全 情 報

ID番号 : 08802
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : NTT西日本ほか(全社員販売等)事件
争点 : 電信電話会社数社への出向を経た労働者が時間外及び休日手当、付加金の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 :  電信電話会社Y1に在籍し、Y2・Y3と出向を経た労働者Xが、時間外及び休日手当、付加金の支払を求めた事案である。  大阪地裁は、出向先での「全社員販売」に従事した時間について、全社員販売は被告らが利潤を得るための活動であり、全社員販売を社員らが行うのは雇用関係が存在すればこそであること、営利企業の営利活動に無償で協力するいわばボランティアがあるとは想定し難いことなどからして、会社側が全社員販売は任意のものである旨説明していたこと等を考慮しても実質は業務上の指示によるものであって、労働時間性が認められるとした。また、WEB学習については、リンク系の業務を本務とする原告についてもノード系の業務に従事することがあったこと、会社はIP通信を重視するようになっており、Xがこれに関する知識を身につける必要性があったことがうかがわれること、WEB学習の教材は、一般性・汎用性を有する知識に留まらず、市販の書籍では勉強できない内容や、会社固有の仕様で作られた設備に関するもの等も含まれていて業務との関連性が密接であるといえることなどから業務上の指示によるものであったとして労働時間性を肯定し、その限りでY1に時間外手当及び休日手当、付加金の支払いを命じた(労働時間として否認部分あり)。ただし、出向先Y2・Y3の責任は否定した。
参照法条 : 労働基準法20条
労働基準法26条
労働基準法37条
労働基準法39条7項
体系項目 : 労働時間(民事) /労働時間の概念 /研修・教育訓練
労働時間(民事) /労働時間の概念 /全社員販売活動
裁判年月日 : 2010年4月23日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)9940/平成20(ワ)744
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1009号31頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)‐労働時間の概念‐研修・教育訓練〕
 〔労働時間(民事)‐労働時間の概念‐全社員販売活動〕
 2 全社員販売に従事した時間の労働時間性について
 この点、①全社員販売は、被告らが利潤を得るための活動であること、②全社員販売を社員らが行うのは、雇用関係が存在すればこそであること、③営利企業の営利活動に無償で協力するいわばボランティアがあるとは容易に想定し難いこと、④被告らにおいて1人当たり年間100万0000円の売上が目標として設定されていたこと、⑤A課長が平成15年度実行計画において、全社員販売の個人販売額月締め報告や販売会議への参加を求め、個人目標100万0000円を設定していたこと(〈証拠略〉)、⑥評価の参考資料となるチャレンジシートへの記入をB課長が求めていたこと(〈証拠略〉)、⑦現にA課長は、チャレンジシートにおいて、全社員販売の目標達成を指示したり、目標の達成状況を評価したりしていたこと(〈証拠略〉)、⑧平成17年度西日本ITオペレーションセンタ(第1回)販売会議においても、販売事例の紹介がなされていたところ、全社員への周知徹底まで指示されていたこと(〈証拠略〉)、⑨わざわざ換金するためにカードを購入したり、借金してまで全社員販売を行うことが危惧される状況であったこと(〈証拠略〉)、⑩全社員販売の状況は、社内のシステムで把握されていたこと等の点からすれば、被告らが全社員販売は任意のものである旨説明していたこと等を考慮しても、被告らの業務上の指示によるものであって、労働時間性が認められるというべきである。
 3 WEB学習の労働時間性について
 この点、①リンク系の業務を本務としていた原告についても、ノード系の業務に従事することもあったこと(〈証拠略〉)、②被告らはIP通信を重視するようになっており、原告がこれに関する知識を身につける必要性があったことがうかがわれること(〈証拠略〉)、③WEB学習の教材は、一般性、汎用性を有する知識に留まらず、市販の書籍では勉強できない内容や、被告ら固有の仕様で作られた設備に関するもの等も含まれており(〈証拠略〉)、被告らの業務との関連性が密接であるといえること、④A課長の作成した平成15年度実行計画には、IP系資格取得の推進が掲げられており、原告は名指しでBレベル資格以上を取得するよう求められていること(〈証拠略〉)、⑤チャレンジシートにおいて、A課長がノード系の取扱を参考にした業務改善を求めたり、WEB学習によるスキルアップ(特にIP系に関するもの)を明示的に求めていること(〈証拠略〉)、⑥B課長も、チャレンジシートに通信教育等による自己啓発を記載するよう求めており(〈証拠略〉)、WEB学習への取組を求めていること、⑦原告の受講したWEB学習は、いずれもノード系に関するものや、IPに関するものや、業務性の認められる全社員販売で必要になるサービス知識等業務に密接関連するものであること、⑧被告NTT兵庫は、平成16年度において、IP系ないしIT系新資格の取得が低調であるとして、平成17年度にIP系ないしIT系スキル向上に向けた育成を計画していたこと(〈証拠略〉)、⑨WEB学習の状況は、社内のシステムで把握されていたこと等の点からすると、被告らの業務上の指示によるものであって、労働時間性が認められる。
 4 時間外労働及び休日労働の有無について
 この点、①全社員販売の商品の中には、説明が必要なものや、商品の引き渡し、代金の収受を要するものがあり(原告本人)、相応に時間を要したと推認されること、②原告は、1日当たり30分から一、二時間程度WEB学習に従事していたこと(〈証拠略〉)等からすると、原告がノート(〈証拠略〉)に、全社員販売やWEB学習に要した時間として記載した部分は、信用できる。そして、これらに要した時間が労働時間であることは前記のとおりである
 他方、早朝に出勤して業務に従事したとしている時間は、当該時間に業務に関連する事項を行っていなかったとはいえないが、未だ被告らの業務上の指示によるものとは認められない。明示的な指示があったことはうかがえず、かえって、健康管理上の必要から時間外労働を原則として禁止していたことがうかがわれるからである(原告本人)。そうすると、始業時刻は、所定始業時刻である午前9時であると認められる。
 次に、原告は、全社員販売に赴いた日について、帰宅に要した時間も労働時間に含めて計算しているが、帰宅時間は、使用者の指揮命令に服しているとはいえないから、これを労働時間に含めることはできない。販売地への移動及び販売時間のみが労働時間になるものと認めた。
 以上によれば、原告の時間外労働及び休日労働は、別紙3〈略〉記載のとおりであると認められる。なお、全社員販売に赴いた日は、計算の便宜上、一律に午前9時を始業時刻とした。また、夏季休暇については、当事者の合理的意思解釈により、以下の日であると認めた。
 平成17年 8月15日(月曜日)から同月19日(金曜日)まで
 平成18年 8月14日(月曜日)から同月18日(金曜日)まで
 5 被告NTT兵庫及び被告NTTネオメイトの賃金支払義務の有無について
 賃金は、労働契約の存在を前提として、労務に従事したことの対価として支払われるものであるところ、原告は、被告NTT西日本と労働契約を締結していたもので、被告NTT兵庫や被告NTTネオメイトへは在籍出向、すなわち、被告NTT西日本との間の労働契約関係を維持したまま出向していたものであるから、被告NTT兵庫ないし被告NTTネオメイトとの間にはいずれも労働契約関係は存せず、したがって被告NTT兵庫及び被告NTTネオメイトのいずれについても、原告に対する賃金支払義務は負わないものと認められる。
 6 時間外手当及び休日手当の計算
 別紙4〈47頁〉記載のとおりである。なお、1円未満の端数については、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条により、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げて計算した。
7 付加金について
 被告NTT兵庫及び被告NTTネオメイトは、労働契約の当事者ではなく、賃金支払義務を負っていない以上、付加金を支払う義務もない。
 被告NTT西日本に対する付加金の請求について検討するに、付加金は、違反のあったときから2年以内にしなければならないから(労働基準法114条ただし書)、平成18年2月20日支払分以降の未払分が計算の基礎となる。
 また、付加金は、労働基準法20条、26条若しくは37条の規定に違反した使用者又は39条7項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して支払が命じられるものであるから、同法37条所定の割増賃金を超える被告NTT西日本の社員就業規則(〈証拠略〉)所定の割増賃金について付加金を命じるべきであると主張する部分は、失当である。そこで、被告NTT西日本が同法37条により支払うべき割増賃金を計算すべく、法定外労働時間数を計算すると別紙5〈略〉記載のとおりとなり、割増賃金額は、別紙6〈48頁〉記載のとおりとなる。なお、1円未満の端数については、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条により、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げて計算した。
 被告NTT西日本は、原告に対し、全社員販売やWEB学習を業務上の指示として行わせていたところ、これらを所定労働時間外で行うよう命じていたものであるが、他方で任意のものであるとして殊更に割増賃金を支払わずにいたものである。
 以上の事情からすると、被告NTT西日本に対し、60万0000円の付加金の支払を命じるのが相当である。