全 情 報

ID番号 : 08899
事件名 : 残業代等請求控訴事件(4760号)、附帯控訴事件(6184号)
いわゆる事件名 : 阪急トラベルサポート事件
争点 : 旅行会社に添乗員として勤務する派遣社員が未払時間外割増賃金と付加金等の支払いを求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 派遣会社Yに登録型派遣社員として雇用され、旅行会社Aに添乗員として派遣されていたXが、添乗業務につき未払いの時間外割増賃金があると主張して、その支払いと付加金、遅延損害金の支払いを求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、本件添乗業務には事業場外労働時間のみなし制の適用があるとした上で、一定部分の未払時間外割増賃金があると認め、付加金、遅延損害金も命じた。これに対しXが控訴、Yも附帯控訴した。 第二審東京高裁は、まずXには旅行会社Aの具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当であるとした上で、派遣先の旅行会社Aにおいては、指示書等に記載された具体的な業務指示の内容を前提にして、実際に行われた旅程管理の状況についての添乗日報の記載を補充的に用いることにより、本件添乗業務についての添乗員の労働時間を把握するについて、その正確性と公正性を担保することが社会通念上困難であるとは認められないというべきであるとして、本件添乗業務は、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは認められず、事業場外労働時間のみなし制の適用はないと解するのが相当であるとして、第一審判決を破棄し、割増額を再算定して支払いを命じた(付加金も認容)。
参照法条 : 労働基準法(平成20年法律第89号による改正前)38条の2
労働基準法32条
労働基準法35条1項
労働基準法114条
労働基準法施行規則12条の2第2項
体系項目 : 労働時間(民事) /事業場外労働 /事業場外労働
雑則(民事) /付加金 /付加金
裁判年月日 : 2012年3月7日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)4760/平成22(ネ)6184
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(4760号)、附帯控訴棄却(6184号)
出典 : 労働判例1048号6頁/労働経済判例速報2138号3頁
審級関係 : 一審/08808//東京地平成22.7.2/平成20年(ワ)第20502号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)‐事業場外労働‐事業場外労働〕
 すなわち、前判示のとおり、添乗日報は、指示書等によって予め阪急交通社から示された具体的な業務指示に従って実際に行った旅程管理の状況について作成されるものであり、旅程管理の実施の際に指示書等記載の旅程について合理的な理由に基づく変更が加えられることがあって、添乗日報の記載の方が詳細であることが多いとはいえ、その記載内容の合理性については指示書等の記載と対照することで相当程度判断できるものと認められる。その上、各ツアーの出発時刻、到着時刻は、いずれの運送機関を利用する場合でも客観的に把握できる性質のものであり、しかも、添乗員は、出発から到着まで旅程中、ほとんどの時間においてツアー参加者と行動を供にし、運送機関、観光地や観光施設、宿泊施設等において乗務員、店員、フロントの係員と接触しながら移動しているため、添乗員の旅程管理については多くの現認者が存在するのであって、虚偽の記載をした場合にはそれが発覚する可能性が高く、また、阪急交通社において記載内容の合理性に疑問をもった場合、添乗員に問い質すほか、これらの者や施設に確認することも可能であると認められる。さらに、添乗員が指示書等により業務指示を受けた最終日程表に記載された旅行日程を合理的な理由なしに実施せずに、これを実施した旨の虚偽の記載をした場合には、参加者が契約の不履行であるとして旅行主催会社である阪急交通社に苦情を申し出たり、アンケートに記載する可能性が高いところ、阪急交通社は添乗員が参加者から回収したアンケートを添乗日報とともに提出させているのである。そして、上記の各旅行日程は、旅行主催会社である阪急交通社の参加者に対する契約上の義務履行の内容を成すものであるから、阪急交通社は、上記義務履行に遺漏なきを期し、参加者に質の良いサービスを提供するためにも、その履行内容としての添乗員による旅程管理の正確かつ詳細な実施状況を把握する必要性が高いことからすれば、その把握に日常努力を払っているものと推認されるのである。
 もっとも、添乗日報に記載された出発時刻、到着時刻等は指示書等に記載された出発時刻、到着時刻等と完全には一致しない場合があることが認められるものの、前判示のとおり、指示書等に記載されたこれらの時刻は、当該ツアー当日の天候、道路の渋滞状況、列車や航空機の運航状況、参加者の状況等の様々な要素によって変わり得るものであり、また、旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは、必要最小限において旅行日程を変更することもあることから、合理的な理由による変更可能性を有するものであることに照らすと、上記不一致をもって、直ちに添乗日報の記載そのものの正確性、信用性が失われるものではない。
 また、1審原告が作成した本件各ツアーに係る添乗日報には、宿泊施設で夕食をとる場合の会食の終了時刻の記載が漏れている例も認められるが、指示書等の記載と対照すればこれらの時刻を相当程度把握することができ、しかも、業務上の指示により添乗日報に上記時刻の記載を徹底させることが困難であるとは認められないのであるから、この記載漏れをもって、添乗日報が添乗員の労働時間を把握するについて補助的に利用する資料として不適格であるということはできない。
 そうすると、派遣先である阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいる1審原告の本件添乗業務について、このような状況下で作成される添乗日報における到着時刻や出発時刻等の記載には、指示書等と対照して労働時間を正確かつ公正に算定するに足りる信用性を裏付ける客観的な状況があるというべきであり、1審原告が作成した本件各ツアーに係る添乗日報の記載についても、その信用性を疑わせるような事情は認められない。
 以上の点に、添乗員は、実際にツアー参加者に対する説明、案内等の実作業に従事している時間はもちろん、実作業に従事していない時間であっても、ツアー参加者から質問、要望等のあることが予想される状況下にある時間については、これに対応できるようにする労働契約上の役務の提供を義務付けられており、そのような時間も労基法上の労働時間に含まれることなど後記3判示の本件添乗業務における労働時間の内容を総合すれば、本件添乗業務において、阪急交通社は、指示書等に記載された具体的な業務指示の内容を前提にして、実際に行われた旅程管理の状況についての添乗日報の記載を補充的に用いることにより、本件添乗業務についての添乗員の労働時間を把握するについて、その正確性と公正性を担保することが社会通念上困難であるとは認められないというべきである。
 したがって、本件添乗業務について、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは認められず、本件添乗業務に事業場外労働時間のみなし制の適用はないと解するのが相当である。
〔労働時間(民事)‐事業場外労働‐事業場外労働〕
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
 7 まとめ
 以上によれば、1審原告の未払時間外割増賃金等についての支払請求は、15万8225円及びうち4万3542円に対する平成20年1月26日から、うち11万4683円に対する同年2月26日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、付加金についての支払請求は、15万8225円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。