全 情 報

ID番号 : 08767
事件名 : 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 京都市(教員・勤務管理義務違反)事件
争点 : 自動車教習所の元教習指導員が整理解雇を無効として仮の地位確認、賃金仮払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 自動車教習所経営会社が元教習指導員5名に対する整理解雇は無効であるとして、仮の地位の確認及び賃金の仮払を求めた事案である。 東京地裁立川支部は、人員削減を必要とする合理的事情が一応は認められるものの、〔1〕債務者の財務状態に特に問題があったとは認められず、〔2〕人員削減の必要性の程度が高度なものであったとも認められず、〔3〕また選定基準自体に特段不合理な点はないとしても、出向、転籍、希望退職の募集など債務者が十分な解雇回避措置を講じていたとは認め難い上、〔4〕一応説明・協議手続を行ったと評価する余地はあっても、本件協定が定める相互理解の上で再建案を実施したとは到底いえないものであるから、これらの事情を考慮すると本件は解雇権の濫用として無効であり、いずれも雇用契約上の権利を有する地位にあると認められるとした。その上で、賃金仮払の必要性を認め、また必要とされる期間は、本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまでとするのが相当であるとした(地位を仮に定めることの確認請求は否認した)。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の要件
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事)/整理解雇/協議説得義務
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
裁判年月日 : 2009年10月1日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ネ)1564
裁判結果 : 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却
出典 : 労働判例993号25頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-協議説得義務〕
〔解雇(民事)-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
2 争点(1)(本件解雇の有効性)について
(1) 本件は、いわゆる整理解雇の事案であるところ、整理解雇は普通解雇や懲戒解雇と異なり、解雇される労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の事情に基づき行われるものであるから、使用者は、人員削減を必要とする経営上の合理的な事情がある場合であっても、整理解雇を実施する以前に、解雇を避けるべく可能な限りの措置を講じるべきであるし、仮に、やむを得ず整理解雇を実施する場合には、解雇される労働者の理解を得るべく、労働組合又は労働者に対し、上記合理的事情を説明・協議し、客観的かつ合理的な基準に基づいて解雇される労働者を選定すべきであり、これらを尽くすことなく使用者が労働者を解雇した場合には、当該解雇は権利濫用として無効となると解すべきである。そして、上記解雇回避措置及び説明・協議手続の実施並びに選定基準の合理性のいずれかを欠いても、解雇は権利濫用として無効であるが、人員削減を必要とする合理的事情の原因や企業経営に与える影響の度合いなどに照らして、解雇回避措置等を欠いたことがやむを得ないと認められる場合には、解雇は権利濫用に当たらないと解すべきである。〔中略〕
(2) 人員削減の必要性〔中略〕
 このように見ると、債務者の八王子校に関する経営状況が悪化していることは認められるものの、債務者主張の本件借入金に係る返済資金の必要性のみからだけで、当然に本件再建案に係る経費削減計画の妥当性を根拠付けることはできないというべきである。〔中略〕
 ウ 以上のとおり、債務者の第20期の財務状態に特段の問題があるとは窺われないが、八王子校に限ってみると、入所者の減少などにより、その経営状態は第18期以降悪化し、第20期においては、本件再建案で目標とされた売上高7億5000万円は実質的には達成されたものの、営業損益及び経常損益ともに損失を計上するに至っている上、今後も少子高齢化等の社会的要因から入所者の減少が見込まれ、また、子会社の飛鳥DC日野をして日野校を経営させる決断をしたことにより自ら売上高の増加を期待し難い状況に至らせたものである。債務者は、かかる八王子校の経営状態を改善するため、経費の削減として、賃金制度の見直しを行い、管理職の賃金規程上の等級の一律降格、教習車のリース契約の解約、平成20年の夏期賞与の不支給、平成20年10月までに八王子校管理職6名の削減等の措置をとっていたところ、その一環として本件解雇に及んだものと認められる。そうすると、上記債務者の財務状態が特に問題といえる状況にはないことを考慮しても、債務者に八王子校に係る事業の人員削減を必要とする合理的事情がなかったとまでは認められない。〔中略〕
(3) 解雇回避義務〔中略〕
 エ 以上のとおり、債務者が債権者らの解雇を回避するために行った転籍や希望退職の募集はいずれも不十分なものである上、債務者は債権者らの異動や出向について必ずしも十分な検討をしていたとは認められない。債務者が経費を削減するために、賃金制度の見直しを行い、管理職の賃金規定上の等級を一律降格し、教習車のリース契約を解約したほか、平成20年の夏期賞与を支給しないこととし、平成20年10月までに八王子校の管理職を6名削減したこと等を考慮しても、債務者が可能な限りの解雇回避措置を講じていたと認められないし、上記のとおり、債務者の第20期の財務状態に特段問題がなかったことに照らすと、債務者が解雇回避措置を欠いたことがやむを得ないと認めることもできない。
(4) 選定基準
 債務者は、(a)顧客アンケートの評価、(b)顧客からの指名数及び拒否数、(c)紹介入所者数及び(d)遅刻・早退・欠勤の項目ごとの点数を集計する方法により、八王子校の全指導員を評価しているところ、(a)ないし(d)の各項目については、いずれも債務者の主観による影響が少ないものであり、また、複数の評価項目を総合的に検討しているのであるから、かかる選定基準に特段不合理な点があるとまでは認められない。〔中略〕
(5) 説明・協議手続〔中略〕
したがって、債務者は、一応、組合に対し、人員削減の必要性や選定基準等につき説明や協議をしていると評価する余地がある。〔中略〕
  〈5〉 上記〈1〉ないし〈4〉の事情に照らせば、債務者による本件再建案の実施としての本件解雇は、本件協定にいう「組合に対し、経営状態を示す諸資料を示し、将来の経営見通し等を明らかにし」、「組合との相互理解の上で」されたものとは到底認められず、本件協定の上記条項を遵守したものとは認め難い。〔中略〕
(6) 小括
 以上のとおり、本件では、人員削減を必要とする合理的事情が一応は認められるものの、債務者の財務状態に特段問題があったとは認められず、人員削減の必要性の程度が高度なものであったとは認められない。また、選定基準自体に特段不合理な点があるとまでは認められないものの、債務者が十分な解雇回避措置を講じていたとは認め難い上、債務者において一応説明・協議手続を行ったと評価する余地はあるものの、本件協定が定める相互理解の上で本件再建案を実施したとは到底いえないものである。これらの事情を考慮すると、本件解雇は解雇権の濫用として無効というべきである。
 よって、本件解雇は無効であるから、債権者らは、債務者に対し、いずれも雇用契約上の権利を有する地位にあると一応認められる。
3 争点(2)(保全の必要性)について〔中略〕
 なお、債務者は、債権者Fの解雇予告前3か月の1か月あたりの平均賃金が19万2498円である旨主張するが、賃金の仮払いに当たって考慮されるべき労働者の賃金額は、労働契約上の権利を有する地位にあると一応認められた労働者が勤務を継続していれば通常支払われると期待される賃金額であるから、かかる賃金額を計算するに当たって、入院等の特段の事情によりやむを得ず勤務できなかった月については、これを除外して計算するのが相当である。そして、これを前提とした場合、債権者Fは平成20年12月ころから入院していたのであるから、同人の賃金額については、平成20年12月及び平成21年1月の各賃金額を除外して計算すべきであり、上記債務者の主張は採用しない。
(2) 上記(1)の認定事実及び本件に現れた諸般の事情によれば、債権者B及び同Cについては各30万円の限度で、同Dについては40万円の限度で、同Eについては35万円の限度で、債権者A及び同Fについてはその求める額の賃金仮払いの必要性がそれぞれ認められ、また必要とされる期間は、本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまでとするのが相当である。なお、債権者らは賃金仮払いのほかに、労働契約上の地位を仮に定めることの確認も求めているが、その必要性を疎明するに足りる資料はない。
4 よって、債権者らの本件申立ては主文の限度で理由があるから、いずれも担保を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないから却下する。