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ID番号 : 08888
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : シーテック事件
争点 : 派遣事業会社に整理解雇された技術系派遣労働者が地位確認、賃金支払いを求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 派遣事業会社Yから整理解雇された技術系派遣労働者Xが、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金の支払を求めた事案である。 横浜地裁は、〔1〕本件解雇時、Yにおいては、関連会社に対する貸付けを放棄したり、支払債務と貸付金の相殺を行ったりしていないことを考慮すると切迫性には検討の余地はあるものの、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難いこと、〔2〕人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができないこと、〔3〕勤務状況や本人の技術、経歴等について一切検討することなく、契約が終了し、待機社員になるという事実のみをもって整理解雇の対象としたと認められ、人選基準が客観的な合理性を有していたということはできないこと、〔4〕一定の説明及び協議を行っていることや、組合分会との間で複数回の交渉を経て合意に至っている経緯を総合すれば、Yの対応が明らかに相当性を欠くとまではいうことができないと認定した。その上で、これらを総合的に考慮すると、本件解雇は就業規則の「経営上やむを得ない事由のあるとき」に該当すると認めることができず解雇は無効として、Xの労働契約上の地位を認め請求を認容した(ただし、将来請求部分は「あらかじめその請求をする必要」があると認めることができないとして却下)。
参照法条 : 労働者派遣事業法34条
労働者派遣事業法30条
労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) /整理解雇 /協議説得義務
裁判年月日 : 2012年3月29日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)3419
裁判結果 : 一部認容、一部棄却、一部却下
出典 : 労働判例1056号81頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
(2) 人員削減の必要性〔中略〕
 被告は、本件解雇当時、当月に支払を要する賃金額と同額の現預金のみを有していたところ、ラディアグループの信用が悪化する中で、被告が金融機関から新たに借入れを行うことは困難であったことが推認され、本件解雇当時、被告が貸付けとして計上していたグループ会社への長期貸付も回収困難であったこと、また、雇用調整助成金を申請しても給付が数か月後になることが見込まれたこと(〈人証略〉)から、被告が資金繰りに窮していたことが認められる。
 これらの事情を考慮すると、本件解雇当時、被告において、支出の相当割合を占める人件費を削減することが求められていたというべきであり、後記ウのとおり、被告が、ラディアに対する貸付けを放棄し、ラディアに対する経営指導料等の支払債務とラディアに対する貸付金の相殺を行っていないことを考慮すると、切迫性には検討の余地はあるものの、被告において、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難い。
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の回避努力義務〕
 (3) 解雇回避努力
 ア 第3・1(3)のとおり、被告は、平成20年10月以降、間接部門の従業員を対象に希望退職の募集をしたり、技術社員の一時帰休を実施したり、新規採用中止を決定したり、事務消耗品購入の禁止、時間外労働の削減などにより経費を削減し、また、利益がない場合であっても派遣先との契約を締結する方針を取るなどして契約数を増やすための努力をしていたことが認められる。
 しかし、被告は、原告を含む技術社員に対しては希望退職の募集も行わないまま、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員及びそれ以降に待機社員となる全ての技術社員を対象に、整理解雇を実施することを決定し、同月3月17日以降、技術社員が待機社員になる都度、解雇通知を行っていたのであって、被告が整理解雇の実施に当たって削減人数の目標を定めていたかも明らかではない。また、第3・1(3)ア(イ)のとおり、被告では、本件解雇の通知前である同年4月に整理解雇により2774人及び同年1月ないし同年4月に退職勧奨等により1309人の人員削減が終了していたところ、それ以降、さらに整理解雇を実施する必要性があるか否かについて真摯に検討したことが証拠上窺われない。これらの事情からすれば、被告が、本件解雇当時、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができない。
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 (4) 人選の合理性
 整理解雇の対象となる労働者の選定は、客観的に合理的な基準により、公正に行われる必要があるところ、被告は、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員全員及びその後に待機社員になった技術社員全員を整理解雇の対象としており(〈証拠略〉)、整理解雇の対象となる各技術社員の有する技術や経歴等について検討した形跡はうかがわれない。そして、第2・1(2)のとおり、原告は、平成16年8月2日、被告に吸収合併されたティエスティに入社して以来、H社、J社で継続的に稼働してきた者であり、その間、J社では、その正社員とともに部長賞を受賞するなどしていた者であって(原告本人)、原告についても、そうした勤務状況、その有する技術や経歴等について一切検討することなく、同年5月末をもって被告とJ社との契約が終了し、待機社員になるという事実のみをもって、整理解雇の対象としたものと認めることができるのであるから、本件解雇の人選基準が、客観的な合理性を有していたということはできない。
〔解雇(民事)‐整理解雇‐協議説得義務〕
 (5) 手続の相当性
 第3・1(5)及び(6)のとおり、ラディアが、平成21年2月25日、JSGUシーテック分会に対し、追加リストラクチャリングの申し入れをし、以後、団体交渉を経て、同年3月17日、合意に達したこと、被告が、同月末時点における待機社員に対し整理解雇に係る説明会を開催したこと、K課長が、同年4月及び同年5月の2度、原告に対し、整理解雇に係る書類を渡すなどしてラディアの経営状況が悪いために整理解雇を行う旨を説明したことの各事実が認められる。
 上記説明が、被告自身の財務状況の説明を含むものではなかったことなどから、原告にとって必ずしも納得のできるものではなかったことが窺われるものの、被告が一定の説明及び協議を行っていることや、JSGUシーテック分会との間で複数回の交渉を経て合意に至っている経緯を総合すれば、被告の対応が明らかに相当性を欠くとまではいうことができない。
 なお、原告は、JSGUシーテック分会の上部団体の顧問弁護士が、本件訴訟の被告代理人弁護士らと同じ法律事務所に所属しているから、JSGUシーテック分会との交渉をもって手続の正当性が担保されるとは言えないと主張しているが、当該事実だけをもって、被告ないしラディアとJSGUシーテック分会との間の交渉が不当であったと評価するに足りないし、その他に、団体交渉において、JSGUシーテック分会の意思決定の過程が不当であったと認めるに足りる事情はない。
 (6) 本件解雇の有効性
 以上の諸事情を総合的に考慮すると、被告において、本件解雇に先立ち、解雇回避努力を十分に尽くしたと認めることはできず、本件解雇の対象者の人選についても合理性があると認めることができないから、本件解雇の時点で、切迫性はともかく、被告に人員削減の必要性があったと認められること及び被告の本件解雇を含む整理解雇に係る従業員や労働組合に対する協議・説明が明らかに相当性を欠くとはいえないことを考慮しても、整理解雇の一環として行われた本件解雇は、本件就業規則19条6号の「経営上やむを得ない事由のあるとき」に該当すると認めることができない。したがって、本件解雇は無効であって、原告は、被告に対して、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。〔中略〕
 3 賃金支払請求について〔中略〕
 エ 以上から、原告の被告に対する賃金支払請求は、平成21年4月ないし同年6月の賃金の平均額25万3200円から職務担当手当相当額3万円及び赴任手当相当額2万円を控除した額である20万3200円の支払いを求める限度で理由がある(なお、第3・1(7)イのとおり、平成21年5月には赴任手当として1万8660円のみが支給されているが、同年6月にその他手当として1340円が支給されたところ、この額は同年5月に支給された赴任手当額と同年4月及び同年6月に支給された各月2万円の赴任手当の額との差額に合致するから、同年5月に赴任手当が一部不足して支給されており、不足分が同年6月に支給されたものと推認される。)。
 (2) ところで、原告は労働契約に基づく賃金支払請求として、その終期を定めないで毎月の支払を請求するが、そのうち本判決確定の日の翌日以降の支払を求める部分は、将来請求であり、民事訴訟法135条に定める「あらかじめその請求をする必要」があると認めることができないから、訴えの利益を欠くというべきであり、当該部分に係る訴えは却下すべきである。