異動時点で所属していた能開部の長である同被告が、人事部から意見や要望を聴取され、情報提供したことは当然である。I部長代理に対するメールにある「D氏がノイローゼになりそうなので、異動を早めた経緯にある」などは、そのような文脈で理解すべきもので、同被告が原告に対する嫌がらせないしパワハラのために異動を決定したものとは認められない。
 (エ) したがって、上記異動には、人事上の措置として、十分合理的な理由が認められ、原告から上記試験の受験勉強をする機会を奪うために、不合理な差別的取扱いを行ったものとは認められず、そのほかこの異動が原告に対する不法行為等を構成するような事実は認められない。〔中略〕
被告らに、不法行為等を構成するような行為はいずれも認めることができないから、その余の点について検討するまでもなく、本訴請求は理由がない。〔中略〕
 (1) 原告は、原告が精神疾患に罹患していると主張しているが、前記争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、同疾患により原告が2年以上(勤続期間5年以上の者について与えられる期間)勤務に就いておらず、被告会社により、就業規則15条1号、16条1項、47条、20条3号に基づき、平成18年12月1日付けで休職期間満了により退職とするとの措置を取られたことが認められる。原告は、1で検討した嫌がらせないしパワハラ以外に同疾患が業務上の傷病である理由を主張せず、同行為は上記1のとおり認められないから、同疾患が業務上の傷病であるとは認められず、上記措置は理由があるものといわざるを得ない。
 (2) 社宅契約は、雇用契約と密接に結びついたものであるから、雇用契約の終了とともに、社宅契約も終了すると解される。前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件建物は、被告会社が家主から、賃料月額12万円で貸与を受けた上で、さらに原告に社宅として貸与したものであること、原告は、平成19年8月25日、被告会社に対し、本件建物を明け渡したこと、退職が効力を生じた後の原告の未払賃料が8か月分と同年8月分は25日までの分であることが認められるので、3(4)(被告会社の主張)イのとおり、被告会社の反訴請求は理由がある。
 3 結論
 以上により、原告の本訴請求は、被告らの不法行為等が認められないので、その余の点について検討するまでもなく、理由がないから棄却する。
 被告会社の反訴請求は、上記2(2)のとおり理由がある。