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ID番号 : 08933
事件名 : 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 福生ふれあいの友事件
争点 : 介護・家事サービス会社で介護に従事しその後解雇された者が解雇無効を争った事案(労働者ほぼ勝訴)
事案概要 : 要介護者、高齢者等の介護サービス及び家事サービスの提供等を目的とする会社Yとの労働契約に基づいて介護施設の入居者の介護に従事し、その後解雇されたと主張するXが、未払賃金及び賃金の支払の確保等に関する法律に基づく遅延損害金の支払を求め、さらに、賃金から徴収された金員(会費)について不当利得により返還を求めた事案である。 東京地裁立川支部は、両者には使用従属関係があり、本件要介護者の介護業務に従事させ、その対価として就業時間24時間当たり一定金額の賃金を支払っていたのであるから労働契約が成立していたと認定し、その後Yは格別の事情を示すことなく、介護業務の担当から外す旨通告し、退去を指示したものであり、Xが就業を終了したのは、Yが同日Xに対して本件労働契約に係る解雇の意思表示をしたものと認めるのが相当とした。また解雇につき客観的に合理的な理由を認め難いから、同解雇は無効であって、Xには賃金の支払請求権を有するというべきである、として未払分賃金の支払を命じ(賃金の支払の確保等に関する法律に基づく遅延利息も認定)、Yからの「Xは労働基準法の適用がない「家事使用人」(労基法116条2項)である」旨の主張は斥けた。一方、会費と不当利得については、Xも会費徴収について同意しており不当とはいえないとしてXの請求を棄却した。
参照法条 : 労働契約法2条
労働契約法6条
職業安定法4条
労働基準法116条
民法703条
体系項目 : 労働契約(民事) /成立 /成立
労基法の基本原則(民事) /労働者 /供給労働者
賃金(民事) /賃金の支払の確保等に関する法律 /賃金の支払の確保等に関する法律
賃金(民事) /賃金の支払い原則 /全額払・相殺
裁判年月日 : 2013年2月13日
裁判所名 : 東京地立川支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)899
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 判例時報2191号135頁/労働判例1074号62頁
審級関係 :
評釈論文 : 山下昇・法学セミナー59巻1号125頁2014年1月
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐成立‐成立〕
〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐供給労働者〕
 (1) 使用従属関係ないし指揮命令関係
 ア 被告と原告
 前記一(1)、同(4)イ、同(5)及び被告代表者の尋問の結果によると、平成一八年一二月二日、被告が原告に対する面接を行い、履歴書やヘルパー二級の資格証を確認するなどした上、原告に対し、本件要介護者との直接交渉をしない旨、就業場所の指定・変更(配置換え)の指示に従う旨、本件要介護者からの仕事の継続依頼は被告に相談する旨などを誓約させて、同月五日、本件要介護者の居室での仕事を紹介し、原告が就業を開始したこと、被告が原告に対し、Aで就業する際の行儀作法の指導のため、介護に関する注意事項や被告指定の日時以外のAへの立入りの禁止などを指示した書面を多数交付していたこと、原告は休暇取得に際して事前に被告に申し出るものとされていたこと、原告らヘルパーは、担当する入居者の指定・変更、就業の停止など業務に関する被告の指示を拒否できなかったこと、原告は、被告の指示により、本件要介護者の居室での労働を終了したことが認められ、これらの事実によると、被告は、原告に対して仕事を紹介するか、当該紹介に係る仕事を継続させるか否か等を決定できたのであって、原告は、被告の仕事の紹介・依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由がなく、本件要介護者への紹介がなされた後も被告の指示・命令に服する地位にあり、被告の指示の下で本件要介護者の居室で労働に従事していたというべきである。
 イ Aと原告
 前記一(3)ア、同(4)アないしウ、証人乙山松子の証言、被告代表者及び原告本人の各尋問の結果によると、原告は、要介護度4と認定されていた本件要介護者に対し、本件サービス計画書に従い、日常家事や健康管理に加え、食事介護、排せつ介助、おむつ交換、入浴介助など起床から就寝後までの介護を含む身の回りの世話をほぼ一人で行ったこと、寮母は、入浴の介助、毎日の声掛け等以外に具体的な介護を行うことがなかったこと、本件要介護者の心身の状態は、原告が本件要介護者の居室での労働に従事していた期間に明らかな改善はなく、原告の本件要介護者に対する介護内容も変化がなかったこと、Aは原告に対し、介護のやり方などヘルパー業務全般に関して指示・注意を行い、原告は、制服を着用の上、タイムカードの打刻、上記のとおりの身の回りの世話の実施、個人経過表の記録・提出など上記指示・注意を遵守し、労働に従事したことが認められ、これらの事実によると、原告は、Aでの労働に従事している間、Aの指示を遵守しながら、本件要介護者に対して本件施設介護サービス及びヘルパーサービスを提供し、Aの指揮命令の下で労働に従事していたというべきである。
 ウ 本件要介護者と原告
 前提事実(3)、前記一(3)、同(4)及び乙第一九号証によると、本件施設介護サービスは、介護保険法施行後の平成一二年五月三一日ころから介護給付に係る介護サービスに、平成二〇年六月一日以降は特定施設入居者生活介護に該当し、本件サービス計画書も介護保険法八条一一項の計画に該当するといえ、Aが指定居宅サービス事業者として提供する性質のものと認めるのが相当であるところ、ヘルパーサービスは、前記一(3)イのとおり本件施設介護サービスでは提供されない家事サービス等を内容とするものであるが、両サービスは併せて入居者の身の回りの世話全般を行うものとして密接な関係にあり、実際にも原告が一人で事実上担当していたことに照らすと、本件要介護者に対する両サービスは実質的に一体のサービスであったというべきである。そうすると、原告が両サービスを提供する債務の主体であったと認めることは困難であり、被告代表者も原告をAの一員(職員)として介護業務に従事しているものと認識していたこと(甲五の六、被告代表者尋問の結果)を考慮すると、原告は、本件要介護者とは契約関係になく、Aの指揮命令を受ける立場にあって、本件要介護者は、上記のとおりAの指揮命令の下で原告が提供する本件施設介護サービス及びヘルパーサービスの利用者にすぎなかったと解するのが相当である。
 エ 上記アないしウの認定・説示に加え、前記一(2)アのとおり、Aが平成一九年一〇月まで原告に交付していた納品書には「ヘルパー派遣料」と記載されていたこと(同時点の前後で原告の就労形態に変化はない。)、上記ウのとおり、被告は、原告がAの指揮命令を受けて労働に従事していることを認識していたことを総合すると、原告の労働に係る指揮命令関係は、被告が自己と実質的な使用従属関係にある原告を、Aの指揮命令の下に置き、Aのために労働に従事させるものであったと認めるのが相当である。〔中略〕
 (3) 本件労働契約の成立
 (4) 以上によれば、原告と被告との間には、本件労働契約が成立していたというべきである。
〔賃金(民事)‐賃金の支払の確保等に関する法律‐賃金の支払の確保等に関する法律〕
  (ウ) 前記三のとおり、原告は被告との労働契約を終了していることから、被告は、原告に対し、賃金の支払の確保等に関する法律に基づき、上記未払賃金について、平成二一年四月二七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による遅延利息を支払う義務を負うというべきである。
〔解雇(民事)‐解雇事由‐業務命令違反〕
 イ なお、被告は、原告に対し、労働基準法の適用がない家政婦の仕事を紹介したことを前提としていることから、原告が労働基準法の適用除外の対象となる「家事使用人」(同法一一六条二項)に該当するかが問題となるところ、入浴、排せつ、食事の介助等を含む要介護者の介護が日常の家事と同様に軽度の労働ということはできないし、原告が従事した労働は、前記一(4)ア、同イのとおり、要介護度4の認定を受けた本件要介護者に、起床から就寝後まで付添い、日常家事や健康管理に加え、食事介護、排せつ介助、おむつ交換、入浴介助などの介護を行うものであって、その労働は決して軽度とはいえず、同法の適用を除外する合理的理由は認められないから、原告は家事使用人には該当せず、本件労働契約には、労働基準法の適用があるというべきである。
〔賃金(民事)‐賃金の支払い原則‐全額払・相殺〕
 五 会費と不当利得について
 原告が被告と本件労働契約を締結した際、被告から会費について説明を受けた事実を認めるに足りる証拠はないが、甲第一二、第一九号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、被告代表者から就業開始後に会費の徴収について一応の説明を受けたことが認められ、原告が、その説明がされた後も遅滞なく異論を唱えることもなく会費徴収に応じたことを併せ考えると、原告は、不満ながらも、被告の会費徴収について同意していたというべきである。
 そして、乙第一一号証の一ないし三、第一八号証の一ないし六によると、被告がヘルパーらに関する保険に加入して保険料を支払い、またAに対し原告の施設利用に伴う光熱水費を支払っていることが認められること、前記二のとおり本件労働契約が成立しており、原告と被告との法律関係につき職業安定法の適用は問題とならないことを考慮すると、被告の会費の徴収は法律上の原因がないとはいえない。