全 情 報

ID番号 : 08819
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : フェイス事件
争点 : デジタル・コンテンツの開発・配信会社の現地法人社長が、解雇の無効を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : デジタル・コンテンツの開発及び配信等を目的とする会社Yの中国現地法人社長として在籍出向し、中国撤退による職種消滅を理由に解雇された元社長Xが、労働契約上の地位確認と給与の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まずXの採用が職種を特定した採用であったかどうかについて、採用経緯、中国への派遣を前提とした雇用契約の内容、約束された高額の報酬及び採用後の勤務状況からすれば、Xは中国現地法人の社長という職種を特定されて雇われたということができ、X自身もそのことを認識していたと認定した。その上で、本件解雇が解雇権の濫用かどうかについて、当該職種が消滅したことを理由として行われたものであること、東京オフィスでは年俸が減額される可能性があることを告げられた際、Xはこれには応じられないと回答している以上配置転換の提案を行うことは現実的には困難であったこと、その他、Xに対して解雇予告期間として2カ月と10日余りと比較的長い期間を置き、また、再就職活動に配慮しながら月額100万円という高額な報酬を支払い続けるなど手続的にも経済的にも一定の配慮がなされていることからすれば、本件解雇には合理的な理由があり、社会通念上相当なものものとして解雇は有効であるとして、Xの訴えを棄却した。
参照法条 : 労働基準法19条
労働契約法16条
民法709条
民法710条
体系項目 : 解雇(民事) /解雇事由 /企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
裁判年月日 : 2011年8月17日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)25936
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2123号27頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 1 争点(1)について〔中略〕
 (3) 以上のような原告の採用経緯、中国への派遣を前提とした雇用契約の内容、原告に約束された高額の報酬、上記第2の2(3)で摘示したような採用後の勤務状況からすれば、原告は中国の現地法人の社長という職種を特定されて雇われたということができ、原告もそのことを認識していたといえる。
 なお、この点、原告は、中国の現地法人の社長の職務がなくなったら解雇されるという話は聞いておらず、職種の特定はされていなかったと主張している。しかしながら、原告が主張するような停止条件付き解雇の合意がなかったからといって、原告の職種が特定されていなかったといえるものではなく、原告の職種が特定されていたという上記認定を左右するものではない。
 2 争点(2)について〔中略〕
 ア 原告は、平成21年7月27日、被告の人事部担当者に呼び出され、原告が出向先から支払われている給与が増額されていることについて質問され、ついで、原告が出向を解かれて被告の東京オフィスに帰任した際、年俸が1200万円より下がることを告げられた。これに対して、原告は、出向先から支払われている給与の増額はA社人事部の提案を受けてしたもので、被告の承認も得ていると反論し、年俸の減額には応じられないと答えた。同日、原告は、被告の取締役に呼ばれ、A社に残っても良いし、被告に帰任しても良いが、被告には原告の能力を発揮できる仕事があまりないと告げられたが、その場では何も回答しなかった。
 同年10月19日、原告は被告の東京オフィスに出張した際、被告の当時の上司から同年12月末で被告を辞めてもらいたいと告げられ、これを断ったところ解雇すると通告され、後日メールで解雇通知書が送られてきた。
 (書証略)
 イ 被告は同年10月19日付けで解雇通知書を作成したが、原告の再就職活動のことも考え、同年12月末日まで解雇予告期間を設け、その間、引継で必要な場合以外には特に職務に従事する必要はないものとし、同月末日まで月額100万円の報酬を支払った(書証略)。
 ウ 確かに、上記第2の2(5)のとおり、本件において原告の職種が消滅した理由、つまり被告が中国から撤退した理由は、A社の業績が伸びず赤字経営が続き、被告が経営判断として行ったものであり、A社の経営不振について原告に一義的な責任があるとまでは認められないところである(ただし、原告はA社の社長であった以上、何ら経営責任がないといえるものではなく、また、A社の業績が赤字であったにも関わらず原告は自分自身の報酬を上げる(書証略)など、その経営判断には疑問を感じるところはある。)。また、本件解雇に先立って、被告が原告に対して具体的に配置転換の提案をしたような事実も認められない。こうしたことからすると、本件解雇については、被告において若干その配慮を欠いたところがあるといわざるを得ない。
 しかしながら、原告は、その人脈や専門的な能力を買われ、中国の現地法人の社長という職種を特定された上で、高額の報酬で雇われている以上、特定された職種が消滅すれば基本的には解雇されてもやむを得ない立場にある。また、被告が期待した原告の能力等は上記のようなものであるから、これを被告の従業員として活用をすることは困難といわざるを得ない。さらに、原告は、かかる能力等を買われて高額の報酬で雇われている以上、かかる能力等を発揮することができなければ、それに見合った報酬を受け取る理由もなくなるものと思われるが、原告は、被告の人事部担当者から、年俸が減額される可能性があることを告げられた際、これに応じられないと回答している以上、被告において原告を配置転換する現実的な可能性はなかったものといえる。
 こうしたことに加えて、上記第2の2(6)のとおり、被告は、本件解雇に先立って退職勧奨の場を設けていること、解雇予告期間として2ヶ月と10日余りと比較的長い期間をおいていること、その間被告は原告に対して引き継ぎ以外の仕事はさせておらず、原告の再就職活動に配慮しながら、月額100万円という高額の報酬を支払い続けるなど、手続的にも経済的にも配慮をしていることが認められる。
 以上からすると、本件解雇は、高額の報酬と高い地位に職種が特定されて雇われた原告について、当該職種が消滅したことを理由として行われたものであること、原告に対して配置転換の提案を行うことは現実的には困難であったこと、その他、原告に対して手続的にも経済的にも一定の配慮がなされていることからすれば、本件解雇には合理的な理由があり、社会通念上相当なものといえ、本件解雇は有効であると解する。