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ID番号 : 08918
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日本郵便事件
争点 : 雇止めされた郵便事業会社の非常勤職員が、雇用期間中の解雇だと主張して無効を争った事案(労働者敗訴)
事案概要 : 郵便事業会社の非常勤職員Xが、雇用契約の期間途中にされた解雇は無効であるなどとして、同社から訴訟上の地位を承継した日本郵便株式会社Yに対し、地位確認と未払賃金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まずXからの将来請求について、労働契約上の地位確認に係る判決確定後もその賃金請求権の存在を争うことが予想される場合であるなど特段の事情の存する場合でない限り、同判決確定後の賃金をあらかじめ請求する必要があるとは認め難いところ、本件において上記特段の事情を認めるには足らないとして却下した。次に、契約期間中の解雇であったとするXの主張については、Yからの雇止めの通知がされた時点で契約期間は既に終了しており、経過期間中の中途解約ではないとした上で、雇止めは、雇止め理由証明書記載のとおり、Xの長期欠勤による勤務実績に不良があったことによってされたものとみることができ、客観的に合理的な理由があると評価されるから、Xの今までの欠勤経過や、Xが同日をもって契約を終了することにつき了承していたことにも照らすと、同雇止めにより契約を終了することとしたからといって、社会通念上相当であると認められない場合に該当するということはできないから、雇止めが無効とは解されず、本件更新契約は同雇止めにより終了したものと認めるのが相当である、としてXの請求をすべて棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
民法623条
労働基準法9章
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2013年1月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)24685
裁判結果 : 一部却下、一部棄却
出典 : 労働経済判例速報2171号25頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 3 争点(1)(本件更新契約の契約期間)について
 (1) 原告は、平成22年9月24日、Dに対し、「無職になるのは嫌なので働きたい」と述べたことにより、契約更新の申込みに対して承諾があったものとして、その時点で、平成23年3月31日までの契約更新が成立した旨主張する。
 しかしながら、期間満了予告通知書(書証略)の文言、すなわち、同書面が「改めて雇用を希望される場合には、採用担当者までお申し出ください。」などと記載しているにすぎないことに照らすと、そもそも、Cが同書面を原告に交付し、原告に所定期日までに意思表示をするよう申し述べたからといって、意思表示の誘引を超えて、会社から契約更新の申込みの意思表示があったとみることは困難であるといわなければならない上、上記認定に係る平成22年9月24日の原告のDに対する会話内容をみても、原告は、Dに対し、無職になるのは嫌なので働きたいとの気持ちはある旨を述べた程度にとどまっており、Dが、同年10月1日以降本当に働けるか否かといった点や主治医の説明を尋ねるに至ると、原告は、黙ったり、主治医からはあまり動かないようにと言われている旨を述べ、このような状態では同日以降の就労は無理であるからその旨をC課長に報告する旨述べたDに対して、特段の異議を申し述べたり、明確な意思を示すこともなかった。
 してみると、原告から承諾の意思表示があったとみるは困難というほかなく、原告指摘の点から、平成23年3月31日までの契約更新が成立したとみることはできない。
 (2) むしろ、上記認定事実によれば、原告は、平成22年9月27日、C、D及びEと原告方で面談した際、同年10月31日までを契約期限とする旨の「期間雇用社員雇入労働条件通知書」(書証略)及び同日をもって雇止めとする旨の「雇止め予告通知書」(書証略)を受領して、Cからその内容の説明を受けたのに対し、「分かりました」と述べていること、その後、同月27日頃、退職を前提とする秘密保持に係る同年10月31日付「誓約書」(書証略)を作成し、社員証の返還やロッカーを整理してその鍵を返還し、その際、C課長や周りの職員に対して退職のあいさつをし、新たな稼働先の名刺を交付するなどしているといった事実を指摘することができ、これらの点に照らせば、本件更新契約の契約期間は、原告と会社との合意により、同日までとされたものと認めるのが相当である。
 この点、原告は、「分かりました」と述べた点につき、通知書の意味内容について同意して述べたものではなく、書面をもらう際にもらったよなどと述べるのは失礼だからわかりましたと言っただけであるなどと主張し、これに沿う原告本人の供述部分もあるが、前記信用できるCらの証言・陳述に反するといわなければならないし、その他、「誓約書」(書証略)を作成したり、社員証の返還やロッカーの鍵を返還し、退職のあいさつをして新たな稼働先の名刺を交付するなどしていることといった事実にも整合的ではない。その旨述べる原告の上記供述部分は直ちに採用し難い。
 この点、原告は、前記第2、3(1)原告の主張オのとおり主張し、「誓約書」を作成した点等についても争うが、同書面は、その文面上の記載に照らし、退職することが前提となっていたことは明らかであるといわなければならない上、原告主張のように、E課長代理が強いて「誓約書」を作成させたと認めるべき証拠もない。名刺を交付した点について、原告は、原告がかつてしていた事業に関するものを交付したにすぎないとも主張するが、その主張内容自体不自然であり、採用し難い。原告がロッカーの整理や同僚へのあいさつをしていることについて指摘する点も、これらの事実は原告が同日をもって退職となる旨認識していたという限度ではこれを窺わせるものではあるとはいえる。そして、退職届などの直接退職を証する書面が作成されていないことは被告も認めるところではあるが、他方で、上記諸事情もあることに照らすと、退職届が作成されていないからといって、原告が同日をもって契約終了期限とすることについて了承していなかったことになるものでもない。結局、原告の指摘によっても、前記認定は左右されない。
 (3) 以上のとおりであるから、本件更新契約の契約期間が平成23年3月31日までであるとは認められず、むしろ、平成22年10月31日までとするものであったと認められる。これに反する原告の主張は採用することができない。
 4 争点(2)(本件労働契約の終了事由の存否)について〔中略〕
 上記諸点に照らすと、同年10月31日、原告に対してされた雇止めは、雇止め理由証明書(書証略)記載のとおり、原告の長期欠勤による勤務実績に不良があったことによってされたものとみることができ、客観的に合理的な理由があると評価することができる。そして、原告の今までの欠勤経過や、原告が同日をもって契約を終了することにつき了承していたことにも照らすと、同雇止めにより契約を終了することとしたからといって、社会通念上相当であると認められない場合に該当するということはできない。
 してみると、上記事情の認められる本件においては、同雇止めをもって無効と解することはできず、本件更新契約は、同雇止めにより終了したものと認めるのが相当である。〔中略〕
 してみると、これらの原告の指摘によっても、雇止めの正当性が左右されるとみることは困難である。
 ウ その他、原告の指摘をみても、雇止めの正当性を左右すべきものはない。
 (4) 結局、以上のとおりであるから、原告において、継続雇用に対する合理的期待があったとしても、同雇止めをもって無効と解することはできないから、本件更新契約は、同雇止めにより終了したものと認められる。この点に反する原告の主張は採用することができない。
 5 以上によれば、本件訴えのうち本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を求める部分及び同部分に係る遅延損害金の支払を求める部分はこれを却下すべきであり、原告のその余の請求は、その余の点について判断に及ぶまでもなくいずれも理由がないからこれらを棄却すべきである。