全 情 報

ID番号 : 08760
事件名 : 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 : INAXメンテナンス事件
争点 : 住宅設備機器修理会社が、団交への対応が不当労働行為に当たるとした命令の取消しを求めた事案(会社敗訴)
事案概要 : 住宅設備機器修理会社と業務委託契約を結ぶカスタマーエンジニア(CE)が所属する労働組合からの団体交渉申入れへの対応が不当労働行為に当たるとした中労委の救済命令を、その取消しを求めた事案である。 東京地裁は、CEが労組法上の労働者に当たるかについて、法的な従属関係を基礎付ける要素である〔1〕業務依頼に対する諾否の自由、〔2〕時間的・場所的拘束性、〔3〕業務遂行にあたっての具体的指揮監督の存在及び程度を総合考慮すれば、CEは会社の事業組織の中に組み入れられており、その労働力の処分につき会社から支配監督を受け、これに対して対価を受けていると評価することができるから、労組法上の労働者に当たるというべきであるとして、会社の請求を棄却した。
参照法条 : 労働組合法3条
労働組合法7条
労働基準法2章
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
裁判年月日 : 2009年4月22日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19行(ウ)721
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働判例982号17頁
労働経済判例速報2039号27頁
判例時報2054号154頁
判例タイムズ1321号139頁
審級関係 :
評釈論文 : 河村学・季刊労働者の権利280号91~95頁2009年7月 日野勝吾・日本労働法学会誌144号133~144頁2009年10月 青野覚・中央労働時報1117号11~17頁2010年4月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕
 (1) 争点(1)(CEが労組法上の労働者に当たるか)について
 ア 労組法3条は、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」と定めているところ、同法上の労働者は、労働組合運動の主体となる地位にあるものであり、単に雇用契約によって使用される者に限定されず、他人(使用者)との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督のもとに労務に服し、労働の対価としての報酬を受け、これによって生活する者を指すと解するのが相当である。そして、この労組法上の「労働者」に該当するか否かの具体的の判断は、労務提供者とその相手方との間の業務に関する合意内容及び業務遂行の実態における、法的な従属関係を基礎づける諸要素(労働力の処分につき指揮命令ないし支配監督を受け、これに対して対価を受けるという関係を基礎付ける諸要素。より具体的には、労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があるか否か、労務提供者が時間的・場所的拘束を受けているか否か、労務提供者が業務遂行について具体的指揮監督を受けているか否か、報酬が業務の対価として支払われているか否か等)の有無・程度等を総合考慮して決すべきである。この判断は、上記のとおり、種々の事情の総合判断であって、一つの要素が満たされたとしても直ちに上記従属関係を認めるべきことにはならないし、また、一つの要素が欠けたとしても直ちに上記従属関係を否定すべきことにはならないと解される。
 これを前提に、以下、各要素について検討する。
 イ 業務の依頼に対する諾否の自由について
 (ア) 前記のとおり、CEとして原告に採用された者は、原告との間で本件覚書を締結するが、これは契約自体から原告の業務依頼権限とCEの業務遂行義務を規定するものであって、契約後の個別の依頼がその都度新たな合意になる旨明示するものではなく、その4条3項は、原告の受付センター及び原告の代行者から所定の方法により発注を受けた「CEは、善良なる管理者の注意をもって業務を直ちに遂行するものとする。なお、業務を遂行できないときは、その旨及び理由を直ちにIMT(原告)に通知しなければならない」として、原告からの業務の依頼に対する原則的な受諾義務を定めている。〔中略〕
 しかしながら、CEの依頼拒否の事実があったとしても、原告に対しては、1か月7万件前後の修理依頼件数があること、そのうち、A-1の場面というのは約1割前後であること(1か月7万件の依頼件数の1割とすれば、1か月約7000件のA-1の場面があることになる)、このA-1段階での拒否件数は、一つの受付センターで、1日数件から、多い日には十数件となるなど、ある程度の数になることが認められ、A-2及びA-3段階での拒否件数も、全体の5ないし7パーセントとそれなりの割合を占めており、そのためA-1ないしA-3段階を通じて修理依頼件数の概ね10パーセント前後が拒否されていると推認されるが、それでも、CEに対する業務依頼のうち、おおよそ90パーセント程度は受付センターから連絡を受けたCEから拒否されることなく受諾され、業務が遂行されていることが窺われる上に、CEが業務依頼を拒否した場合の拒否理由には、他の業務との重複等、相当な理由に基づくものがかなりの割合を占めていることが窺えるのであるから、CEが原告の業務の依頼に対して、諾否の自由を有するというような実態にあったと認めることもできない。確かに、CEの拒否理由の中には、専ら自己の都合によるものが存在することも窺えるが、これは上記の1か月7万件前後という修理依頼件数に対する拒否件数(前記のとおり、A-1ないしA-3段階を含めて、修理依頼件数の概ね10パーセント前後と推認される)のうちの、さらにごく一部にすぎない。したがって、原告がCEに対し、その必要に応じて業務の依頼を行い、CEがこれを原則的に受諾する義務があるという前記(ア)の基本的な契約関係を前提としつつ、ただ、個々の場合に業務の不都合等を理由に業務依頼を受託しないことがあっても契約違反とならないとの趣旨の下に本件覚書4条3項が定められていると解するのが相当である。原告の前記主張は採用できない。
 ウ 時間的・場所的拘束性について
 (ア) CEと原告との間の本件覚書12条には、「IMT(原告)が、CEに対して委託業務を発注する時間帯は、原則として午前8時30分から午後7時までとする」と定められ、CEは、予め原告に届け出た業務日には、午前8時30分から午後7時までの間、常態として原告からの業務依頼の連絡に対応している。そして、本件覚書4条3項には、CEが「直ちに」業務を遂行するものとあり、前記認定事実のとおり、CEは、顧客との訪問日時の調整の際、他の業務や自己の都合等を考慮して訪問日時を決定するところ、顧客からの依頼は、ライフラインに関わるという業務の性格上できるだけ早い対応が必要なことが多く、当日や翌日に訪問する必要があることも多いというのであるから、CEは、その労働力の処分につき時間的拘束を受けているといえる。
 (イ) また、CEは、事業所への出社等を求められるものではないが、原告との関係で担当エリアを定められ、基本的にその範囲内の現場について業務依頼を受け、当該現場に赴いて修理等の作業を行うのであるから、その限度において、場所的的拘束を受けているといえる。
 エ 業務遂行についての具体的指揮監督について〔中略〕
 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)の事情によれば、CEは、業務遂行について、原告が業務マニュアル等で指定する方法によって行い、これを原告に報告する義務があり、原告は、そのようなCEの業務遂行の状況に応じてCEを評価してこれを管理しているといい得るのであるから、原告がCEの業務遂行について具体的指揮監督を及ぼしているといえる。
 オ 報酬の業務対価性について
 CEに対する報酬は、出来高制ではあるものの、原告独自の評価基準であるCEライセンス制度に基づくランクに応じて支払われ、同一の業務遂行の結果に対しても、その報酬額が異なるものである。また、CEが、休日や時間外(午前8時30分から午後7時まで以外の時間帯)に業務を行ったときは、所定の「その他手数料」が支払われることになる。これらの事情によれば、CEの報酬は、業務の結果に対する対価というよりも、CEの提供した労務に対する対価としての性質を強く有するといえる。
 カ まとめ
 以上検討した前記イないしオの法的な従属関係を基礎付ける要素の存在及び程度を総合考慮すれば、CEは、原告の事業組織の中に組み入れられており、その労働力の処分につき原告から支配監督を受け、これに対して対価を受けていると評価することができるから、労組法上の労働者に当たるというべきである。〔中略〕
 3 結論
 以上の次第であり、本件救済命令が違法であるということはできず、その取消しを求める原告の本件請求は理由がない。