全 情 報

ID番号 : 08900
事件名 : 残業代金等請求、残業代等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 阪急トラベルサポート事件
争点 : 旅行会社に添乗員として勤務する派遣社員らが未払時間外割増賃金と付加金等の支払いを求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 派遣会社Yに登録型派遣社員として雇用され、旅行会社Aに添乗員として派遣されていたX1ら6名が、添乗業務につき未払いの時間外割増賃金があると主張して、その支払いと付加金、遅延損害金の支払いを求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、本件添乗業務に事業場外労働時間のみなし制の適用を認め、一部支払を命じた。これに対しXY双方が控訴。第二審東京高裁は、添乗日報での到着時刻や出発時刻等の記載には、指示書等と対照して労働時間を正確かつ公正に算定するに足りる信用性を裏付ける客観的な状況があり、説明、案内等の実作業に従事している時間はもちろん、実作業に従事していない時間であっても労働契約上の役務の提供を義務付けられており、旅行会社Aが添乗員の労働時間を把握するについて、その正確性と公正性を担保することが社会通念上困難であるとは認められないとし、したがって労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらず、みなし制の適用はないと解するのが相当であるとして時間外割増賃金の支払いを認めた。また付加金については、Yの労基法違反の態様、Xらの不利益の性質等諸般の事情を総合考慮すると、Xらの未払金と同一の額から違反時から2年以内に請求されていない額を控除した額と同一額の付加金の支払いが相当として、これを認めた。
参照法条 : 労働基準法114条
労働基準法37条
労働基準法(平成20年法律第89号による改正前)38条の2
体系項目 : 労働時間(民事) /事業場外労働 /事業場外労働
雑則(民事) /付加金 /付加金
裁判年月日 : 2012年3月7日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)7078
裁判結果 : 原判決変更
出典 : 労働判例1048号26頁/労働経済判例速報2138号21頁
審級関係 : 一審/08816//東京地平成22.9.29/平成20年(ワ)第14042号/平成20年(ワ)第26963号
評釈論文 : 大橋將・労働法律旬報1775号24~31頁2012年9月10日川田知子・労働法学研究会報63巻18号30~35頁2012年9月15日
判決理由 : 〔労働時間(民事)‐事業場外労働‐事業場外労働〕
 すなわち、前判示のとおり、添乗日報は、指示書等によって予め阪急交通社から示された具体的な業務指示に従って実際に行った旅程管理の状況について作成されるものであり、旅程管理の実施の際に指示書等記載の旅程について合理的な理由に基づく変更が加えられることがあって、添乗日報の記載の方が詳細であることが多いとはいえ、その記載内容の合理性については指示書等の記載と対照することで相当程度判断できるものと認められる。その上、各ツアーの出発時刻、到着時刻は、いずれの運送機関を利用する場合でも客観的に把握できる性質のものであり、しかも、添乗員は、出発から到着まで旅程中、ほとんどの時間においてツアー参加者と行動を供にし、運送機関、観光地や観光施設、宿泊施設等において乗務員、店員、フロントの係員と接触しながら移動しているため、添乗員の旅程管理については多くの現認者が存在するのであって、虚偽の記載をした場合にはそれが発覚する可能性が高く、また、阪急交通社において記載内容の合理性に疑問をもった場合、添乗員に問い質すほか、これらの者や施設に確認することも可能であると認められる。さらに、添乗員が指示書等により業務指示を受けた最終日程表に記載された旅行日程を合理的な理由なしに実施せずに、これを実施した旨の虚偽の記載をした場合には、参加者が契約の不履行であるとして旅行主催会社である阪急交通社に苦情を申し出たり、アンケートに記載する可能性が高いところ、阪急交通社は添乗員が参加者から回収したアンケートを添乗日報とともに提出させているのである。そして、上記の各旅行日程は、旅行主催会社である阪急交通社の参加者に対する契約上の義務履行の内容を成すものであるから、阪急交通社は、上記義務履行に遺漏なきを期し、参加者に質の良いサービスを提供するためにも、その履行内容としての添乗員による旅程管理の正確かつ詳細な実施状況を把握する必要性が高いことからすれば、その把握に日常努力を払っているものと推認されるのである。
 もっとも、添乗日報に記載された出発時刻、到着時刻等は指示書等に記載された出発時刻、到着時刻等と完全には一致しない場合があることが認められるものの、前判示のとおり、指示書等に記載されたこれらの時刻は、当該ツアー当日の天候、道路の渋滞状況、列車や航空機の運航状況、参加者の状況等の様々な要素によって変わり得るものであり、また、旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは、必要最小限において旅行日程を変更することもあることから、合理的な理由による変更可能性を有するものであることに照らすと、上記不一致をもって、直ちに添乗日報の記載そのものの正確性、信用性が失われるものではない。
 また、1審原告らが作成した本件各ツアーに係る添乗日報には、宿泊施設で夕食をとる場合の会食の開始時刻、終了時刻や外で夕食をとった後の宿泊施設への帰着時刻等の記載が漏れている例も認められるが、指示書等の記載と対照すればこれらの時刻を相当程度把握することができ、しかも、業務上の指示により添乗日報に上記時刻の記載を徹底させることが困難であるとは認められないのであるから、この記載漏れをもって、添乗日報が添乗員の労働時間を把握するについて補助的に利用する資料として不適格であるということはできない。
 そうすると、派遣先である阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいる1審原告らの本件添乗業務について、このような状況下で作成される添乗日報における到着時刻や出発時刻等の記載には、指示書等と対照して労働時間を正確かつ公正に算定するに足りる信用性を裏付ける客観的な状況があるというべきであり、1審原告らが作成した本件各ツアーに係る添乗日報の記載についても、その信用性を疑わせるような事情は認められない。
 以上の点に、添乗員は、実際にツアー参加者に対する説明、案内等の実作業に従事している時間はもちろん、実作業に従事していない時間であっても、ツアー参加者から質問、要望等のあることが予想される状況下にある時間については、これに対応できるようにする労働契約上の役務の提供を義務付けられており、そのような時間も労基法上の労働時間に含まれることなど後記3判示の本件添乗業務における労働時間の内容を総合すれば、本件添乗業務において、阪急交通社は、指示書等に記載された具体的な業務指示の内容を前提にして、実際に行われた旅程管理の状況についての添乗日報の記載を補充的に用いることにより、本件添乗業務についての添乗員の労働時間を把握するについて、その正確性と公正性を担保することが社会通念上困難であるとは認められないというべきである。
 したがって、本件添乗業務について、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは認められず、本件添乗業務に事業場外労働時間のみなし制の適用はないと解するのが相当である。
〔労働時間(民事)‐事業場外労働‐事業場外労働〕
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
 5 付加金について
 (1) 以上のとおり、1審被告は、前記4判示の時間外割増賃金等を支払わず、労基法37条の規定に違反したものと認められ、1審原告らは、未払時間外割増賃金等と同額の付加金の支払を求めるところ、1審被告の労基法違反の態様、1審原告らの不利益の性質、内容等諸般の事情を考慮すると、1審原告らの上記未払金と同一の額から違反のあった時から2年以内に請求されていない額を控除した額(労基法114条ただし書)と同一額の付加金の支払を命ずるのが相当である。
 以上によれば、1審被告の支払うべき付加金の額は、1審原告Y1につき259万6023円、1審被告Y2につき224万0622円、1審被告Y3につき289万6152円、1審被告Y4につき106万0806円、1審被告Y5につき158万9159円、1審被告Y6につき226万9675円となる。