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ID番号 : 08799
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 : 豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件
争点 : 男女共同参画推進センター元館長が、不当に雇止めされたとして損害賠償を請求した事案(労働者一部勝訴)
事案概要 :  男女共同参画推進センター館長として期間1年で雇用され、3度の更新の後行われた組織変更後は館長に採用されることなく雇止めされた元館長が、いわゆるバックラッシュ勢力の活動に屈してなされた組織変更による不当な雇止めであるとして、市及び財団に、雇用契約上の債務不履行等による損害賠償を求めた事案の控訴審である。  第一審大阪地裁は、雇止めの違法性、不採用の違法性ともに否認して元館長の訴えを棄却した。これに対し元館長が控訴。  第二審大阪高裁は、まず雇止め及び不採用自体の違法性の有無について、本件雇用関係は特別職の非常勤公務員の地位に準ずるものであり、市の特別職の職員の任免についての法理が準用され、雇用について期限を定めても原則として雇用者の自由であり、特段の合理的理由を必要とするものではないから、そのこと自体雇用契約上の債務不履行又は不法行為には該当しないとした。次に雇止め及び不採用に至る経緯について、A事務局長及び市のB部長が、事務職にある立場あるいは中立的であるべき公務員の立場を超え、元館長に説明のないまま常勤館長職体制への移行に向けて動き、元館長の考えとは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者となることを承諾させたものであり、これらの動きは元館長の人格を侮辱したものというべきであって、元館長の人格的利益を侵害するものであったとして、原判決を取り消し、A事務局長とB部長の共同不法行為を認め、市及び財団に損害賠償のみ認容した。
参照法条 : 地方公務員法3条3項3号
労働契約法16条
民法709条
民法710条
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2010年3月30日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)2853
裁判結果 : 一部認容(原判決変更)、一部棄却
出典 : 労働判例1006号20頁
審級関係 : 一審/大阪地平成19.9.12/平成16年(ワ)第14326号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 (2) 以上のとおり、被控訴人財団や「すてっぷ」の設立の目的及び被控訴人市との関係、被控訴人財団の館長募集要項や就業規則の規定、更新期間1年(又は7か月)の定めのあることなどを記載した雇用(採用)通知書・辞令の文言、報酬(賃金)などの雇用条件の内容、被控訴人らが「すてっぷ」の館長を期間の定めのある非常勤嘱託職員とした理由、その雇用に当たっては被控訴人市の政策目的にふさわしい専門的知見や経験、知名度などが一番に考慮され、厳格な成績主義によらずに幅広い活動歴を持ち地位の高いポストにふさわしい控訴人を雇用した経緯並びに職務の独立性の度合いからすると、実質的に被控訴人市の行政の一部を担う部署に相当する被控訴人財団における「すてっぷ」の館長職の雇用関係は、地方公共団体の職務を行う特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり、控訴人と被控訴人財団との雇用関係は、民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも、被控訴人市の特別職の職員(地方公務員法3条3項3号参照)の任免についての法理が準用されると解するのが相当である。したがって、「すてっぷ」館長としての控訴人の雇用について、期限を定めたからといって、これを違法ということはできず、また、雇用期間経過後の更新についても解雇の法理は適用されないから、期限付き雇用が数回更新されても期限付きでない雇用に転化するものではなく、信義則から更新の権利義務が生じることもなく、更新拒絶(雇止め)については原則として雇用者の自由であり、特段の合理的理由を必要とするものでもないというべきである(控訴人が、館長への就任にあたり、当時の助役から「少なくとも4年は頑張ってもらわねばならない。」と激励されたことから、4年以上の多数回の雇用が法的に約束され、あるいは控訴人がこれを法的に保障されたと考えたと認めることはできないし、非常勤館長が常勤館長の試用期間に類似する期間であるということもできない。)。
 (3) このように、控訴人と被控訴人財団との雇用が公法的な意味合いをもつ法律関係に準ずるものと解すべきであることのほか、本件組織変更が行われる前後の「すてっぷ」の館長職が、常勤・非常勤、雇用期間の定めの有無、業務の内容などにおいて、実質上、同一の職務であるとはいいがたいことに鑑みると、控訴人が本件雇止めの後、当然に新館長に雇用されなかったことが、パートタイム労働法の趣旨に反することなどにより、違法であるということはできず、また、新館長の雇用は、「すてっぷ」の存立の目的からして、同被控訴人の政策的又は政治的裁量・責任のもとに行われるべきことから、その選任は選任権者の自由な裁量によるのであり、本件組織変更の前に非常勤館長として3度、3年余にわたり雇用期間が更新されてきた控訴人が、当然に新館長に就任する権利を有していたとはいえないし、そのような期待を有していたとしてもそのこと自体について法的な権利を認めることはできない。
 (4) したがって、本件雇止め又は本件不採用については、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない。
 3 雇止め及び不採用に至る経緯の違法性〔中略〕
 しかし、前認定の事実及び弁論の全趣旨によると、おそくとも平成14年3月ころから、被控訴人市や市議会の内外で、控訴人や被控訴人らに対する、控訴人の行動に反対の勢力による組織的な攻撃が行われており、その方法は、直接に反抗することのできない被控訴人らの職員に畏怖感を与えるような行動に出たり、嫌がらせを行ったり、虚偽に満ちた情報を流布して市民を不安に陥れたりするなど、陰湿かつ執拗であったところ、次に説示する各事情を踏まえると、市議会において与党会派に属し、市長や市議会に対しても横暴な行動をもって一定の影響力を有するF議員を中心にした活動があったことや、平成15年3月に予定されていた本件推進条例が上程そのものを阻止されて成立をみなかったことから、被控訴人市やB部長においては、同年9月の次期市議会では、同被控訴人の面目をかけてその制定を図らねばならないとの思惑により、上記勢力を宥める必要に迫られていたことはある程度推測されるところである。結局のところ、被控訴人財団における男女共同参画推進の象徴的存在であり、その政策の遂行に顕著な成果を上げていた控訴人を被控訴人財団から排除するのと引換えに条例の議決を容認するとの合意を、F議員らの勢力と交わすに至っていたものとの疑いは完全に消し去ることはできない。少なくとも、B部長らがDと接触して候補者の内諾を得たのは、あってはならないところを一部勢力の動きに屈しむしろ積極的に動いた具体的行動であったということができる。〔中略〕
 (4) このような動きの中での控訴人の立場をみると、当時一部勢力による控訴人への攻撃活動が繰り返されていた中で、控訴人が館長として継続して就任していられるかどうかは、重大な関心事であったのは当然であり、上記攻撃活動が被控訴人ら関係者に対してされている中ではなおさら、被控訴人ら関係者から、館長職の在り方や候補者いかんについてその都度説明を受けてしかるべき立場にあったというべきである。職域内のローテーションで配置された職員や従業員とは異なり、特定の職に就くものとして応募採用され、就任後は、専門的知見や経験、知名度そして内外の人脈を生かして幅広く質の高い初代の館長職をこなしてきた控訴人として、「すてっぷ」の組織の在り方、次期館長候補者(自己を含む)について情報を得て、協議に積極的に加わり自らの意見を伝えることは、現館長職にある立場にあってみれば当然にあるべき職務内容として与えられるべきであるか取るべき態様ないし行動であって、これをないがしろにし、さらには控訴人の意向を曲解して行動する被控訴人ら担当者の動きがあった場合には、控訴人の人格権を侵害するものといわなければならない。
 本件雇止め及び本件不採用について、雇用契約における債務不履行又は不法行為があったということはできないものの、上記のように、被控訴人財団の事務局長及び同被控訴人を設立し連携関係にある被控訴人市の人権文化部長が、事務職にある立場あるいは中立的であるべき公務員の立場を超え、控訴人に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き、控訴人の考えとは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者となることを承諾させたのであるが、これらの動きは、控訴人を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの動きにおける者たちの行為は、現館長の地位にある控訴人の人格を侮辱したものというべきであって、控訴人の人格的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである。〔中略〕
 4 共同不法行為及び損害額
 上記控訴人の人格権侵害は、少なくとも被控訴人市のB部長と、被控訴人財団のA事務局長の共同行為によるものということができ、被控訴人らは連帯してこれによって控訴人が被った損害の賠償義務がある。
 しかして、控訴人の慰謝料としては、一部反対勢力の動きに屈して積極的に動いた上記違法行為の態様に、控訴人が「すてっぷ」の館長に雇用されるまでの経歴、専門的知見と雇用されるに至った経緯、その後の3年余にわたる館長としての実績などを合わせて斟酌して、100万円をもって相当とするというべく、さらに、弁護士費用として50万円を被控訴人らの不法行為と因果関係のある損害として認める。