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ID番号 : 08932
事件名 : 療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 :
争点 : 輸入貨物のコンテナバン詰作業従事後に退職して肺腺がんで死亡した者の妻が労災を主張した事案(妻勝訴)
事案概要 : 神戸港等において、検数作業員として輸入石渡等の検数作業に従事し、定年退職後肺腺がんにより死亡した労働者の妻Xが、死亡は業務に起因するものであるとして、療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分の取消しを求めた事案の控訴審判決である。 第一審神戸地裁は、Xの請求をいずれも認容したため、国がこれを不服として控訴。 第二審大阪高裁は、平成18年報告書は、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことを、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められる限り、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見が存在する場合と並んで、肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当であるとしているのであって、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見がない場合には、石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したとしても、これを肺がんリスクを2倍に高める指標とみなさないとするものでないことは明らかであるから、平成18年認定基準の定める要件(本件要件)中の「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」との要件は、「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められれば足り、その量的数値は問題としない」という趣旨であり、このような理解の下に定立された原判決基準は相当であるとして、国の主張斥けて控訴を棄却した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法16条
労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 : 労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /療養補償(給付
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /休業補償(給付)
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /遺族補償(給付)
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料
裁判年月日 : 2013年2月12日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成24(行コ)73
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 判例時報2188号143頁
審級関係 : 第一審/神戸地平成24.3.22/平成21年(行ウ)第1号/08893/
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐業務起因性〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐療養補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐休業補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕
 1 当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第6の1ないし4(原判決32頁1行目から50頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (1) 原判決32頁8行目の「19頁」を「21頁」に改める。
 (2) 同33頁10行目の「引き掛かける」を「引き掛ける」に改める。
 (3) 同34頁14行目の「1980年代」を「1980年(昭和55年)代」に改める。
 2 当審における控訴人の主張に対する判断
 (1) 当審における控訴人の主張(1)について
 本件検討会がその検討結果を報告した平成18年報告書の内容は、前提事実6(4)イ(原判決12頁3行目から14頁2行目まで)記載のとおりであり、これによると、「肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿ばく露量の指標としては、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量がこれに該当し、これを示す医学的所見としては、〈1〉石綿肺(第1型以上)、〈2〉乾燥肺重量1g当たり石綿小体5000本以上、〈3〉BALF(経気管支肺胞洗浄液)1ml中石綿小体5本以上、又は〈4〉乾燥肺重量1g当たり石綿繊維200万本以上(5μm超)とするのが妥当と考える。」「職業ばく露とみなすために必要なばく露期間に関しては、諸外国での取扱いを踏まえ、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められ、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことをもって肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当である。」とされている。そして、この検討結果を踏まえて発出された平成18年通達中の平成18年認定基準においては、「次の〈1〉又は〈2〉の医学的所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。ただし、次の〈2〉に掲げる医学的所見が得られたもののうち、肺内の石綿小体又は石綿繊維が一定量以上(乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体若しくは200万本以上(5μm超。2μm超の場合は500万本以上)の石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体)認められたものは、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくとも、本要件を満たすものとして取り扱うこと。〈1〉胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。〈2〉肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること。」という要件に該当する場合には、別表7号7の業務上疾病として取り扱うこととされている(前提事実6(5)イ(ア))。
 平成18年報告書の前記内容からすると、平成18年報告書は、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことを、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められる限り、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見が存在する場合と並んで、肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当であるとしているのであって、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見がない場合には、石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したとしても、これを肺がんリスクを2倍に高める指標とみなさないとするものでないことは明らかである。そして、平成18年報告書の内容を踏まえた平成18年基準が、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あることに加えて要求している医学的所見が「胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること」又は「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」であることからすると、平成18年基準は、平成18年報告書で必要とされた「胸膜プラーク等の石綿ばく露所見」として、明示的に示されていた胸膜プラークの外に、「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」もこれに該当することを明らかにしたといえるのであって、平成18年基準が、平成18年報告書において、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことを肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすための要件として必要とされていなかった25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見の存在を、その要件として付け加えたと理解することは到底できない。このことは、25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見が認められれば、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくとも、本要件を満たすものとして取り扱うこととする旨を規定している平成18年認定基準の前記ただし書からも十分窺い知ることができる。
 以上によると、平成18年認定基準の定める要件(本件要件)中の「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」という要件は、「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められれば足り、その量的数値は問題としない。」という趣旨であると理解すべきであり、このような理解の下に定立された原判決基準は相当である。上記理解が誤りであることを前提とする控訴人の主張は採用できない。
 なお、平成19年認定基準では、「石綿ばく露作業に10年以上従事した場合にも、石綿小体に係る資料が提出され、乾燥肺重量1g当たり5000本を下回る場合には、「乾燥肺重量1g当たり5000本以上」と同水準のばく露とみることができるか、という観点から、作業内容、頻度、ばく露形態、石綿の種類、肺組織の採取部位等を勘案し、総合的に判断することが必要である。」とされているが(前提事実6(6))、これは平成18年認定基準を上記趣旨であると理解する限り、平成18年認定基準とは異なる運用基準を示したものであるとみざるを得ない。そして、この運用基準が、平成18年通達が発出された後に新たに得られた医学的知見に基づき示されたものでないことは、控訴人において、平成19年認定基準は、平成18年認定基準についての理解を明確化したものであると主張するだけで、そのような医学的知見について何らの主張、立証をしていないことからして、明らかであるから、本件検討会の検討結果を踏まえて発出された平成18年通達中の平成18年認定基準とは異なる運用基準を示した平成19年認定基準に合理性があるとは認め難い。