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ID番号 : 08885
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 : 日能研関西ほか事件
争点 : 進学塾運営会社の社員が、有給休暇取得についての嫌がらせ等を理由に損害賠償を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 進学塾の運営等会社Yの社員Xが、所属課長により有給休暇を取得する権利の妨害、嫌がらせによる人格権侵害、総務部長及び代表者の有給休暇申請にかかる発言による名誉感情侵害、会社の職場環境整備義務違反等に基づき、課長、総務部長、代表者及び会社を相手取り損害賠償を求めた事案の控訴審である。 第一審神戸地裁は、〔1〕Y側の発言は労働者に認められた有給休暇を取得する権利を妨害する行為と認められるが、継続的なものでなく嫌がらせや報復とは認められない、〔2〕名誉感情を侵害する発言は認められない、〔3〕職場環境整備義務に反したとも認められず、本件評価も、人事権を濫用した不当な評価とは認められないとし、また〔4〕Y側の発言とXの「うつ状態」との間には相当因果関係がないと判断し、民法709条に基づく損害賠償40万円の支払いのみ命じた。これにXが控訴。第二審大阪高裁は、上記〔2〕について、出勤したならばXにするべきことがあるのを認識しながら、何ら合理的な理由もなしに自己の担当業務をXに割り当てた課長の行為は嫌がらせで、Xの人格権を侵害しており、また部長による有給休暇の申請が不適切であるかのような発言は名誉感情の侵害であると認め、〔3〕について、倫理委員会の開催遅延などに職場環境整備義務違反があり、〔4〕については、不法行為や不誠実対応と「うつ病」の間に因果関係があるとして、損害賠償を命じた。
参照法条 : 民法709条
民法715条
会社法350条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /職場環境調整義務
裁判年月日 : 2012年4月6日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ネ)3298
裁判結果 : 原判決一部変更、一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1055号28頁
審級関係 : 一審/神戸地平成23年10月6日/平成21年(ワ)第3771号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐職場環境調整義務〕
 2 被控訴人丁原発言、本件指示1及び本件指示2の違法性の有無・程度(争点(1))について
 (1) 被控訴人丁原発言
 当裁判所も、被控訴人丁原発言は控訴人の有給休暇を取得する権利を侵害する違法行為であると判断する。その理由は、原判決31頁19行目から32頁17行目まで(ただし、原判決32頁16行目の「違法行為に該当するものと認められ、」から17行目末尾までを「違法行為に該当するものと認められる。」と改める。)に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 そうすると、被控訴人丁原は、控訴人が本件有休申請を取り下げて上記同日に出勤したならば、控訴人においてするべき業務があることを認識しながら、何ら合理的な理由がないのに、自己の担当業務を控訴人に割り当てたのであるから、本件指示1は、控訴人が本件有休申請をしたことに対する嫌がらせであり、控訴人の人格権を侵害したものと認められる。
 (3) 本件指示2
 ア 当裁判所も、本件指示2は控訴人に対する嫌がらせ又は報復であるとは認められないと判断する。その理由は、当審における控訴人の補充主張について判断を加えるほかは、原判決33頁17行目から34頁6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 3 被控訴人戊村発言の違法性の有無(争点(2))について
 前提事実のとおり、被控訴人戊村発言は、被控訴人会社の管理職(部長、次長、課長)及び準管理職(教室長)が出席する本件室長会議において、被控訴人戊村が、本件取下げに関して、被控訴人丁原の言動は理解できるなどと述べるとともに、控訴人が同窓会の日である平成20年7月20日に有給休暇の申請をしたことを指摘した上で、上記有給休暇申請に関して、労働基準監督署の監督官の「私が先生なら同窓会に参加します。」との発言を引用したものである。被控訴人戊村は、当時、被控訴人会社の総務部部長であって、有給休暇申請に対する時季変更権を有しており(弁論の全趣旨)、被控訴人会社の従業員の有給休暇申請について、管理職の対応を指導すべき立場にあったから、被控訴人丁原発言が違法であることや、控訴人の同窓会の日の有給休暇申請についても、被控訴人会社が上記申請を拒絶できる合理的な理由は何ら存在しないこと(実際、控訴人の上記申請に対して、被控訴人会社は時季変更権を行使していない。)を認識しながら、敢えて被控訴人丁原発言を擁護して、本件有休申請について控訴人にも問題があるかのような発言をするとともに、控訴人の同窓会の日の有給休暇申請についても、労働基準監督署の監督官の発言を引用して、上記申請が不適切であるかのような発言をしたのであるから、被控訴人戊村発言は控訴人の名誉感情を侵害するものと認められる。〔中略〕
 4 被控訴人代表者発言2の違法性の有無(争点(3))について
 前提事実のとおり、被控訴人代表者発言2は、被控訴人丁原の控訴人に対する行為がパワーハラスメントとは思わないし、それに引き続いて、有給休暇はよく考えてから申請すべきであるとの内容であるところ、同内容は、本件有休申請を取り下げさせるなどした被控訴人丁原の行為を肯定し、それに伴って、被控訴人丁原の行為が違法であると主張した控訴人に問題があると指摘する趣旨であるとともに、上記発言に続いて、有給休暇はよく考えてから申請すべきであると述べているのであるから、本件有休申請が不適切であることを当然の前提とするものである。そして、上記2(1)の認定説示のとおり、被控訴人丁原発言は極めて違法性の高い不法行為であり、本件指示1が控訴人が本件有休申請をしたことに対する嫌がらせによるものであって、前提事実のとおり、被控訴人丙川は、被控訴人代表者発言2の前に、本件倫理委員会において、被控訴人丁原発言及び本件指示1がパラーハラスメントであると認定されたことを認識しながら、敢えて上記発言をしたものであるから、被控訴人代表者発言2は控訴人の名誉感情を侵害する意図の下において行われたものと認められる。〔中略〕
 5 被控訴人会社の不法行為の成否(争点(4))について
 (1) 職場環境整備義務に違反した不法行為について
 上記2(1)の認定説示のとおり、被控訴人丁原発言は極めて違法性の高い不法行為であるにもかかわらず、前提事実のとおり、平成20年7月17日の第1回団体交渉において、E部長及び被控訴人戊村は、被控訴人丁原発言を擁護する発言を行うとともに、被控訴人戊村が本件事情聴取の内容を説明できなかったり、同年10月2日の第2回団体交渉の時点においても、E部長が被控訴人丁原発言の確認を怠るなど本件取下げに関する被控訴人会社の対応は不十分であったといえ、そのため、本件倫理委員会の開催が遅延したと認められるから、この点について、被控訴人会社には職場環境整備義務違反があったと認められる。
 なお、控訴人は、被控訴人会社が上記始末書を開示していないし、被控訴人丁原に謝罪もさせていない上、被控訴人丁原を研修課課長に異動させたのは本件取下げの問題が発生してから4か月以上経過した後である点も、職場環境整備義務違反である旨主張する。しかし、本件有休申請を取り下げさせたことなどの被控訴人丁原の行為に対する懲戒処分をどのようにするか、始末書の開示の有無あるいは被控訴人丁原に対して謝罪させるか否かについては、被控訴人会社に一定の裁量権があると解されるから、被控訴人丁原を訓戒処分にしたこと、あるいは、始末書を開示しなかったことや被控訴人丁原に謝罪させなかったことが被控訴人の上記裁量権を逸脱するものであるとまでは直ちにいえず、控訴人の上記主張は採用できない。
 (2) 平成20年度冬季賞与支給に関する不法行為について
 ア 当裁判所も、被控訴人会社が本件評価に基づいて平成20年度冬季賞与を支給した行為は不法行為に該当するとは認められないと判断する。その理由は、以下のとおり補正し、当審における控訴人の補充主張について判断を加えるほかは、原判決36頁2行目から37頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 6 控訴人の損害及び被控訴人らの行為との因果関係の有無(争点(5))
 (1) 上記認定のとおり、控訴人は、平成20年7月17日の第1回団体交渉後、倦怠感を感じるようになり、同月24日、「うつ状態」と診断されたところ、前提事実及び上記認定のとおり、控訴人は、被控訴人丁原から本件有休申請を取り下げさせられた上、本件指示1により、嫌がらせによる業務を命じられ、そのため、被控訴人丁原の行為を問題とし、第1回団体交渉が行われたが、その際、被控訴人戊村発言がなされていたことが判明するとともに、E部長及び被控訴人戊村が被控訴人丁原発言を擁護する発言をしたものである。このような事実経過に照らすならば、第1回団体交渉後、被控訴人会社において、更に不利益な対応を受ける可能性があると思い悩み体調が悪化したとの控訴人の供述(原審控訴人本人尋問調書)は首肯できるものであって、被控訴人丁原の不法行為、被控訴人戊村発言及び第1回団体交渉における被控訴人会社の不誠実対応と控訴人の「うつ状態」との間には因果関係があると認められる。
 (2) 控訴人の慰謝料については、上記認定説示及び本件の一切の事情を勘案すると、被控訴人丁原の不法行為(本件有休申請を取り下げさせた行為及び本件指示1)については60万円、被控訴人戊村の不法行為(被控訴人戊村発言)については20万円、被控訴人丙川の不法行為(被控訴人代表者発言2)については20万円、被控訴人会社の不法行為(職場環境整備義務違反)については20万円と認めるのが相当である(被控訴人会社は、被控訴人丁原及び被控訴人戊村の上記各不法行為について、民法715条の使用者責任を、被控訴人丙川の上記不法行為について、会社法350条の損害賠償責任をそれぞれ負う。)。