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ID番号 : 08871
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 全国青色申告会総連合事件
争点 : 権利能力なき社団に再雇用された労働者が期間満了後の雇止めを無効として地位確認、賃金等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 全国の青色申告会の指導連絡を図り、申告納税制度の確立と小規模企業の振興に寄与することを目的とした権利能力なき社団Yを定年退職後に再雇用されていた労働者Xが、期間満了後の雇止めを無効として、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金、遅延損害金の支払いを求めた事案である。 東京地裁は、まずYが65歳まで採用を続ける旨の約束をしたとのXの主張について、定年が60歳であることを前提に、65歳まで再雇用されることはあり得るという意味にとどまるもので、65歳までの雇用継続を保障するものとは認められないとした上で、Yの再雇用制度は、高年齢者雇用安定法の「高年齢者雇用確保措置」規定の施行を受けたYの就業規程改訂後初めてXが定年を迎えたのであり、Xの雇止めが更新を経ずして行われたものであることからも制度の運用についての慣例は存在せず、本件再雇用契約後の職務内容がそれ以前と同じであったことを考慮に入れてもなお、Xにおいて、再雇用契約終了後の継続雇用について合理的な期待があったとはいえないとした。その上で、本件雇止めに解雇権濫用の法理を適用すべきとのXの主張は採用できず、雇止めは有効であって、再雇用契約は契約期間の経過をもって終了したことになるから請求にはいずれも理由がない、としてXの請求を棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(旧)4条の5
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(現行)8条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(現行)9条
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2012年7月27日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)1104
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2155号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 2(1) 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告において、職員が引き続き勤務することを希望すれば、就業規程の定める一定の要件の下、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度が採用されたのは、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂によってであり、原告は、被告において、前記改訂後初めて定年退職を迎える正職員であったこと、本件雇止めは、更新を経ずして行われたものであることが認められるから、本件においては、前記再雇用制度の運用状況や過去の更新の手続・回数等の雇用継続の合理的な期待を裏付けるに足りる客観的な事情は、特に見当たらないと言わざるを得ない。
 (2) 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、平成3年当時、60歳定年制は未だ法律上義務づけられていなかったこと、被告において、職員が引き続き勤務することを希望し、一定の要件を満たしていれば、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度は存在しなかったことが認められるのであって、被告における定年が60歳であることが求人カードによって明示されていることを考え合わせれば、求人カードに再雇用制度有りという旨の記載があるとしても、また、原告の主張するとおり、C及びDが、再雇用制度があり、65歳まで働くことができる旨を説明したとしても、それは、未だ存在していなかった前記の内容の再雇用制度を前提とするものではなく、定年が60歳であることを前提に、65歳まで再雇用されることもあり得るという意味にとどまるものと評価され、原告の65歳までの雇用継続を保障するものとは認められないから、平成22年10月20日の本件再雇用契約の期間満了に当たっての原告の雇用継続の合理的な期待を裏付けるには足りない。
 (3) 前記認定事実、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、本件再雇用契約書には、平成21年10月21日より平成22年10月20日までという期間の定めが記載されており、加えて、当該期間経過前に合意又は被告の解除により雇用契約を終了させることができる旨の定めがあったこと、平成21年及び平成22年当時の被告の就業規程には、職員が引き続き勤務することを希望し、一定の要件を満たしていれば、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度の定めがあるが、その期間の終了後については、「重ねて再雇用することがある。」との規定があるのみで、職員が引き続き勤務することを希望し、一定の要件を満たしていれば、更に再雇用を継続する旨は規定されていないこと、被告は、その就業規程を高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正に沿ったものとするため、手続を踏んで、平成18年4月1日付け就業規程の改訂を行ったこと、原告は、前記就業規程の改訂手続において意見を述べており、改訂内容を認識していたこと、本件再雇用契約書の書式が平成21年10月16日午前9時30分頃の面談において原告に手交され、原告は、これを持ち帰り、同日午後4時過ぎ頃、Eに再雇用契約を締結する旨を申し出るに先立ち、本件再雇用契約書の書式の記載内容を確認したことが認められる。
 前記の就業規程の記載をみれば、就業規程上、1年の再雇用契約の期間終了後の再雇用継続が保障されていないことは明らかであるし、本件再雇用契約書には、1年の再雇用契約の期間終了後の雇用継続については記載はなく、むしろ1年の再雇用契約の期間終了までに本件再雇用契約が終了する可能性があることが記載されており、原告がこれらの両方を本件再雇用契約締結までに認識していた以上、原告の本件再雇用契約の期間終了後の再雇用継続についての期待を、合理的なものであったということはできない。
 原告は、平成21年9月10日、Eから、再雇用契約書を手交されたが、それには雇用期間が平成22年10月20日までと記載されていたので、65歳まできちんと契約が更新されるのかを尋ね、Eは、就業規則上1年毎の更新になっているため、再雇用契約書がこのような記載になっていると説明した上で、65歳まで契約が更新されることはその通りである旨回答したと主張し、これに沿う供述をするが、65歳までの雇用が就業規程の定める再雇用制度によってすら確実に保障されていないのは、就業規程の文言上明らかであるのに、事務局長であるEが65歳まで確実に毎年再雇用契約が更新される旨を述べたとは考え難い。組合が被告との団体交渉において、協議事項の一つとして、「再雇用に伴う労働条件の切り下げ(給与減・有期契約)に関すること」を挙げ、65歳までの一括契約と給与の減額を改めるよう要求したこと(書証略)や、原告も、その作成した書面において、団体交渉の内容として同旨の記載をしていること(書証略)からしても、定年が65歳まで延長されるか、再雇用契約の雇用期間が定年退職の翌日から65歳までの5年間とされた上で再雇用契約が締結されない限り、65歳までの雇用が保障されないことは、原告も当然認識していたといえるところ、原告が、その主張するEの回答を聞いたにもかかわらず、本件再雇用契約書の文言の訂正を求めず、署名押印していることを考えれば、原告の前記供述は採用できず、他に原告の前記主張を裏付けるに足りる証拠はない。
 (4) 前記のとおり、被告の再雇用制度は、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂により導入されたもので、原告は、被告において、前記改訂後初めて定年を迎える正職員であったから、被告において、前記制度の運用について、慣例は存在しなかったというほかはない。
 原告は、被告及び東京青色申告会連合会の職員の定年後再雇用や役員が60歳を超えても勤務している例を挙げるが、いずれも被告における65歳までの継続雇用の慣例の存在を裏付けるに足りない。なお、原告は、被告の平成2年4月の東京青色申告会連合会事務局からの分離・独立後に本件雇用契約を締結しており、前記のとおり、被告の再雇用制度の制度化は、それ以降であるから、東京青色申告会連合会の例をもって、被告における60歳以上の職員の雇用についての慣例を根拠付けることはできない。
 (5) 以上によれば、原告の本件再雇用契約後の職務内容が、それ以前と同じであったことを考慮に入れてもなお、原告において、本件再雇用契約終了後の継続雇用について合理的な期待があったとはいえない。
 前記認定を覆すに足りる主張・立証はない。
 3 したがって、本件雇止めについて、解雇権濫用の法理を適用すべきであるとの原告の主張は採用できず、その余の点を判断するまでもなく、本件雇止めは有効であり、本件再雇用契約は、契約期間である平成22年10月20日の経過をもって終了したことになるから、原告の請求はいずれも理由がない。