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ID番号 : 08880
事件名 : 雇用関係存続確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 南淡漁業協同組合事件
争点 : 漁業協同組合を解雇された元職員が地位確認、賃金等の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 漁業協同組合Yを解雇された元職員Xが解雇権濫用、解雇無効を主張して、〔1〕労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〔2〕労働契約に基づき、未払給与及び賞与と遅延損害金の支払い、〔3〕労働契約に基づき、将来分の給与の支払いを求めるとともに、〔4〕上記解雇が不法行為にあたるとして、慰謝料及び弁護士費用と遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。 第一審神戸地裁洲本支部は、〔1〕から〔3〕までの請求を認容し、〔4〕についても一部認容。双方が控訴。 第二審大阪高裁は、Xには、Yの職員としての重大な規律違反行為が認められ、これによってYの行う信用業務についての組合員らの信頼を損ねたほか、日常的に他の職員との間で業務上必要な連絡や連携を拒むことによってYの業務に少なからぬ支障を生じさせており、Y代表者の再三にわたる注意に対しても反発を強めるばかりで一向に改善の見込みがなかったことから、Yの行った解雇処分は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認することができ、解雇権の濫用として無効であるとは認めることができないとした。その上で、第一審判決のうちX勝訴部分を取り消し、Xの請求をいずれも棄却し、さらに控訴についても棄却した。
参照法条 : 民法709条
労働契約法16条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
解雇(民事) /解雇事由 /企業秩序・風紀紊乱
解雇(民事) /解雇事由 /業務命令違反
解雇(民事) /解雇事由 /名誉・信用失墜
裁判年月日 : 2012年4月18日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ネ)3003
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1053号5頁
審級関係 : 一審/神戸地洲本支平成23.9.8/平成22年(ワ)第2号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐企業秩序・風紀紊乱〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐業務命令違反〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐名誉・信用失墜〕
 エ 上記(1)に認定のとおり、1審被告代表者は、1審原告が1審被告の職場で他の同僚職員と会話をしないだけでなく、職務上必要な連絡や伝達さえもしなくなり、事務処理上さまざまの支障が生じていることについて3回にわたって1審原告に注意をしたにもかかわらず、1審原告はこれを聞き入れようとせず、2回目の注意を受けた際には反発して午後には家に帰ってしまい、3回目の注意を受けた際には「ほっといてくれ」などと強く言い返して勤務態度を改めようとは全くしなかったものであるから、1審被告の側でそれ以上の注意を重ねても1審原告の勤務態度の改善が期待できないものと判断したことはやむを得ないところであったというべきである。
 この点、1審原告は、本件解雇処分の前の段階で、1審被告代表者らから、解雇を含めて厳しい処分を検討しているので職務態度を改善するようになどといった指導や警告を受けておらず、かかる指導や警告を受けたなら、1審原告が職務態度を改善した蓋然性があったと主張する。しかし、上記のとおり1審原告が他の職員との会話をせず、職務上必要な連絡や伝達さえも行わない状態を長期間にわたって続けており、1審被告代表者からの注意や指導に対しても、何らの説明や弁明をすることもなく、むしろ反発を強めるだけであった一連の態度に照らすと、1審原告の主張は到底採用することができない。
 また、段階的な処分を踏むべきであったとの1審原告の主張についても、1審被告代表者からの注意や指導に対して一向に態度を改めることがなく、かえって反発を強めるばかりであった1審原告の一連の態度に照らすと、段階的な処分によって1審原告が態度を改善させる可能性があったものとは認められないから、1審原告の主張は認められない。
 オ 以上のとおり、1審原告には、1審被告の職員としての重大な規律違反行為が認められ、これによって1審被告の行う信用業務についての組合員らの信頼を損ねたほか、日常的に他の職員との間で業務上必要な連絡や連携を拒むことによって1審被告の業務に少なからぬ支障を生じさせており、1審被告代表者の再三にわたる注意に対しても反発を強めるばかりで一向に改善の見込みがなかったことに照らすと、1審被告の行った本件解雇処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認することができるものであるから、これが解雇権の濫用として無効であるとは認めることができない。
 2 1審原告の請求
 (1) 前記のとおり、本件解雇処分は有効であるから、1審原告の1審被告に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求並びに給与及び賞与相当額の支払請求は、いずれも理由がない。
 (2) 慰謝料及び弁護士費用
 1審原告が1審被告から本件解雇処分を受けたことによる慰謝料請求及びこれに伴う弁護士費用請求についても、いずれも理由がない。
 なお、1審原告は、本件解雇処分に至るまで、〈1〉1審原告を除く1審被告職員3名が、1審原告には何も連絡せず、休日出勤をした、〈2〉自動販売機のの鍵の場所を教えなかった、〈3〉Bの休暇取得を教えなかった、〈4〉1審原告が求めた年末調整のための証明書の提出に応じなかったなど、1審被告の職場内でいじめを受けたとして、これをも慰謝料請求の事情として主張する。
 証拠(〈証拠・人証略〉)によると、1審被告は、淡路島等を選挙区とする衆議院議員の後援会事務局を設置していたところ、平成20年9月20日の土曜日、同後援会の臨時総会を開催することが決まったため、会員に案内状を送付することになったこと、Aは、その作業を行うことになったものの、1人では手に余るので、本所近隣に居住していたB及びCに電話をかけ、その作業を手伝ってもらったことが認められる。そうすると、上記の作業は1審被告の本来の業務とは関係のない後援会活動の準備作業を有志で行ったものに過ぎないし、1審原告を敢えてその作業から除外したとも認めがたいから、これを以て1審原告に対するいじめであるとはいえない。
 また、1審被告職員が1審原告に対し、自動販売機の鍵の場所を故意に教えなかったことや、1審被告職員が1審原告に対し、Bの休暇取得を教えなかったり、年末調整のための証明書の提出に応じなかったという事実を認めるに足りる証拠もない。むしろ、証拠(〈証拠略〉)によれば、1審原告が他の職員と必要な会話をせず、何の説明もせず黙って年末調整の申告用紙を他の職員の机の上に置いていくだけというような態度をとり続けたことから年末調整のための証明書の提出が遅れるなどの事態が生じたことが認められる。
 したがって、1審被告職員が1審原告に対するいじめを行っていたとは認められず、これを前提とする1審原告の慰謝料請求は理由がない。
 3 当審において追加された1審原告の請求に対する判断
 前記のとおり、本件解雇処分は有効であり、1審原告は1審被告に対し労働契約上の権利を有しないから、1審原告の1審被告に対する賞与の支払請求及び自販機他管理手当の支払請求は、いずれも理由がない。
 4 結論
 以上によれば、1審被告の控訴は理由があるから、原判決中、1審被告敗訴部分を取り消し、1審原告の請求をいずれも棄却し、1審原告の控訴は理由がないから棄却することとし、当審で1審原告が追加した請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。