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ID番号 : 08785
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 旭東広告社事件
争点 : 再雇用の後、懲戒解雇された労働者が地位確認、賃金、慰謝料等の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 広告代理事業会社で定年後に再雇用され、その後懲戒解雇された労働者が、懲戒解雇は無効であるとして、雇用契約に基づく地位の確認、懲戒解雇後の賃金及び退職慰労金の支払、並びに不法行為による損害賠償請求権に基づく慰謝料の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず地位確認等請求について、交渉経過の中で、当該労働者の暴言・暴行等の行為には懲戒事由に当たる余地があるが、最も重い懲戒解雇に処すのは重過ぎるとして、懲戒解雇は権利濫用であり無効と認定した。その上で、賃金及び退職慰労金の支払を一部認めたが、地位確認については、ある時点からは労働者は雇用契約に基づく就労の意思を失っていたと判断すべきとして、結局、再雇用契約は平成19年3月15日をもって終了したと評価してこれを却下した。また、適法な手続を経ないまま懲戒解雇を言い渡したことは解雇権の濫用であり、不法行為を構成するとして、労働者の精神的苦痛に対する慰謝料の支払を命じた。
参照法条 : 労働基準法2章
民法709条
民法710条
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/暴力・暴行・暴言
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2009年6月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ワ)7180
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例991号55頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
第3 争点に対する判断〔中略〕そうすると、本件懲戒解雇は原告によるこのような言動を理由とするものであることが明らかであるところ、原告による言動が、被告の代表取締役専務であり、かつ、株式会社KYOKUTOの社長であった乙山專務に対してされていることを考えると、その言動をもって、被告の就業規則58条8項の「その他前項各項に準じる行為により会社が社員として不適格と認めた時」に当たるというべき余地もないではない。
 しかしながら、原告の上記言動は、もともと被告が合意に基づく本件預入金に係る分割金の支払を怠っていたこと(その不払いに理由がないことは、後記のとおりである。)に原因があり、しかも、原告が憤慨し、不適切な発言に至った発端は、C生命から振り込まれた本件預入金の性質に関する乙山専務の独自の見解に基づく回答の内容にあること、さらに、原告が暴行に及んだといっても、それ以前に最初に暴行に及んだのは乙山専務であるから、原告の言動には酌むべき点が多々あるといわなければならない。加えて、原告による上記言動は、飲食店における私的な飲食という、業務の遂行を離れた場面でされたものであり、しかも、その言動の態様に照らすと、原告はもちろん、乙山専務も酔余の状況にあったことがうかがわれる。
 そうすると、原告による上司である乙山専務への言動が企業秩序を乱すべきものであり、被告の就業規則が定める懲戒事由に当たるというべき余地があるとしても、また、原告の過去の業務の遂行に必ずしも芳しくない面があったことをいかに考慮しても、このような言動をもって、被告の就業規則77条が定める戒告から解雇に至る8種類の懲戒処分のうち、最も重いいわば極刑である懲戒解雇に処すべきものとすることは、いかにも重きに失するといわざるを得ない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は、懲戒権を濫用するものであり、無効である。
(2) 本件懲戒解雇は無効であるから、原告と被告との間の再雇用契約は本件懲戒解雇の後も存続することとなり、また、原告と被告との間の再雇用契約はもともと更新が予定されており、本件預入金を3年を超えて分割払いするとの合意があったことにも照らすと、再雇用契約が少なくとも数回更新されるとの原告の期待は法的保護に値するものであるといわなければならない。〔中略〕
 したがって、原告は、同月15日より後については、被告との雇用契約に基づいて被告において就労する意思を失っていたというべきであり、被告との間の再雇用契約も同日をもって終了したと評価すべきである。
 そうすると、原告の雇用契約上の地位の確認を求める請求は理由がなく、また、原告の本件懲戒解雇後の賃金の支払を求める請求は、平成19年3月15日までの賃金の支払を求める限度で理由がある。
(3) 次に、本件懲戒解雇は無効であり、また、被告においては、就業規則に規定はないが、従業員の賞罰に関して賞罰委員会の制度が存するにもかかわらず、その手続を経ないまま乙山専務が本件懲戒解雇を言い渡したことは、不法行為を構成すると言わざるを得ない。そして、当該不法行為の違法性の程度に加え、原告と被告との間の再雇用契約が期間を1年とする雇用契約であるものの、その更新への原告の期待が法的保護に値するものであったこと、それにもかかわらず、原告は、本件懲戒解雇を受けたことにより、被告において就労する意思を失った結果、1か月分の賃金請求が認められるにとどまること等本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告が本件懲戒解雇によって被った精神的苦痛を慰謝すべき額は60万円とすることが相当である。
 そうすると、原告の慰謝料請求は60万円の支払を求める限度で理由がある。
2 退職慰労金請求について〔中略〕
 したがって、原告に支給されるべき退職慰労金の額は上記給与規定に基づく算定方法により算定すべきものであり、また、退職慰労金「の計算期間は現行どおり55歳までとする」とされているところ、他に算定に使用すべき職能給及び資格給の額を確定する的確な時期がないことにも照らすと、その算定に当たっては、満55歳の時点における職能給及び資格給の額を使用することが合理的である。〔中略〕
(4) そうすると、原告の退職慰労金に係る請求は、539万1540円から既払金55万円を差し引いた484万1540円、及び、平成18年9月28日の時点でなお不払いとなっていた5万円について、それまでの支払の状況が詳らかでないことから、それまでの期間のうち最も遅い給与支払日の翌日である同月26日から支払済みまで、同年10月から平成19年2月まで、各月5万円に対する各月の給与支払日の翌日から各支払済みまで、残余の454万1540円に対する再雇用契約が終了した日の翌日である同年3月16日から支払済みまで、それぞれ商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。