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ID番号 : 08875
事件名 : 債務不存在確認等請求事件(24169号)、損害賠償請求事件(23474号)
いわゆる事件名 : 東起業事件
争点 : 土木建築会社の元支店長が預託金返還・損害賠償等を求め、会社が背任行為による賠償を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 土木建築等の請負及び受託会社Yで支店長に就任後定年退職したXが、〔1〕在職中に預託した金銭の返還、〔2〕ナビシステムによる居場所確認、行動予定の入力指示等の不法行為に基づく損害賠償、在職中の懲戒処分等不法行為に基づく損害賠償及びこれを理由とする減額賃金・未払退職金等の支払いを求め(甲事件)、これに対しYは、〔3〕Xが背任行為によってYに高額の損害を与えたとして、労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償等を求めた(乙事件)事案である。 東京地裁は、まず〔1〕と〔3〕について、Xが下請業者に請負代金を水増し請求させ、水増し分を実体のないダミー会社の預金口座に振り込ませて株式投資等個人的に費消し、Yに対して損害賠償義務を負っていたものであり、XがYに対して行った債権譲渡を預託金である旨主張するが、預託契約自体成立していないとして、Xの返還請求を斥ける一方、Yの損害賠償請求を認めた。次いで〔2〕について、減給処分には理由があり、執拗な謝罪文の提出要求等にも客観的・合理的理由があり、手続も違法な点はなく有効であるとしてXの請求を斥けたが、ナビシステムによる居場所確認、行動予定の入力指示については勤務時間外である早朝、深夜、休日、退職後の時間帯、期間に限って一部不法行為を認め、また、減給処分による一連の差額請求については、使用者に生じた債権をもって労働者の賃金債権と相殺することは労働基準法24条により許されないとしてYの主張を斥け、資格手当・役付手当に限ってXの請求を認めた。
参照法条 : 労働基準法24条
民法709条
民法623条
民法415条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /労動者の損害賠償義務・求償金債務
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事) /賃金の支払い原則 /全額払・相殺
裁判年月日 : 2012年5月31日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ワ)24169/平成20(ワ)23474
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1056号19頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐労動者の損害賠償義務・求償金債務〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 ア 上記(1)の事実関係を前提として、本件預託金返還請求権(請求〈1〉)及び本件損害賠償請求権(請求〈7〉)の有無について判断する。〔中略〕
 第1に、原告は、税務調査開始の当初から営業経費の捻出は自らが独断で行った旨認めていたし、その使途については、被告のために営業経費として使用した旨をあいまいに述べるにとどまり、詳細を明らかにしようとはしなかった。〔中略〕
 第2に、国税当局の税務調査においても、原告が、下請業者に請負代金を水増し請求させ、水増し分を実体のないダミー会社の預金口座に振り込ませて株式投資等個人的に費消し、被告に対して損害賠償債務を負担している事実が認定されている。
 第3に、原告は、自らの金融資産のほぼすべてを現金化してC弁護士の預金口座に振り込んだ上、一連の税務調査が終了し、被告が法人税の更正等に応じて法人税の差引納付及び加算税の納付をした後の平成13年7月頃に、被告に対し565万3300円の債権を譲渡し、原告本人は、これも被告に対する預託金であると供述するが、原告の論理によれば、税務調査の終了後に新たに被告に財産を預託する必要はなく、当該債権譲渡も被告に対する損害賠償債務の一部弁済であると認めるのが相当である。そして、被告は、C弁護士の預金口座への振込金及び上記債権譲渡について、会計上、いずれも原告による損害賠償債務の一部弁済として処理しており、原告の被告に対する損害賠償債務は、平成20年度に至るまで継続して、貸借対照表に未収金として計上されている。
 第4に、原告は、C弁護士が作成した念書の案文(〈証拠略〉)の内容について、ほかの弁護士に相談し、その助言を得た上でもなお、自らの責任を認める内容の記載された本件念書に署名、押印して被告に差し入れているし、被告とH社との間の訴訟においても、受訴裁判所に提出され、公開法廷において取り調べられることを知りながら、改めて自らの責任を認める内容の陳述書を作成し、当該陳述書は、受訴裁判所において、実際に取り調べられている。
 第5に、C弁護士は、本件仮差押命令申立事件の報酬を算定するに当たって、原告には被告に対する損害賠償債務が存在することを前提に、当該事件の経済的利益として、本件仮差押命令の請求債権額の一部3000万円のほか、原告から支払を受けた約6300万円を損害賠償債務の一部弁済として評価した上、これらを基礎として報酬額を算定して被告に請求しており、被告は、上記算定に基づく報酬をC弁護士に支払済みである。〔中略〕
 以上によれば、原告と被告との間において、本件預託契約の成立は認められないというべきである。
 ウ(ア) 続いて、上記イで判示したところによれば、原告は、本件念書において認めたとおり、被告の下請業者に適正な請負代金を水増しした金額を被告に請求させるとともに、当該下請業者が被告から支払を受けた請負代金の中から、被告千葉支店長である原告の管理する複数のダミー会社の預金口座に外注費として振り込ませる方法によって蓄財した合計4億0596万8716円を、個人的な株取引等に費消し、被告に同額の損害を与えたということができる。〔中略〕
 以上のとおり、原告は、被告に対し、労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償債務を負担しているというべきである。
 (イ) そして、労働契約上の債務は、商行為によって生じた債務ということができるから、商法522条に基づき、その消滅時効期間は5年となる(被告は、消滅時効の一般原則である民法167条1項が適用されることを前提に、消滅時効期間を10年と主張するが、上記判示に照らし採用することができない。)。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 2 争点(2)(本件減給処分、執拗な謝罪文の提出要求の違法を理由とする不法行為の成否。請求〈2〉関係)について〔中略〕
 本件減給処分に至る社内手続についても、特段、違法・不当はうかがわれない。したがって、本件減給処分は、客観的、合理的理由があり、社会通念上相当であるから、有効であるというべきである。
 以上により、本件減給処分の違法をいう原告の主張は、採用することができない。〔中略〕
 3 争点(3)(本件監視システムの設置、本件ナビシステムによる居場所確認、行動予定の入力指示の違法を理由とする不法行為の成否。請求〈3〉関係)について〔中略〕
 原告主張の不法行為は、原告の勤務時間外である早朝、深夜、休日、退職後の時間帯、期間に本件ナビシステムの居場所確認をすることの限りで認められる。〔中略〕
 上記不法行為に基づく損害について、Bの行動態様、本件ナビシステムの使用回数等本件に現れた全事情を総合考慮し、原告の精神的苦痛を慰謝するための金額として10万円をもって相当と考える。
 そして、Bは、被告の業務の執行につき上記不法行為をしたというべきであるから、被告は、民法715条の使用者責任を負うことになる。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐労動者の損害賠償義務・求償金債務〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔賃金(民事)‐賃金の支払い原則‐全額払・相殺〕
 4 争点(4)(本件減給処分による減額分の基本給支払請求権、未払賞与請求権、資格手当・役付手当支払請求権、未払退職金請求権の有無。請求〈4〉関係)について〔中略〕
 ウ したがって、原告の資格手当・役付手当の支払請求は、原告が被告に対して24万円の支払を求める部分に限って理由があり、その余は理由がない。
 (4) 未払退職金請求権について〔中略〕
 以上によれば、原告の未払退職金請求は理由がない。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 5 争点(5)(立替金返還請求権の有無。請求〈5〉関係)について〔中略〕
 したがって、原告の立替払返還請求は理由がない。
 6 争点(6)(不当利得返還請求権の有無。請求〈6〉関係)について〔中略〕
 したがって、原告の不当利得返還請求は理由がない。