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ID番号 : 08758
事件名 : 配転無効確認等請求控訴事件(314号)、同附帯控訴事件(33号)
いわゆる事件名 : 東日本電信電話事件
争点 : 配転された電気通信会社従業員らが配転命令を違法として損害賠償を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 遠隔地へ配置転換された電気通信会社の従業員5名が、配転命令は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償、精神的苦痛に対する慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。 第一審札幌地裁は、5名のうち4名についての配転は業務上の必要性を欠く違法なものであり、1名については、配転自体は業務上の必要性を認めつつ、割り当てられた業務については業務上の必要性がなく、また両親の介護ができなくなるなど著しい生活上の不利益を与えるものであるとして、全員に慰謝料の支払を命じた。これに対し会社が控訴。 第二審札幌高裁は、まず、会社の構造改革とそのため実施された人員配置の計画については相応の合理性が認められ、また不当な動機・目的もないと前置きして、従業員らの業務上の必要性を個々に判断した。まず4名については、配転に業務上の必要性が認められ、生じた不利益は配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものはでないから権利の濫用にはならないと第一審判断を覆し、請求を認めなかった。1名については、業務上の必要性は認められるものの、東京への転居が必要となる配転が不可欠であったとまでは認め難く、当人の不利益を顧慮することなく配転命令を発したのは権利濫用であるとして、第一審の額を増額して慰謝料の支払を命じた。
参照法条 : 労働基準法2章
民法709条
民法710条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用
裁判年月日 : 2009年3月26日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)314、平成19(ネ)33
裁判結果 : 一部認容(原判決一部取消し)、一部棄却(314号)、一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(33号)
出典 : 労働判例982号44頁
労働経済判例速報2038号3頁
審級関係 : 一審/08511/札幌地平成18. 9.29/平成14年(ワ)第1958号、平成14年(ワ)第2672号
評釈論文 : 清水弥生・労働法学研究会報60巻18号26~31頁2009年9月15日 野田進・ジュリスト1399号167~170頁2010年4月15日
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
 1 争点(1)(本件配転命令の無効)について〔中略〕
  「(ア) 上記のとおり、使用者と労働者との間に勤務地や職種の限定の合意が認められないとしても、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。そして、上記の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁判所昭和59年(オ)第1318号同61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。
  これを本件に照らしてみるに、本件構造改革による業務の外注委託のような場合は、被控訴人らが従事していた業務を控訴人から失わせるものであるから(ただし、被控訴人EのNWソリューションセンタへの配転については、後述するように事情を異にする。)、業務の外注委託により、被控訴人らの担当業務が存在しなくなった場合に、その結果として、被控訴人らが従前と異なる職種に従事しなければならなくなることはやむを得ないところであるし、その際に、従前の勤務場所における職種の変更が種々の事情により困難であるときには、被控訴人らが遠隔地への配転を余儀なくされたとしても、そのことが直ちに不当とはいえないのであって、当該配転が控訴人の合理的運営に寄与する面があり、業務上の必要性があるか否かを判断するに当たっては、この点を度外視することはできない(労働者が従事していた業務が存続するものの個々の事情に基づいて当該労働者を配転する場合と、労働者が従事していた業務が存在しなくなった結果やむを得ず当該労働者を配転する場合とでは、上記業務上の必要性の判断にも自ずから差異が生じてしかるべきである(最高裁判所昭和63年(オ)第513号平成元年12月7日第一小法廷判決・労働判例554号6頁参照)。)。この場合でも、配転対象者全員を一斉に他の特定の勤務場所の同一の部署に配置換えするものでない以上、本件各配転に伴う被控訴人らの業務上の必要性については個別にその有無が判断されなければならない。