全 情 報

ID番号 : 08858
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 積水ハウスほか事件
争点 : 派遣社員が偽装派遣を理由に地位確認請求と賃金の支払及び損害賠償の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 :  人材派遣会社Y1に派遣登録し、Y1から建築工事請負会社Y2へ派遣された社員Xが、本派遣契約は偽装派遣であるとして、Y2に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認請求と賃金の支払を求め、またY1ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。  大阪地裁は、まず派遣労働者であるXと派遣元であるY1との間の派遣労働契約、Y1、Y2間の労働者派遣契約がいずれも無効であると認めるに足りる特段の事情があるとは言い難く、ひいては、XとY2との間で黙示の労働契約が成立していたとも認められないとして、Y2への地位確認及び賃金請求を斥けた。続いて、Y1、Y2らのXに対する不法行為について、XとY2との間に黙示の労働契約が成立していない以上、派遣契約を終了したこと自体、解雇にも雇止めにも該当せず、不法行為となる理由もないとし、またY2が業務縮小等を理由として労働者派遣契約を終了したことも、元々雇用契約が成立していない以上、労働契約法16条に違反する余地はないとする一方で、少なくともY2の管理職は、一旦派遣契約はしても3か月後に再び派遣労働者として就労することができるとの話をして、Xもそれに期待していたことが推認され、Xの同復職就労に対する期待は、法的保護に値するものであると解するのが相当であるとして、精神的苦痛への慰謝料を認めた。
参照法条 : 労働契約法16条
労働者派遣事業法40条の3
民法709条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /労働者
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2011年1月26日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)3157
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1025号24頁/労働経済判例速報2098号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐労働者〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 (2) 原告主張に係る被告らの違法行為の有無
 ア 原告は、被告らが労働者派遣法に違反して被告A社の下で長期間にわたって原告に対して違法に指揮命令して労務を提供させながら、その一方で形式的に労働者派遣という直接の雇用責任を免れる形式をとって、何らの制限のない形で全く正当な理由なし原告に係る労働者派遣契約を打ち切り、その結果、原告の雇用の場を得て賃金を受けるべき地位を侵害したものであって、被告らの原告に対する一連の行為は強度の違法性を帯びている旨主張する。
 しかし、〈1〉原告が被告A社の下で従事していた業務は、政令26業務のうち、政令5号業務ないし同業務の付随業務に該当すること(仮にそれに該当しないとしても、被告B社との間の本件派遣労働契約が無効となるものではないこと。)(上記1(2)ア)、〈2〉被告B社は、原告の被告A社への派遣就労について、労務管理(勤務表の提出や有給休暇付与通知等による原告の労働時間管理等)や契約更新手続を適切に行っていたと認められること(上記1(1)ウ)、〈3〉原告と被告B社の本件派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約はいずれも有効である一方、原告と被告A社との間に黙示の労働契約が成立しているとは認め難く、同被告が被告B社との本件労働者派遣契約を終了したこと自体、解雇あるいは雇い止めには該当しないこと(上記1(2)イ)がある。以上の事実を踏まえると、上記違法派遣行為を前提として被告らの行為が違法行為であると主張する部分(直接雇用義務違反行為)は、いずれも理由がないといわざるを得ない。〔中略〕
 以上の事実を総合すると、少なくとも原告が就労していた本件センターの所長であるC所長は、原告に対し、一旦派遣契約は終了するものの、3か月後に再び派遣労働者として就労することができるとの話をして、原告もそれに期待をしていたことが推認される。
 ところで、原告は、平成20年8月以降、上記(1)イ(オ)で認定したとおり被告B社等を通じて求職活動をしている。同求職活動をもって、原告の上記復職の期待がなかったとは直ちにいえない上、同年8月時点では少なくとも同年9月から同年11月までの期間、確定した職がなく、その間に求職活動をして新たな職場を見つけようとすることは不自然なことではない。また、原告はその間求職活動をしているが、就職はしていない。以上の事実を踏まえると原告の同求職活動をもって上記認定した原告の同復職に対する期待を抱いていたという認定を左右することができない。〔中略〕
 (3) 原告の損害
 ア C所長は、その言動を通して原告に対し、派遣就労終了後、3か月をおいた後再度原告を就労することができるという期待を持たせたにもかかわらず、これを侵害した違法行為がある。また、原告とC所長との再就労に向けた話合いの経緯及びその内容、同行為によって、少なくとも派遣就労が終了した平成20年8月31日から、C所長から再度就労させることができなくなった旨告げられた同年10月4日までの間、原告の就職活動が事実上妨げられたこと、他方、原告は、平成20年8月以降も被告B社を通じて派遣労働に係るエントリーをしていたこと等、本件に顕れた諸般の事情を総合的に斟酌すると、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては30万円が相当である。
 イ したがって、原告の被告A社に対する損害賠償請求については、30万円及びこれに対する不法行為の日以後である平成20年10月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるというべきである。
 3 結論
 以上の次第で、原告の被告A社に対する損害賠償請求については、主文掲記の範囲で理由があるからその範囲で認容することとし、その余についてはいずれも理由がないから棄却する。