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ID番号 : 08914
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 全日本海員組合事件
争点 : 解雇の無効を確認した確定判決に反して自宅待機とされた海員組合員が組合と役員を訴えた事案(組合員勝訴)
事案概要 : 解雇の無効を確認した確定判決に反し2度の自宅待機を命じられたとして、組合執行部員Xが海員組合Y1に対し待機命令無効確認と役職手当の支払いを、組合役員Y2、Y3には、主位的に継続的不法行為に基づく損害賠償を、予備的に通常の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、自宅待機命令は、業務命令権の濫用であるが、Xに就労請求権を認めることができないとして無効確認を求める訴えを不適法として却下する一方、Y1に役職手当の支払いを命じ、Y2、Y3の損害賠償請求を認容した。Yらが控訴。Xも附帯控訴。第二審東京高裁は、自宅待機命令は、Y1が使用者としての立場からXに発した業務命令であることは明らかであり、その違法無効を主張するXには確認の利益があるとした上で、〔1〕第1回人事決定が、前訴の確定判決によって復帰したXの地位を直ちに変更するものであり、Xの原職復帰を阻む強い意志がうかがわれること、〔2〕本件提訴と機を一にしてなされた第2回人事決定では、Xを執行部員に戻しながら、自宅待機命令は継続されていること、〔3〕Y1において、Xを執行部員として職務に復帰させ就労させるための努力を払ったとは認められない等の事情から、2度の自宅待機命令には業務上の必要性や合理性が認められず、〔4〕既に自宅待機が長期にわたり多大な不利益を被っていることから、2度の自宅待機命令はいずれも業務命令権の濫用であって無効なもの、と認定した。
参照法条 : 民事訴訟法134条
民法709条
民法719条
労働契約法16条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /自宅待機命令・出勤停止命令
解雇(民事) /解雇権の濫用 /解雇権の濫用
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2012年1月25日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ネ)6099
裁判結果 : 控訴棄却、附帯控訴一部認容、一部棄却
出典 : 労働経済判例速報2135号3頁
審級関係 : 一審/東京地平成23.8.9/平成22年(ワ)第25155号
評釈論文 : 大木正俊・季刊労働法238号186~196頁2012年9月
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐自宅待機命令・出勤停止命令〕
 当裁判所は、本件自宅待機命令の無効確認を求める被控訴人の請求は理由があり、被控訴人の役職手当の支払を求める請求も理由があるが、控訴人B及び控訴人Cに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、金220万円及び内金110万円に対する平成22年3月18日から、内金110万円に対する同年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を命ずる限度で理由があるが、その余は理由がないものと判断する。
 その理由は、次の1のとおり、原判決を補正し、2のとおり、当事者双方が当審において追加又は敷衍した主張に対する判断を付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
 1 原判決の補正
 原判決書13頁26行目の「本件においては、」から同14頁9行目の末尾までを次のとおり改める。
 「 しかしながら、本件自宅待機命令は、控訴人組合が使用者としての立場から被控訴人に発した業務命令であることは明らかである。そして、被控訴人は、これにより、出勤に代えて自宅待機を義務付けられていることになるから、その違法無効を主張する被控訴人には、無効確認につき確認の利益があるというべきである。
 そして、本件自宅待機命令が業務上の必要性なく発せられたり、他の不当な動機・目的をもって発せられたような場合は、使用者の裁量を逸脱濫用するものであって、無効となるものと解される。
 すなわち、本件自宅待機命令がいかなる場合に無効となるかは、業務命令としての必要性、動機・目的、本件自宅待機命令が被控訴人に与える影響の程度等を総合的に考慮して判断されるべきである。
 そこで、この点につき検討するに、後記四の1、2(争点4に対する判断)のとおり、〈1〉第1回人事決定が、前訴の確定判決によって復帰した被控訴人の地位を直ちに変更するものであり、被控訴人の原職復帰を阻む強い意志がうかがわれること、〈2〉本件提訴と機を一にしてなされた第2回人事決定では、被控訴人を執行部員に戻しながら、自宅待機命令は継続されていること、〈3〉控訴人組合において、被控訴人を執行部員として職務に復帰させ、就労させるための努力を払ったとは認められないこと等の事情にかんがみれば、第1回及び第2回自宅待機命令には、いずれも、業務上の必要性や合理性が認められないというほかない。そして、〈4〉被控訴人の自宅待機が既に長期にわたっており、被控訴人は、必要性や合理性が認められない命令により、多大な事実上の不利益を被っていることを併せ考えれば、第1回及び第2回自宅待機命令は、いずれも、業務命令権の濫用であって、無効なものというべきである。」
〔解雇(民事)‐解雇権の濫用‐解雇権の濫用〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 2 当事者双方が当審において追加又は敷衍した主張に対する判断
 (一) 控訴人組合は、甲33(略)の辞令は、「日本船員福利雇用促進センター派遣(部長待遇)を命ずる。」と記載されており、これは、日本船員福利雇用促進センターに派遣されていることを条件に部長待遇にするというものであるから、その職を解かれた被控訴人に役職手当の請求権はない旨主張する。
 しかしながら、1度与えた部長待遇を失わせることは、降格処分にほかならないところ、このような処分は何らの合理性がなく、違法であるから、被控訴人は、役職手当請求権を有しているということができる。
 (二) 控訴人B及び控訴人Cは、被控訴人の行動が規約70条B項2号(書証略)に定める執行部員の義務に反することから、本件自宅待機命令は、必要性があると主張するが、これによる具体的な損害やその発生の危険は明らかにされていないし、同控訴人ら主張の事実が規約70条B項2号(書証略)に定める執行部員の義務に反するとまでは認められないことは前示のとおりである。
 また、ブログによる記事の記載中には、控訴人ら主張のような表現が存在し、これによって、控訴人組合が不当な人事を行っているような印象を与えるものや表現としてやや穏当を欠くものとなっていることも事実であるが、全体としてみれば、執行部や人事のあり方についてのコメントとしての域を出ないものというべきである。
 さらに、控訴人B及び控訴人Cが主導的な役割を担った事実はないと主張するが、中央執行委員会による事情聴取も控訴人Bが事実上行い(書証略)、その後の決定をリードしていることが推認されることのほか、控訴人Cも事情聴取の場に出席し、同控訴人らが人事や組合員の昇給その他を主導している事実は、組合員の間では、広く知れ渡っていたものと認められる(書証略)。
 また、同控訴人らは、陳述書における記載を根拠とすることが不当であると主張するが、今回問題となっている配転命令及び自宅待機命令は、前訴における解雇問題を契機にされている一連の控訴人組合の処分ないし業務命令であると見られるから、前訴確定前の同控訴人らの陳述は、本件における被控訴人に対する評価と通じるものがあることは明らかであって、これらの陳述書の記載をもって、被控訴人に対する処遇に主導的役割を果たしたと見ることは相当である。