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ID番号 : 08860
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 派遣会社に整理解雇された派遣労働者が、地位確認及び賃金の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  電気機械メーカー工場で勤務していた派遣労働者Xが、派遣会社Yが行った解雇の意思表示は、整理解雇の要件を満たしておらず無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払を求めた事案である。  横浜地裁は、整理解雇の時点でYに切迫した人員削減の必要性があったとまでは認められない上、本件整理解雇に先立ち、希望退職の募集など他の手段により解雇回避努力を尽くしたとも言い難く、整理解雇の対象者の人選についてもその人選基準それ自体に合理性を認めることができないから、従業員及び労働組合との協議・説明については明らかに相当性を欠くとはいえないことを考慮しても、整理解雇の一環としてなされた本件解雇は、就業規則の「経営上やむを得ない事由のあるとき」に該当するとは認められず、また、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとした。その上で、解雇は無効であり、XはYに対して労働契約上の権利を有する地位にあると認められるとして請求を認めた。
参照法条 : 労働契約法16条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /派遣労働者・社外工
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 : 2011年1月25日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)3504
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 判例時報2102号151頁/判例タイムズ1343号86頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐派遣労働者・社外工〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の回避努力義務〕
 二 以上の認定事実を踏まえて、争点について判断する。
 (1) 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については、厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という四要素を考慮するのが相当であり、以下このような観点から本件解雇の有効性について検討する。
 ア 人員削減の必要性
 前記第三・一(2)ア及びウの認定事実によれば、平成二〇年度における被告の売上げ及び売上総利益がいずれも平成一九年度より減少していたこと、平成二一年三月末までに派遣契約解消のため待機社員となる技術社員が四九四名、同年四月の待機社員が四二〇名(待機率一七・一パーセント)に上っていたことが、それぞれ認められ、こうした待機社員の増加が、派遣事業を目的とする被告の経営に影響を及ぼすことは否定できない。また、第三・一(3)のとおり、Aグループの中核会社であった株式会社Bが、平成二〇年一月一一日に労働者派遣事業停止命令等を受けたことを経て同年七月三一日に労働者派遣事業を廃止するに至ったこと及びAホールディングスの業績悪化は、グループ会社である被告の信用力等に一定の影響を与えたと推認される。
 しかしながら、第三・一(2)アのとおり、被告は、平成二〇年五月度に経常利益が赤字に陥った以外、本件整理解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であり、本件整理解雇にあたって被告における人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない。また、第三・一(2)イ(エ)のとおり、被告は、本件解雇予告通知日から約一〇か月後の平成二二年一月からは求人を行うとともに、退職者に声をかけて復職させている。そして、被告は、平成二〇年度決算(同年七月から平成二一年六月まで)で二二億円を超える貸倒引当金を計上したと主張するが、原告が提出を求めている貸借対照表及び損益計算書等の客観的な経営資料を提出しておらず、貸倒引当金について、その裏付けとなる経営資料等が提出されないため、かかる事実を認めることはできない。加えて、第三・一(2)エのとおり、被告は平成二〇年四月ころまでにAホールディングスに対して二〇億六五〇〇万円を貸し付け、平成二一年一一月三〇日にはその貸付金及び未払利息二三四一万二二七五円の合計金二〇億八八四一万二二七五円もの債権放棄をする一方で、前記貸付金と相殺することもなく、平成二〇年初頭から指導料として毎月約五〇〇〇万円もの支払を続けていたのであって、この点も、被告における人員削減の必要性を考えるに当たって消極的に判断すべき要素というべきである。
 そして、これらの事情を総合すれば、被告の経営状態は好ましくない方向に推移していたものと認められるものの、本件整理解雇にあたり、その時点で、被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認めるに足りない。
 イ 解雇回避努力
 前記第三・一(2)イのとおり、被告は、リバイバルプラン若しくは追加措置に基づき、平成二〇年七月以降、支店・本社の部署を統廃合等して賃料及び人件費を削減したこと、役員報酬及び間接社員の給与の減額をしたこと、平成二一年入社予定の新卒採用人数を抑制し平成二二年入社予定の新卒採用は中止したこと、間接社員を対象として希望退職者の募集を実施して合計一二一名が退職したこと、待機期間四五日ないし一二〇日以上の技術社員に対して退職勧奨を行って合計三九三名が退職したこと、待機社員四名をAグループ内の他社へ転籍させたこと、一部の待機社員の一時帰休を実施したことが、それぞれ認められ、解雇を回避するために、一定の措置を講じたといえる。
 しかし、先に判示したとおり、被告が本件整理解雇当時に人員削減の目標を定めていたかも明らかではなく、また、第三・一(3)及び(4)記載のとおり、被告は、技術社員に対する希望退職者の募集を一切行わないまま、平成二一年三月末時点の待機社員の人数が四九四名に上るとの予測を受けて、直ちに原告を含めた待機社員三五一名にも及ぶ本件整理解雇を実施することを決定し、その解雇通知を行っている。こうした事情によれば、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避するため、希望退職の募集など他の手段により本件整理解雇を回避する努力を十分に尽くしたとは認められない。
 なお、被告は、技術社員に対する希望退職が、被告にとってかえって人材流出という不利益をもたらし実効的な解雇回避措置として機能しない状況にあったと主張するが、かかる主張は、その具体的な裏付けに乏しい上、先に認定した本件整理解雇に至る経緯に照らせば、本件整理解雇に当たって一切の希望退職を行わないことの合理的根拠となり得ないというべきである。
 ウ 人選の合理性
 先に判示したとおり、本件解雇当時の人員削減の必要性及びその程度は明らかではなく、被告の人員削減の目標も明確ではないところ、第三・一(4)ウのとおり、被告は、平成二一年三月末時点で待機状態にあり同年四月に新規配属されない若しくは同年三月末から同年四月末の間に自己都合退職しないというだけで、これまでの就業状況等を一切考慮せず待機社員三五一名を本件整理解雇の対象としているため、本件整理解雇の人選基準が、一般的に合理性を有するとは認め難い。そして、この点を原告について個別的に見るに、原告が被告と雇用契約を締結してから一三年間にわたり継続的に派遣先で勤務し、平成二一年三月末に初めて待機社員となったことは第三・一(1)のとおりであり、このような原告の就業状況等を顧みることなく直ちに同年四月末に本件整理解雇の対象としたことに、合理性を見出すことは困難というほかない。
 以上のとおりであるから、本件整理解雇については、その人選基準それ自体に合理性がない上、本件解雇に至るまでの原告の稼働状況に照らしても、原告を本件整理解雇の対象とすることには合理性がない。
 エ 手続の相当性
 前記第三・一(4)イ、ウ及びオのとおり、Aグループが、平成二一年二月二五日、分会に対してリストラクチャリングの実施を申し入れて、同年三月一七日までに団体交渉及び事務折衝を継続し、同日、人員削減の条件等について合意に達したこと、被告が、同年三月九日、原告を含む解雇の対象者に対し、人員削減についての説明会を開催し、説明会で出された質問事項については後日従業員に対し回答書を電子メールで送付して説明したこと、原告が加入したC労組との間においても二度の団体交渉を開催したことが、それぞれ認められる。
 上記説明会及びC労組との団体交渉における被告の説明等は、被告が具体的な財務資料等を提出しないことなどから原告にとって必ずしも納得のいくものではなかったことが窺われるが、被告が一定の説明及び協議を行っていること並びに上記分会との交渉及び合意に至った経緯も総合すれば、被告の対応が明らかに相当性を欠くとまではいえない。
 オ 以上の諸事情を総合的に勘案すると、本件整理解雇の時点で被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認められない上、被告において、本件整理解雇に先立ち、解雇回避努力を尽くしたとは言い難く、本件整理解雇の対象者の人選についても合理性を認めることができないから、従業員及び労働組合との協議・説明については明らかに相当性を欠くとはいえないことを考慮しても、本件整理解雇の一環としてなされた本件解雇は、本件就業規則二〇条六号の「経営上やむを得ない事由のあるとき」に該当するとは認められず、また、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。したがって、本件解雇は無効であって、原告は被告に対して、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。